整形外科領域の疼痛疾患モデルと基礎研究

小畑浩一  野口光一       教育研修講座:日整会誌77:1-11 2003 より


慢性痛の動物モデルをその病因メカニズムから大別すると,1つは末梢組織の炎症に伴うもので,もう1つは神経傷害に伴うものである。末梢組織の炎症は皮下での炎症と関節を含めた深部組織での炎症に分けることができる。一方,神経傷害に伴うものは,さらに末梢神経軸索の完全切断に伴うもの(complete axotomy model)とニューロパシックペインモデルに相当する末梢神経軸索の部分的傷害モデル(partial nerve injury model)に分けることができる。また近年,神経の実質的な傷害を伴わない神経炎(neuritis)という概念が登場した。整形外科領域における圧迫を加えない化学的因子のみによる椎間板ヘルニアモデルなどはこの神経炎モデルの1つであると考えられる。

 DRG:dorsal root ganglion後根神経節

[DRGよりも中枢側における神経障害モデル]

実際の臨床の場においては椎間板ヘルニアなど、DRG自体あるいはDRGの中枢側である脊髄神経根が障害されることによっても急性痛や慢性痛が引き起こされる。代表的な動物モデルとしては,髄核留置による椎間板ヘルニアモデルがあるが,椎間板髄核は機械的な圧迫がなくとも,炎症による脊髄神経根傷害を引き起こすとされる。われわれは椎間板ヘルニアモデルのDRGにおけるNGF,BDNFの発現の増加を明らかとした。NGFの発現はmacrophageやschwancellを中心に認め,BDNFは小型の一次知覚ニューロン中心にその増加を認めた(図9)。髄核留置はIL-1β,IL-6およびTNFαなどの炎症性サイトカインの産生を引き起こすとされており,炎症性サイトカインに刺激されたDRG内のmacrophageやschwancellがNGFを産生し,このNGFが末梢炎症モデルでのメカニズムと同様に,DRG小型細胞でのBDNF産生に影響を及ぼしたと考えられた。実際にNGFを神経根に直接注入するモデルを新たに作成したところ,mechanical allodyniaの出現,およびDRGにおけるBDNFの発現増加が認められたことより,中枢側での神経炎モデルにおいても神経栄養因子であるNGFやBDNFが重要な役割を果たすことが示唆された。

[最後に]

痛みとは主観的なものであるため、動物モデルの疼痛関連動作から得られた客観的な知見と、それらを利用して臨床応用を可能とすることとの間には大きな隔たりがある。・・・・・この数年間で整形外科領域を含め、さまざまな動物モデルを用いてDRGや脊髄後角における蛋白あるいは遺伝子発現レベルでの変化が次々と報告されるようになった。・・・・

加茂整形外科医院