バリント療法

「脳の痛み 心の痛み」 慢性痛からの解放をめざして         北見公一・著  より


1930年頃ロンドンの開業医であったマイケル・バリント博士により始められました。彼は内科医からスタートし、後にベルリンでフロイトの直弟子のフェレンチより精神分析を学び、やがてロンドンの精神療法センターで精神分析を中心とした仕事をしますが、全人的医療の開拓のため、開業医への道を選び、ロンドンの開業医10数名からなるバリント・グループを発足させました。バリントのモツトーは、一般開業医を訪れるありふれた病気(common disease)の患者さんの多くは、医師の出した薬によって治るのではなく、「医者という薬」によって治る、というものでした。バリント療法の基本は、患者さんの訴えを親身になってよく聴き(傾聴)、患者さんの症状を気のせいなどと否定せずに、その患者さんの人格そのものとともに十分な共感をもって受け入れ(共感的受容)、患者さんの病気に対する取り組み姿勢を認め(支持)、悪い病気ではないという保証を与えることであります。彼はまた一般的ルールとして、器質的な病気をもつ人とそうでない人に対し病気の格づけをしないことや、責任転嫁のために患者さんを専門医に回し、あとで誰もその人の病気の全体像に責任がもてないような治療関係をつくらないこと、など医師全体の診療姿勢に重要な助言を残しています。バリント療法で最も重要なのが良好な「医師(治療者)-患者関係」を築くこととされます。バリント療法が簡易精神療法といわれるゆえんです。慢性痛などのように、治療に心理社会学的要素が多く関連する病態の場合は、このバリント療法は基本的に欠かすことのできない、一種の基本的治療姿勢ともいえるものなのです。

加茂整形外科医院