X線検査のガイドラインの実地試験結果  Field Test of X-Ray Guidelines


先ごろ、米国の医療政策研究局(AHCPR)のX線検査のガイドラインに関する最初の実地試験が行われ、このガイドラインに従うと検査の実施頻度が高くなる(おそらく過度に)ことが明らかになった。このX線検査の実施基準は、AHCPRが1994年に発表した急性腰痛に関するガイドラインの中に含まれているものである。

Maria Suarez-Almazor医師らは、カナダの4つの地域医療施設においてX線検査の実施状況を調査し、AHCPRガイドラインを適用した場合の実施率を推計した。その結果は、1996年にFlorida州のOrlandoで行われたAmerican College of Rheumatology(米国リウマチ協会)の年次総会で発表された(現在、論文未発表)。

「対象集団にAHCPRガイドラインを適用していれば、患者の45%にX線検査を行っていたことになり、実施率は現在の280%にまで増えていたことになります。」という結論に達した。

Suarez-Almazor医師らは、1992年と1993年に4つの地域医療施設で新規の腰痛治療を受けた患者1,550例について調べた。これらの対象患者のうち45例(16%)が初診時に腰椎のX線検査を受けており、72%は側方、52%は斜位の撮影を行っていた。

地域医療施設の医師らによるX線検査の実施率は多いところでは55%、少ないところでは9%とかなりのばらつきがあった。このばらつきは患者の特性に応じて補正した後でも変わらなかった。医師らがX線検査の実施をみきわめる基準としているのは、主に長期にわたる腰痛、高齢、重度の外傷、運動麻揮、仰臥位および夜間の疼痛であった。

AHCPRガイドラインのX線検査の実施基準は完全に明快なものではない。本編のガイドラインには一通りの基準が示されているが、“臨床医のためのガイド”という別冊に掲載されている内容とは若干異なっている。Suarez-Almazor医が使用したのは別冊の方で、X線検査は次の場合に必要だと説明している。すなわち、50歳以上もしくは20歳未満の患者:癌の既往歴がある:脊椎感染の体質からくる症状もしくは危険因子がある:仰臥位で疼痛が増悪する:夜間の強い疼痛:重度の外傷:骨粗霧症患者もしくは高齢者における軽度の外傷である。

カナダの地域医療施設の臨床医らはどうみてもAHCPR基準と同じガイドラインに沿っているとは思われなかった。Suarez-Almazor医師らによれぱ、「(地域医療施設で)X線検査を行った患者のうち、AHCPRの基準を満たしていたのはわずか26%でした」という。

AHCPRのX線検査の実施基準の方が、カナダの地域医療施設で用いられているその場しのぎの基準よりも、重症疾患をうまく見つけ出すことができるという点は明確である。

Suarez-Almazor医師らは、対象患者の中から後で骨折、骨腫瘍、感染と診断された患者を特定した。

「これらの疾患を検出できる感度は、AHCPRの基準の方が医師らの実施パターン(実際の使用)よりも高いものでした」と彼らは述べている。

AHCPRガイドラインのもつ重症疾患の検出能力を維持したまま、検査実施率の削減を試みるために、Suarez-Almazor医師はX線検査の適応基準から年齢に関する項目(50歳以上もしくは20歳未満)を削除し、癌の既往歴という項目を「過去10年以内の癌の既往歴」に制限する修正を行った。この改訂基準を採用すれば、AHCPRの基準に等しい感度を保ちながら(少なくともこの患者集団において)、X線実施率は26%に下がったものと考えられた。

この問題に対する別のアプローチとして、Richard A. Deyo医師とA. K. Diehl医師が、血沈速度を用いたアルゴリズムにより重症疾患の検出能力を高めつつ、X線検査実施率を45%から22%に引き下げられると報告している(Journal of General Internal Medicine,1988;3(3):230-238.参照)。

主要ガイドラインがもたらす実際の患者集団における効果を知るためには実地試験が重要である。多くのマネージドケア組織は45%というX線検査実施率を高いと感じるであろう。このような実施率の高さは多くの患者を実際に放射線にさらすことにもなる。けれども、極めてまれな重症疾患に対する検出能力を維持させたまま、どのくらい基準を緩めることができるのだろうか?答えを出すには、様々な臨床の設定条件下での大規模な試験が必要である。

TheBackLetter,11(11):121,130.1996.

加茂整形外科医院