筋骨格系の痛み

なぜ痛むか?

筋骨格系の痛みやしびれ(麻痺ではない)を心身相関という観点からみると謎が解けてきます。痛みやしびれは悪性腫瘍、感染症、骨折など明らかな外傷を除けばそれはハード(人体)のトラブルではなくソフト(自律神経、情動、習慣、条件反射、記憶、認知の異常)のトラブルなのです。治療はソフトをいかに修正するかにかかってきます。

痛みやしびれはどうして起きるのでしょうか?医師や治療家の説明に本当に納得できましたか?ヘルニアや辷り症や脊柱管狭窄症など構造的な診断がなされることが多いのですが、構造的問題とするには生理学的にも臨床経過的にも疫学的にも矛盾が多いのです。では、痛みやしびれの本当の原因は何なのでしょうか?悪性腫瘍、骨折など明らかな外傷、感染症でなければ、痛みやしびれは心理・社会的なこと、心身医学的なこととしてとらえるべきなのです。不安や怒りや抑うつは筋肉を緊張させます。つまり筋痛症(myalgia)が痛みやしびれの原因のことがほとんどなのです。筋痛症は慢性化、習慣化してしまうことがあります(慢性痛)。正しい知識を身につけて上手に対応してください。

筋骨格系の痛みは構造(器質、organic)の 異常によるものではなく、 生理機能(functional)の異常によるものなのです。その根拠として次のようなことが挙げられます。

  • レントゲンやMRIの画像所見と痛みは一 致しない。
  • 誘因なく痛みが始まることが多い。
  • 痛みの場所が変わることが多い。
  • 保存的治療で改善する。

痛みとはとても個人差の大きなものなのです。他人の痛みを推し量ることは困難です。それは他の感覚と大きく異なる点です。

損傷の大きさと痛みの強さは比例しません。損傷が治ると痛みも治るという保証はありません。構造と痛み、損傷と痛みはいつも分けて考える必要があります。

従来の説明

思い込み、レントゲンやMRIの画像の印象、科学的、理論的、統計的にも説明がつかず矛盾だらけ。

  • 神経が押さえられているから痛い
  • 神経が癒着しているから痛い
  • 軟骨がすりへっているから痛い
  • 椎間板がつぶれているから痛い
  • 腰椎にすべりや分離があるから痛い
  • 骨盤のゆがみがあるから痛い
  • 仙腸関節のずれがあるから痛い
  • 姿勢がわるいから痛い
  • 筋力がないから痛い

科学に基づいた説明

痛みは電気信号なのです。発痛物質が侵害受容器を刺激すると電流が生じます。それが神経繊維を通って脳に伝えられます。脳でその電気信号をいろいろな情報を通して「痛い」と判読しているのです。

神経繊維(電線)が傷んでいても電流が流れなければ痛みを感じません。電流が生じるにはエネルギーが必要です。外力がエネルギーとなるのは外傷初期の鋭い痛みです。

病態時の痛みは情動(心の動き:交感神経の緊張)がエネルギーとなります。

痛みのメカニズムの解明

“痛みは、身体の異常を知らせる大事な警告反応”との観点から、痛みを抑えることは医療の現場においても、あまり積極的ではありませんでした。しかし現在、痛みは病気の回復に悪影響を及ぼし、QOLの低下を招くものとして、積極的に取り除くべきとの理解が広まりつつあります。

アメリカの議会は、2001年からの10年間を「痛みの10年」とする宣言を採択し、国家的なメディカルサイエンス振興策として痛みの研究と医療のより一層の充実を目指しています。この学術ビデオは、ブラジキニンを中心に「痛みのメカニズム」を解明しようとしているわが国の最先端の研究を紹介し、「痛み」に対する取り組みを考えようとするものです。

日本ケミファ株式会社

痛みとブラジキニンー痛み研究の最前線を行くー

この図で「組織酸欠」は私が書き込みました。

痛みの定義とメカニズム

痛覚経路(図1)

なぜこのような関節障害と痛みの症状との大きな乖離がしばしば生じるのであろうか。

「痛み」とは不快な感覚性・情動性の体験であり、「実際の組織障害に伴う痛み」と、「組織障害が治癒した後も生じる痛み」に分けられる。「実際の組織障害に伴う痛み」は炎症を伴う疼痛である。「組織障害が治癒した後も生じる痛み」は組織損傷があるように感じるもので、これが組織障害が治癒しても感じる、あるいは組織障害が非常に軽いのに起こる疼痛である。

痛みのメカニズムを痛覚系経路で考えてみると(図1)、一次痛というのは、侵害刺激が高閾値機械的受容体を介して感覚野や連合野という上位脳に伝わる生理的な感覚の痛みである。

それに対し、二次痛は侵害刺激がポリモーダル受容体という未分化な受容体を介して、最終的に情動や感情を司る大脳辺縁系に伝わる痛みである。この二次痛を放置していると痛覚過敏状態を生じ、より情動的な痛み(不安を感じさせたり、不快感を与える)として記憶される。

過敏状態が生じるメカニズムは、侵害刺激がポリモーダル受容体において感知されるとサブスタンスPなどの神経ペプチドが分泌され、神経性炎症が起こり、この神経性炎症が再び侵害刺激を引き起こすという悪循環を生じ、痛覚過敏状態に至ると考えられている(図2)。

ポリモーダル受容体(図2)

ポリモーダル受容器終末の模式図

神経性炎症・軸索反射


痛みにおけるPGE2とBKの役割

このように炎症と痛みは近い存在ではあるが、イコールではない。炎症と痛みに関与する最も重要な物質としてはプロスタグランジンE2(PGE2)とブラジキニン(BK)が知られている。PGE2は炎症に対しては直接作用するが、疼痛に関しては直接的な作用はほとんどない。一方、BKは、侵害刺
激を伝えるポリモーダル受容体の最も強い刺激物質であることがわかっている。

すなわち、発痛物質として最も重要な役割を果たしているのはBKであり、PGE2は、このBKの受容体への作用を増強することによって間接的に発痛作用を示す物質である。

したがって、PGE2合成抑制により、BKの痛覚受容体刺激作用が抑制され、間接的に疼痛が緩和されるわけである。

より確実な疼痛抑制効果が期待できるザルトプロフェン

関節リウマチ患者を対象に行った鎮痛剤に関する私どもの調査によれば、鎮痛剤に最も望むことは早い効き目と持続的な効果であり、それらは患者の満足度につながることが示されていた。

従来のNSAIDsはPGE2合成抑制作用によって、除痛を図る薬剤である。したがって、炎症や炎症を伴う痛みには直接的な効果が期待できるが、ポリモーダル受容体を介する二次痛に対しては直接的な効果は期待できない。

しかし、ザルトプロフェンには従来のNSAIDsと同様のPGE2合成抑制による抗炎症作用に加えてBKの直接的なポリモーダル受容体への刺激を抑制する効果が認められている(図3)。

ザルトプロフェンの作用(図3)

本文と図1,2,3は第78回日本整形外科学会学術集会ランチョンレクチャー「整形外科領域で用いる消炎鎮痛薬の使い分け」より演者 石黒直樹先生(名古屋大学 整形外科教授)

 痛みの悪循環

筋骨格系の痛みの多くは侵害受容性疼痛です。これは発痛物質が痛覚神経の末端のセンサー(侵害受容器)を刺激しているため起きる痛みです。痛みが続くとセンサーは次第に過敏になります。(末梢性痛覚過敏)発痛物質が産生される理由は「酸欠というダメージ」によります。構造異常が原因で発痛物質が作られることはありません。つまり構造異常が原因で侵害受容性疼痛を起こすことはありません。

東京大学医学部附属病院麻酔科・痛みセンター教授の花岡一雄氏(日本医師会雑誌「疼痛コントロールABC」より)

(痛みの第一現場、第二現場は私が書き込みしました)

ほとんどの腰痛、頚痛、四肢痛はこの図で説明されます。

筋骨格系の痛み(侵害受容性疼痛)はこの2つの現場の情報のやりとりなのです。そこには構造が関与する要素はありません。痛みが慢性化するのは脳や脊髄後角で痛みの情報が記憶されるということで、慢性化とともに第二現場の責任が大きくなります。

宮崎東洋先生(日本医師会雑誌「疼痛コントロールABC」より)

 

外力やストレスが引き金になって生じた痛みがうまくコントロールされないと不合理なことが次々と起こって「痛みの悪循環」に陥ることがあります。

慢性痛:6ヶ月以上続いている痛み。末梢の痛覚受容器は過敏になり、中枢では痛みの情報が記憶されるようになる。慢性の痛みにならないためにも痛みの早期遮断は大切です。

 

痛みの伝導路

 

早い痛み(図の赤):怪我をしたとき瞬間的に感じる鋭い痛み。 いわゆる感覚としての痛み。脊髄後角にある[痛みのゲート]を閉じる作用があり痛み刺激が伝わりにくくなる。

遅い痛み (図の青)怪我をしたときなどに後からくるジワジワ とした痛み。いわゆる情動としての痛みで、 この痛みが人を悩ませる。状況や個人によって痛みの強さに差がある。 意識、自律神経、内分泌、情動、記憶と 関連する。脊髄後角にある[痛みのゲート]を開く作用があり痛み刺激が伝わりやすくなる。

痛みが慢性化するのはなぜか?

ゲート・コントロール理論

脊髄後角にある[痛みのゲート]は、中枢の コントロールを受け開閉します。このことから、 情動、認知、動機付けといった心理的要因が痛み に大きく関わっていることが理解できます。痛みが長く続くほどゲートは開き、わずかな刺激 で痛みを感じるようになります。

 

中枢性痛覚過敏(Central senstization)

C線維の末梢からの頻回な刺激が持続すると、脊髄ニューロンにも変化が起ってくる。これはwind upという現象で、ニューロンは末梢からの刺激に対し一対一で対応していたものが、一回の刺激によりたくさんの発火を起こすようになり、ついには刺激を止めても発火活動がしばらく続くようになる。これは中枢性痛覚過敏と呼んでいる。中枢性痛覚過敏の発現には、NMDA受容器が関係しているとされているが、NMDA受容器の拮抗薬によって、この現象が抑えられる。中枢性痛覚過敏が長く続くと、脊髄ニューロンの中にc-fosなどのがん遺伝子が作られ、ここに可塑的な変化を起こしてくる。可塑というのは、外力を取り去ってもなお歪みが残っている状態で、ここではニューロンの興奮が長引くことを指している。C-fosの発現はモルヒネによって抑制することが出来る。

繰り返し入力があると、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、マグネシウムイオンが外れてチャンネルが開通状態となり、少しのNMDA受容体刺激でも大量のカルシウムイオンが細胞内に流れ込むようになる(活性状態のNMDA受容体)。すなわち、信号の増幅が起こり、暫くの間持続する (長期増強ワインドアップ)。 この状態には、入力と出力の間にはもはや比例関係ない。長期増強は中枢神経系内の至る所に存在し、最初は海馬で発見され、記憶に重要な役割を果たしていると考えられている。 ワインドアップは脊髄で観察され、NK−1受容体やノシセプチン受容体などの刺激の助けが必要である点が長期増強と異なる。

末梢性痛覚過敏(Peripheral sensitization)

神経末梢は痛みを受容するばかりでなく、軸索反射によりそこからサブスタンスPなどの化学物質を分泌する。これは肥満細胞に作用してヒスタミンを遊離したり、その他の発痛物質を産生し、また血管拡張を起したりする。また組織が損傷されると、プロスタグランジンをはじめ、カリウムやブラジキニンなどいろいろの発痛物質が出てくるので、神経末端は発痛物質のジュースの中に浸されているような状態になる。このような状態では神経の痛みに対する感受性は著しく高まるので、これを末梢性痛覚過敏と呼んでいる。

慢性痛の病態生理にはB1受容体が重要な役割を果たし、B2およびB1受容体を抑制することにより、痛み全体を総合的にコントロールできる可能性も期待される。

痛みの可塑性

最近の10年間では、病態時の「痛み」の解明が進み、「痛み」による神経回路の可塑的変容が明らかにされつつあり、長期間持続的に発せられた「痛み」信号は、「痛み」の原因であった病巣が治癒した後も一種の記憶として神経回路に残ってしまい、信号を発し続ける可能性があることがわかってきています。このことから、「痛み」を放置しておくことが更なる複雑な「痛み」(慢性痛)を作ってしまうと考えられるようになりました。

「痛みの可塑性」の文と図は愛知医科大学医学部痛み学(ファイザー)寄付講座から拝借しました

 

中枢性パターン生成理論

痛みが長く続くと中枢神経の各機能が関与して 痛み刺激の伝達がパターン化されます。 それには、経験、記憶、不安、注意集中、性格など、あらゆる要素が関与します。

心理的、情動的な葛藤(情動体験)が生理的な身体変化を起こすのはきわめて通常の反応ですが、自覚された身体変化に過度な不安や恐怖をいだくと、こんどはそれが情動刺激になってさらに身体変化を強化してしまうという悪循環をつくりあげ、刺激因子を持続化させてしまうことになるのです。

これらは、やがては慢性・習慣化された身体反応として固定してしまい、些細な刺激、ときには本人に気付かれもしないような刺激によって、すぐ生じてしまうようなパターン化された身体反応になってしまうものです。 

「心で治すからだの病気・心身症に勝つ・」 片山義郎 慶応大学精神神経科 大和書房 1980

 


慢性痛を作らないためには、体のどこかが傷んでいることを知らせる警告信号としての役割を終えた「痛み」を速やかに取り除くことが重要です。慢性痛になってしまうと、そのメカニズムは警告信号の「痛み」のメカニズムと異なってしまいます。したがって、慢性痛を扱う方法は従来の「痛み」ケアとは違いますが、これには今後の更なる研究成果に期待がかかっています。

愛知医科大学医学部痛み学(ファイザー)寄付講座より

直ちに鎮痛すべきである。診断は痛み以外からでもできるし、患者の協力が必要である。

筋骨格系の痛み・しびれのイメージ

ほとんどの筋骨格系の痛み(椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・腰椎すべり症・腰椎分離症など)は侵害受容性疼痛です。

 

図をクリック

 

外力(衝撃・損傷)、ストレス(不安・抑鬱・怒り)、習慣化・条件反射→交感神経緊張→動脈の収縮→酸欠→発痛物質→末梢性痛覚過敏→圧痛点

 

坐骨神経痛 × 坐骨神経にヘルニアによる圧迫などのトラブルが生じているための痛み。(このような生理学に矛盾する思い込みが悲劇のもとになっています。)
坐骨神経が受信している痛み。神経の先端についているセンサーが刺激を受けているのです。軸策反射により痛みが広がるため、神経の走行に一致したようになる。生理学に基づいて痛みを説明するとこのようになります。

筋骨格系の痛みに対する科学的な考え方 

ほとんどの頚痛、腰痛、肩痛、膝痛や手足のしびれ(知覚麻痺のことではありませんよ)は生理的トラブルのためです。構造の異常のためではありません。また生理的トラブルが構造の異常でおきているという証拠もありません。

痛みはレントゲンやMRIで表すことのできない生理的なトラブルです。ところがレントゲンやMRIを使ってそれを説明しようとします。ここに大きな問題がひそんでいると考えます。

伝統的医学は構造上の異常が痛みの原因とみなして説明します。多くの医師や患者さんはそれを今だにかたくなに信じています。だから治せない、治らないのです。医師にとっての悲劇は間違った勉強をさせられてきたということです。権威ある立場の医師はいまさら方向転換をしにくいものです。この事実は患者さんにとっても大いなる悲劇です。

生理学で「構造上の異常が痛みをつくる」という根拠(evidence)がありませんから、問い詰めていくと説明がつかなくなっていきます。患者さんには自分にとって不都合なデーターは無視して、都合のよいデーターだけを用いて説明する傾向があります。悪意があるわけではありませんが伝統的な医学を信じて思いこんでいるのです。

  • 医師はレントゲンやMRIを前にして痛みの説明をすることが多いので、どうしても生理的トラブルを構造的問題にすりかえて説明するようになり矛盾が生じてきます。
  • 画像所見に特に異常がなかったら「異常ありません。」とか「心配いりません。」とか「原因不明です。」ということになり、どうして痛いのか、なぜ痛みが起きたのかという説明がされることはあまりないと思います。少しひねって「斜角筋症候群」「梨状筋症候群」など、画像では表れない想像上の病態を説明します。画像でヘルニア、分離症(学童期の新鮮疲労骨折は除く)、すべり症がたまたま見つかればそれが痛みの原因だとの思い込みを説明することになります。
  • 画像診断は悪性腫瘍、骨折、感染症などを除外するためです。除外診断は大切ですがそれ以上ではありません。
  • 医師は除外診断だけをしていればいいのでしょうか。痛み(生理的トラブル)を診断するとき、どのような時に痛みが生じるか(積極的診断)、治療によってどういう変化が起きるか(治療的診断)を観察して総合的に判断しなくてはいけません。
  • 生理的トラブルを説明するのは簡単ではありませんが、図を使ったり、治療の効果を確認したりすれば理解していただけます。

なぜ生理的トラブルがおきるのか、どうしたらはやく治めることができるのか、なぜ長引くことがあるのかを考えてみましょう。

生理的トラブルで痛みがおきているのですからそれを調整してやれば治ります。調整のしかたはこれでないとならないというものではありませんが、危険を伴ったり大金を投じたりする必要はないでしょう。


椎間板ヘルニアよるといわれている「いわゆる坐骨神経痛」をはじめほとんどの筋骨格系の痛みは実は侵害受容性疼痛です。侵害受容性疼痛とは発痛物質(主にブラジキニン)が痛覚神経のC繊維の末端についているポリモーダル侵害受容器を刺激して起きる痛みのことです。

ではどうして発痛物質が産生されるのでしょうか。生理学では、交感神経の緊張による酸欠状態になると産生されるとされています。そのほか、過度の筋収縮が繰り返されることにより細胞膜が破壊され、化学物質の生成、遊離により侵害受容器が興奮し疼痛が誘発されることもあります(ハードな運動による筋の微小損傷)。いずれも構造との関係は証明されていません。

ではなぜ「その部位」を選んで発痛物質が遊離されるのかはいまの医学ではうまく説明できません。なぜその部位に円形脱毛症が生じたのか、なぜその部位に潰瘍が生じたのか、なぜその部位に蕁麻疹が生じたのかをうまく説明できないように。

生じた痛みがなぜ慢性化するのか、沈静化するにはどうしたらいいのか。当サイトをみて勉強してください。脳における痛みの記憶、習慣化が関係しています。

手術という儀式、整体などの手技療法という儀式、腰牽引という儀式、筋力を鍛えるという儀式、などのいろいろな儀式があり、それぞれの儀式で沈静化する人、しない人、さまざまです。この事実は痛み問題の複雑さを示しています。いろいろなタイプのヘルニアがあるのではありません。あなたはどの儀式を選びますか?そのためには科学的な真実を知ることが大切です。

侵害受容性疼痛のほかに神経因性疼痛があります。これは1994年、世界疼痛学会の慢性疼痛分類により「神経系が何らかの損傷あるいは機能的異常を受けたことによって生じる痛みをいい、糖尿病性ニューロパチー、神経叢引き抜き損傷、開胸術後遷延痛、幻視痛、帯状疱疹後神経痛、CRPStype1,type2,などを広く含む慢性疼痛の総称である。」とされています。あの有名なヘルニアによる神経圧迫は書かれていません!!。

「ヘルニアが神経を圧迫しているから痛い」「軟骨が減っているから痛い」などと説明を受けることが多いと思われますが、これらは科学的根拠に基づいているのでしょうか。科学的批判に耐えられることなのでしょうか。

神経が圧迫されて炎症がおきているから痛いのだという説明もよく聞かれます。

有料サイトの[m3.com]のメディカルサイト検索β版で「神経根炎」を検索しましたら全くちがう疾患であり稀な疾患であるギランバレー症候群に関してのものがありますが、この有名なヘルニアに関するものはありませんでした。「神経根性疼痛」に関しては該当するページがないということです。

「ヘルニアや坐骨神経痛」といわれてで苦しんでいる人がおおぜいいるのに検索でヒットしないのはどういうことなのでしょうか。このような医学辞書はかなり信用できるものと思います。インターネットが発達すると医師もうかうかできませんね!


腰痛・坐骨神経痛など筋骨格系の痛みに対して、なぜ現代医学がもうひとつなのだと思いますか?その一因はおそらく、痛みの原因が構造の異常にあるのだと思いこんでいるからではないでしょうか。

「ヘルニアがあるから痛い」「仙腸関節のゆるみがあるから痛い」「頚や腰骨に歪みがあるから痛い」「仙骨角が変位しているから痛い」などなど、簡単に反論可能ながまことしやかに飛び交っています。これでは痛みを持つ人は何を信じてよいのやら困ってしまいますよね。悪性腫瘍、骨折など、感染症を除いて、痛みを構造で説明することは不可能です。

痛みは、便秘下痢、喉が渇く、動悸がするといったのと同じように生理的なトラブルなのです。筋骨格系の痛みを一種のストレス反応、あるいは条件反射ととらえるとよいと思います

ストレス反応として筋骨格系に痛みをつくるタイプ(腰痛、肩こり、いわゆる坐骨神経痛、しびれ、緊張型頭痛)、消化器系にでるタイプ(胃痛、便秘、下痢)、呼吸器系にでるタイプ(咳、鼻炎)、循環器系にでるタイプ(高血圧、不整脈、動悸)、皮膚にでるタイプ(蕁麻疹、掻痒、アトピー)とストレスに対する反応のしかたは人それぞれです。そしてその反応のしかたはくせになってしまいます。花粉症の人が造花をみただけでも症状がでることがあります。

腰痛もこれと似ています。はっきりとした原因がないことが多いものです。痛みの早期遮断はとても大切なことです  。神経線維そのものの損傷による痛み「神経因性疼痛」は特殊なもので、そんなにみられるものではありません。

神経根ブロックや硬膜外ブロックをしたが痛みが取れないという話もよく耳にします。その理由は、そこが痛み刺激の通り道であるかもしれませんが、痛みの責任現場ではないからです。敵のいないところにミサイルを撃ち込んでいるのです。デルマトーム(知覚神経の支配を表した図)と一致した痛みなんて帯状疱疹後の神経痛以外には見たことありません。「痛みの生理学」「痛みの心理学」など、基本的な痛みのメカニズムをもう一度みなおしてみませんか。痛みの研究をしている基礎医学の先生のご活躍を望むものです。        

(加茂)

加茂整形外科医院