椎間関節症状(Facet Symptoms)の診断に画像診断は無カ

CTで同定できるのは関節の変化であって疼痛ではない

『画像診断や臨床症状からは、疼痛を起こしている椎間関節を正確に同定することはできない』


椎間関節は腰痛の原因の一つと思われる。しかし、画像診断や臨床症状からは椎間関節痛を他の原因痛と確実に区別できない。仮に椎間関節を腰痛の明らかな発生部位として最終的に同定できたとしても、それが症状を治療する上で役立つかどうかは明らかではない。今のところ、椎間関節障害に対して有効であると証明された治療法はないのである。

椎間関節障害は、腰痛の診断においてはやりすたりを経験してきた。著名な脊椎専門医の多くは、個人的に椎間関節が関与していると考えている。しかし、この信念に全財産を賭けてもよいと思う者はほとんどいないだろう。

椎間関節が腰痛の原因になり得ることは疑いようがない。椎間関節には神経が分布しており、ヒ.トや動物はこの小さな関節を刺激すると背部や手足に疼痛を生じる。椎間関節症の原因として有力視されている本質的な変形性関節症による椎間関節の変化は、背部に愁訴をもつ患者に多くみられる。残念なことに、椎間関節が
腰痛の重要な要因であることを証明することが、結果的には現在の椎間関節痛の診断方法に異議を唱えることになった。

変形性関節症は疼痛の前兆ではない

ある新たな研究により、椎間関節異常の診断に画像診断の欠陥が露呈することとなった。オーストラリアのNewCastle大学のAnthony Schwarzer医師らは、63例の慢性腰痛患者で症状に関与していると推定される椎間関節について研究を行った結果、CTでは痛みのある関節と無症状の関節とを区別できないことが明らかになった。変形性関節症の有無は、これら被験者の椎間関節から生じたと思われる痛みの有無とは相関しなかった(Spine,1995; 20(8): 907-912. を参照)。

彼らは、痛みに関与している椎間関節を同定するために一連の麻酔ブロックを用いた。一連の神経ブロツクが有痛性の椎間関節を同定できるかどうかは、必ずしも全ての研究者が同意しているわけではなく、この方法で同定が可能であると証明する手段は現在のところない。しかし、Schwarzer氏らは巧妙な注射方法を開発して一連の研究結果を発表した。

注射は強力なプラセボ効果を持つ

彼らは半減期の異なる麻酔薬を椎間関節に注入し、患者の反応に一貫性があるかどうかを調べた。以前行われた研究で、神経ブロック注射が38%もの患者において強カなプラセポ効果を引き起こすことが明らかにされていた。今回の研究ではプラセボ注射によってこの作用をコントロールしよ.うと試みた。

「腰椎の椎間関節痛の診断には非常に厳密な基準を用いました。患者はブピバカイン[麻酔薬]の予想半減期の間は疼痛が50%以上軽減していなければならず、プラセボ注射では軽減されないものとしました」と研究者らは報告している。

Schwarzer氏らは218の脊椎高位に対して316回の注射を行い、57例の患者に対して研究を完了した。このうちの23例で麻酔注射によって50%以上の疼痛が緩和されたが、プラセポ注射に対しては反応しなかった。彼らは3名の読影者に変形性関節
症による変化がみられるかどうかをCTで検討させた。彼らの意見が一致しない場合は、2名の放射線医師にCT所見を共に検討させた。

椎間関節の痛みを有する患者と無症状の患者との間に、関節所見に有意差は認められなかった。「CTが腰椎の椎間関節痛の診断方法としては役に立たないと結論づけなけれぱなりません」。

いかなる種類の画像診断においても、椎間関節痛の診断に役立っ確証はない。Schwarzer氏らの研究を含む他の研究によれば、椎間関節痛を他の種類の脊椎の疼痛と区別できる明白な臨床症状はない。Schwarzer氏らによれば、椎間関節痛を診断する唯一の有効な方法は、本試験に用いたような一連の麻酔ブロックとプラセポ注射であると考えている。

椎間関節性の疼痛を診断する方法はあるか?

他の研究者は依然としてどのような方法を使っても椎間関節の疼痛を診断できないと考えている。彼らはオーストラリアの研究者によって用いられた方法が有効であるとしても、必ずしもそれらが有用な情報を提供するとはかぎらないだろうと指摘している。注射は椎間関節が腰痛の要因の一つであることを示しているに過ぎない。この方法では他の部位から発生する疼痛を除外できないのである。椎間関節の疼痛に有効な治療法はないので、診断がついたとしてもそれが患者の利益に必ずしも結びつかない。

しかしながら、これらの診断法の支持者は正確な診断法は有効な治療法の研究の前段階として欠かせないと指摘する。診断の確実性が一層向上すれば、椎間関節痛の研究が進歩するだろうし、脊椎における疼痛の発生因子に関する情報が得られれぱ、脊椎の再建手術を考える外科医にとっても有用であろう。

The BackLetter, 10(6): 63. 1995.

加茂整形外科医院