うつ病・うつ状態の診断〜一般科の立場から〜

プライマリ・ケアのためのうつ病・うつ状態のマネジメント(村上正人)


一般科におけるうつを診断するためには、表面にあらわれる身体的諸症状を鑑別しつつ、根本にある心理的問題は何であるかを考えることです。うつに先駆けて、心身の疲弊状態を招くストレス状態や心理的トラブル、精神的外傷体験が認められることが多いので、これらの情報と身体症状を参考にします。また一般的な内科的対応、対症療法で効果がない時にはうつを積極的に疑うことが必要です。

睡眠薬の効かない不眠症

不眠は、しばしば初期症状として認められ、うつの先行指標となり重症度の目安にもなります。不眠症状には入眠障害、熟眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などがあります。具体的には毎晩、夜半や早朝に目覚めて、悲観的、絶望的な思いに駆られたり、罪悪感、孤独感、自責の念に襲われたりと、眠れない夜を悶々として過ごずことになります。朝になっても、その一日がとてつもなく長く思われ、また苦しい一日がはじまるのではないかという苦悩に襲われます。さらにうつ気分が助長され、患者はいっそ死んで楽になりたい、という希死念慮に駆り立てられることもあります。睡眠薬や抗不安薬がなかなか効かない時は、うつを疑ってみて下さい。

抗炎症薬が効かない微熱

37.0〜37.5°C程度の微熱が続<こともよ<あります。炎症が認められず、NSAlD(非ステロイド性抗炎症薬)や抗生物質などを服用しても一向に改善されないのが特徴です。午後、夕方の疲労とともに上昇する傾向があり、強い全身倦怠感を伴うため患者の苦痛度は見かけ以上に大きいのでず。

鎮痛薬が効かない痛み

痛みには身体的に明らかな原因が認められるものと、痛みと理学的な所見が一致しないものとがあり、しばしば対応に苦慮することがあります。特に慢性疼痛には心理社会的ストレス要因が大き<関与しており、筋収縮、循環障害などの二次的な生理的変化を伴い、悪循環を形成しているものです。痛みの訴えが客観的所見に一致せず、鎮痛薬の効果がない場含に、抗うつ薬が不思議なほど効くことがあります。うつは痛みの閾値を下げ、痛みへのとらわれ、こだわりを強め知覚の過敏性を高めます。

消化器薬が効かない消化器症状

食欲不振、胃の痛み、不自然な体重減少などを訴えて消化器科を受診します。その際、エツクス線検査、内視鏡検査、腹部超音波検査などでも明確な客観的所見が得られず、胃粘膜保護薬、H2フ“ロツカー,PPl(ブロトンポンプ阻害薬)、消化補助薬などを服用しても効果がないときは、うつの存在を疑ってみて下さい。過敏性腸症候群(lBS: irritable bowel syndrome)や非潰瘍性消化不良(NUD: non ulcer dyspepsia)などの機能性消化器症状の発症や経過にうつが関与し、治療上も抗うつ薬が著効を示すことも珍し<ありません。

いつも風邪気味で,治りにくいという人

風邪をひきやすい、いつものどが痛い、などを訴える患者にうつがみられることがあります。実際、こうした患者に対して抗不安薬や抗うつ薬の投与が、長引く風邪症状の治療に有効なことが多くあります。これらの薬はうつを和らげ、不眠や全身の疲弊状態を改善することで、健全な免疫カを回復させる働きがあります。

休養が有効でない慢性疲労

うつの患者さんはほとんど例外なく、少しの運動ですぐ疲れてしまう、何日休んでも疲れがとれない,という慢性の疲労、倦怠感を訴えます。このような慢性疲労の内科的原因が特定できず、常識的な休養や栄養剤などが効かない場含、うつが関与していることが多<あります。

加茂整形外科医院