10歳児の椎間板変性が与えた衝撃しかし、この年齢での椎間板の異常は驚くべきことか?

Shock Over Disc Degeneration in 10-year 0lds-But Are Disc Abnormalities in This Age Group Surprising?


スコットランドの研究が、小児の腰痛について根拠のない新たな警鐘を鳴らした。メディアと医学界に、椎間板変性の有病率と性質に関する誤解が広がっていることも明らかになった。

スコットランドの研究者Francis W.Smith博士らが、脊柱管の大きさに関する大規模研究に参加したスコットランド北東部の無症状の1O歳の小児154例について、腰椎椎間板のMRIスキャンを行った。

2人の第三者の観察者が、矢状断の一連のT2強調画像における小児の椎間板の状態を分析した。その結果、9%の小児に椎間板の異常が存在することが明らかになった

Smith博士らによると、“小児のうち14例には、L4-5またはL5-S1のいずれかのレベルの椎間板に異常が認められた。そのうち4例は、髄核の変性を示唆する髄核からの信号の消失が認められた。残りの10例には髄核からの信号の消失だけでなく、早期のびまん性膨流(bulging)を伴う髄核の後部突出も認められた”(Smith et al.,2003を参照)。

すべての小児が研究の時点で無症状であり、重大な腰痛の既往もなかった。

「我々は、かつて推測していたよりもはるかに早期に脊椎の変性性変化を認めました」と、Smith博士は北米放射線学会(RSNA)のプレスリリースで述べた。この研究は、シカゴで開催された2003年のRSNA年次総会で発表された。

興味深いことに、椎間板変性の明らかなリスクファクターを有した小児はいなかった。「これらの小児には、栄養不良、肥満および他の既知の疾患の既往はありません。スボーツや遊びの中で気づかないうちに外傷があったことが原因である可能性も考えられますが、遺伝的要因があるのかもしれないと我々は推測しています」と、Smith博士は述べた。

メディアの過剰反応

この研究に対するメディアの反応から、椎間板変性と腰痛に関していくつかの重大な誤解があることが明らかになる。

マスメデイアはこれらの結果を目新しい驚くべき知見として紹介した。ほとんどの記事では、椎間板変性は通常、思春期より後に始まり、10歳児に椎間板変性が認められた前例はないと示唆している。

しかし、椎間板変性に関する最近の科学的証拠を熟知している研究者は異なる見方をしている。ここ数年間に実施された基礎科学研究において、椎間板変性は小児期から始まり、人によっては10歳よりかなり前から始まることがはっきりと認められている。

「この研究の結果は注目に値しますが、それほど驚くべきことではありません。椎間板の変性または老化がティーンエージャーから始まることが他の研究で示唆されており、ティーンエージャーでも椎間板ヘルニアになる可能性があることもわかっています」と、Emory大学脊椎センターの部長であるScott Boden博士は言う。椎間板変性はさまざまな年齢で発生する可能性があり、その重症度もさまざまであることに、Boden博士は言及した。

「少しも驚くべきことではありません」

「私にとってこれらの新しい知見は少しも驚くべきことではありません。これらは、我々が10歳または10代の被験者の椎間板の組織学的評価から得た結果と一致します」と、スイスの研究者でチューリッヒにあるBalgrist大学病院のNorbert Boos博士は言う(Boos et al.,2002を参照)。

Boos博士は、彼らのグループが2002年に発表したボルボ賞受賞研究のことに言及している。彼らは、剖検例と手術症例の椎間板の加齢性変化を分析し、新生児期から高齢期までの椎間板の変化の過程について詳細な検討を行った。

博士らは、10歳よりかなり前の小児における椎間板の変性性変化を確認することができた。3〜10歳の小児の椎間板において、血管の閉塞(椎間板への血液供給が小児期の間に徐々に減少する)、終板軟骨の変化、および軟骨の最初の亀裂が認められた。

11〜16歳の小児においては椎間板構造の崩壊がさらに進んでいた。これには、椎間板の亀裂や断裂のような構造上の変化が含まれた。

「椎間板変性は非常に若い頃から始まる過程です。変性{ま椎間板の宿命なのです」とBoos博士は説明した。

しかし博士らは、椎間板変性が極めて多様性の過程であることを示した。「ある人たちは、他の人よりも進行が速いのです」とBoos博士は言う。

椎間板変性は、このように極めて多様性の過程であるため、年齢との関連について大ざっぱな特性解析を行うのは難しい。したがって、10歳で椎間板変性が認められたり、70歳で比較的若い椎間板が認められたりする可能性があり、驚くべきことではない。

第2の誤解

新研究に対する反応から明らかになった第2の誤解は、椎間板変性と腰痛との関連についての誤解である。

多くの報道記事では、小児に認められる椎間板変性は、将来、腰痛が発生する徴候である可能性が高いと示唆している。

ABC News .comはこの研究に関する特集記事の中で、ウサギのおもちゃと一緒にベッドに寝ている痛そうな様子をした小児の写真を、“一生続く腰痛が始まる子供たちもいる”という誇張した説明を付けて掲載した(Bucner,2003を参照)。


しかし、Boden博士は、画像スキャンで変性性変化が認められるだけでは臨床的な問題の微候とはいえないと指摘する。「覚えておかなければならない重要なことは、MRI所見は多くの場合、特異的症状とは全く相関せず、それによって将来の症状を予測できるとは限らないということです」。すなわち、これらの知見は急性腰痛の危機を示す証拠ではない。

わずか20年前に、成人のMRIスキャンで椎間板のびまん性膨流(bulging)またはヘルニアが存在すれば病理学的所見とみなされ、疼痛の徴候または予測因子とされたことを忘れてしまうのは簡単である。

そしてもちろん、一連の調査研究によって、症状のない椎間板異常は、若年、中年および高齢の成人における正常な所見であることが明らかになった。これらの異常が自動的に疼痛につながるわけではない。

「我々は、画像所見が症状と相関しないことを知っています。我々が治療しなければならないのは患者であり、MRIではありません」とBoos博士は述べた。

なぜ椎間板の異常の中に、疼痛を引き起こすものと引き起こさないものがあるのか、その理由はいまだに明らかではない。何らかの椎間板の異常に付随して発生する、複雑な生化学反応のカスケードに関連する可能性が高い。

椎間板変成は予防可能か

スコットランドの研究に関する第3の誤解は、これらの11歳の小児に認められた椎間板変性は容易に予防できるという誤解である。報道記事において、さまざまな脊椎専門家が、スコットランドの研究を契機に新しい予防プログラムが促されるべきだと論評した。ほとんどの専門家は、“未成年での”椎間板変性は、生活習慣や行動を修正することによって予防できるだろうと提言した。

これらの勧告がなされたにもかかわらず、小児または成人における椎間板変性を予防する最良の方法、またはこの種の予防が多少なりとも可能かどうかに関する具体的証拠はほとんどない。明らかに、小児および青少年にとって、良い健康状態を維持すること、定期的に運動すること、喫煙しないこと、過度な負荷および外傷を避けることは、意味のあることである。しかし、実際問題として、こうすることによって椎間板変性を予防できるのだろうか。それは誰にもわからない。

実際には、科学者らが青少年の椎間板変性に関与する極めて複雑な過程を実証する研究を開始したばかりであり、有効な予防が可能になるかどうかはいまだにわからない。

臨床的介入の新傾向

残念ながら、スコットランドの新しい研究に関する報道の影響によって、小児における画像検査および臨床的介入が増加する可能性がある。最近の疫学調査で、13歳未満の小児において腰痛がかなり一般的な症状であり、思春期にはさらに頻繁にみられることが示唆されている。しかし、これらの症状の大部分は一過性であり医学的介入を必要とせず、小児の生活にそれほど支障をきたさない。

スコットランドの新研究に関する記事の中には、医師らが小児および青少年の脊椎の問題にもっと注意を払うこと、あるいは腰の症状が早期の変性性変化に関連するかどうかを調べるためにもっと多くの画像スキャンを指示することを、専門家が推奨しているものもあった。

小児における画像検査の過度の使用は、成人の腰痛の治療において発生したパターンによく似た道をたどる可能性がある。脊椎専門医らは、難しい試行錯誤の過程を通して、局部的な腰痛のある成人に高度の画像スキャン検査を指示するのは、多くの場合、逆効果であることを学んだ。

これらの検査は、症状に関係のない脊椎の異常の同定につながる可能性があり、患者に無用な不安や心配を抱かせることはいうまでもなく、不必要な診断や治療を促進する可能性がある。

医師らが小児および青少年において、この試行錯誤の過程を繰り返さないよう願うばかりである。

小児または成人における椎間板変性を予防する最良の方法に関する貝体的証拠はほとんどない


参考文献:

Boos N et al., Classification of age-related changes in lumbar intervertebral discs: 2002 Volvo Award in basic science, Spine, 2002; 27(23):263 1-44. 

Buckner AV. Baby got back pain. ABCNEWS. com; abcnews.go.com/sections/living/US/backpain_childhood_031202.html.

Smith F et al.. Degenerative disc disease: How early does it occur? An MRI study of 1 54 ten-year old children, presented at the annual meeting of the Radiological Society of North America. Chicago, 2003 ; 
as yet unpublished. 


The BackLetter 19(1) : 1,8-9,2004.

加茂整形外科医院