症例34  それぞれの痛み


Aさん(80歳代、女性)は以前より軽度の膝痛がありましたが、昨日より急に強い膝痛になり歩行が困難になりました。このような急に起きた強い痛みは医師にとって腕の見せ所です。名医?らしくみせる絶好のチャンスです。

膝の周囲の圧痛点をきめ細かくトリガーポイントブロックしてあげればいいのです。レントゲンでは高度の変形がみられましたが、そんなことにはふれずに、「心配ない」と言ってあげます。ちょっとお話をしたのですが、昨年、息子さんが亡くなられて以来、朝早く目が覚めたりで体調が悪いそうです。この日はデイサービス(?)にいく日だったそうです。ひょっとしてそれが負担になったのかもしれません。痛みが取れて帰っていかれました。


Bさん(60歳代、女性)は時々膝痛で来院されます。「痛くならんと来んのや」と言い訳?するのが口ぐせです。今日はいつもと違い、腰、左臀部、左大腿後面が痛いといって来られました。今日は10年前、新婚早々、事故で亡くなられた息子さんの墓参りにいってきたそうです。いくつかの圧痛点をブロックすると痛みはすぐにとれてしまいました。レントゲンは一応撮りました。痛みは歳のせいではないと言っておきました。


Cさん(50歳代、男性)はホテルの浴室を洗う仕事をしています。趣味は和太鼓をたたくことです。3週間前、タイヤを運んでいて腰が痛くなりました。2週間前より当院に通院しています。太鼓をたたいている時や、受診している時は全く痛くありません。仕事の時などに10分ぐらいあるいていると腰から右下肢が痛くなってきます。「あまり良くならないので先生に悪くて・・・」とCさんはおっしゃいます。そう言われるとこちらこそ恐縮します。圧痛点ははっきりしませんし、足の動脈の拍動も異常ありません。何しろ、受診している時は痛くないのですから。

「和太鼓をたたくのはかなりの重労働なのでしょ?その時は痛くないのだから、そのうち治りますよ。もっと精密検査をしたほうがいいという人がいるかもしれませんが、その必要はないと思いますよ。」

「ええ、そういってくれる人がいますが、先生を信用していますから。」

Dさん(60歳代、男性)は昨年5月に膀胱の手術をしました。尿を溜める袋をつけています。手術の後より、右の胸部に痛みを感じるようになりました。手術をした病院の先生は心が作る痛みだから心配ないと言ってとくに治療をしてくれませんでした。休日でも痛い所にマジックインキでしるしをつけて来院されます。トリガーポイントブロックはしばらくの間効いてくれるそうです。トリプタノール(抗うつ薬)を投与しましたら、来院する頻度がだいぶ少なくなりました。


Eさん(40歳代、女性)は肩こり、背痛で当院の常連です。今日は「昨日の夜、左の股関節から下が痛くて眠れなかった」といって来院されました。股関節前面から大腿にかけて飛び上がるほど痛いポイントがたくさんありました。もちろんトリガーポイントブロックをして痛みをとってあげました。「先生、これ、なんだろう?肉離れか?」「あし凝りだね。」"^_^"


Fさん(30歳代、女性)は当院の事務員です。「肩こりがひどいので注射してください。」私の治療は簡単で、痛くなく、効果があるので従業員が治療を希望します。


Aさん(60歳代、男性)は3日前の朝より特に原因と思われることなく左図のように痛みが出現しました。整骨院へいきましたがよくなりません。ますます痛みが強くなり、夜間も痛みでねむれません。以前にこのような痛みの経験はありません。

奥さんは冷えたせいだと言っているそうです。本人は座位で長時間仕事をしたせいかもしれないといっています。整骨院ではすじちがいだとのことです。

「ストレスに感じるようなことはなかったですか?」「特に何もありませんが・・」

「痛みの起きた前日は何をしていましたか?」

「妻の兄のお見舞いにいってきました。もう意識がない状態なんです。とてもかわいそうに思いました。」

「案外、それが原因かもしれませんよ。」

Bさん(70歳代、男性)は3ヶ月前より、車の運転をやめてしまいました。それに伴って趣味の釣りもやめてしまいました。そのころから、腰痛を次第に感じるようになりました。3日前、友人の葬式がありました。次の日より、両膝、腰、左肩がとても痛くなり来院されました。

「何か生きがい、趣味をもつことは大切ですよ。」

 


Cさん(60歳代、女性)は2ヶ月ほど前より左上肢がしびれるようになりました。夜は3回ほどトイレに起きます。熟睡できません。頭痛、肩こり、耳鳴りもあります。不安だらけだそうです。

 

 


D君(小学校2年生)は、2週間ほど前より頚がいたくなりました。1週間ほど前より夜間、咳がでるそうです。診察室でもさかんに咳き込んでいます。「おそらく、咳も頚痛もストレス反応だと思います。学校での様子などすこしお話を聞いてみたらどうでしょうか。心身の心の方のケアを考えてみてください。」お友達とのトラブルを訴えていましたが・・・


Eさん(20歳代、男性)は空手をしています。2ヶ月前の左足、左拇指の捻挫のあとの痛みの治療にかよっています。

ついでに、2年前より右下肢がしびれていることの相談を受けました。他医でヘルニアの診断を受けています。当初は強い痛みがあったそうです。左図のように圧痛がありました。

その圧痛点に局所麻酔を注射しましたところ、1週間後に来院した時、「しびれがとれました。」ついでの治療だったのですが、こんなこともあるんですね。Eさんは肩にも圧痛点がありました。筋筋膜痛が起こりやすい体質なのでしょうか。


Fさん(60歳代、女性)は約半年前より左かかとが痛くなりました。(踵骨棘)ついでに、腰痛、左股関節の横にも痛みがあります。大学病院の皮膚科で原因不明の皮膚掻痒で継続して投薬を受けています。目がとても乾くそうです。十分な睡眠はとれていないそうです。

以前に腹痛で救急車で入院したことがあるそうです。原因はよく分からなかったそうですが、ある医師から、腸の動きが悪いといわれたことがあります。「だいたいいつごろから体調が悪くなりましたか。」「10年前、店を始めたのですがそのあとからのように思います。」

Mさん(20歳代、女性)は3日前より特に原因なく腰痛になりました。昨日は右大腿部が強くしびれて眠れなかったそうです。このようなことは初めてだそうです。赤点のような圧痛点がありました。勿論すぐに治してあげました。「なにかストレスに感じることはありませんか。このようなことはストレスと関係があるのですよ。」「いいえ、なにもありません。」「役所にお勤めですね。お仕事の内容は?」

「相談窓口です。」「頭にくることないですか?」「いっぱいありますよ。」「肩こりや頭痛は?」「はい、しょっちゅうあります。今はありませんが。」「その仕事についてからではないですか?」「はいそうだと思います。」

青点のように硬結、圧痛点がありました。ここは休火山ということでしょう。


Nさん(70歳代、男性)、以前に頚痛で来院したことがあります。「2ヶ月ほど前より風邪が治らないで苦労しました。それが治ったおもったら、この間から腰や膝が痛くなりました。」

「風邪はどのような症状だっのですか?熱はでましたか?」「熱はでないんですがとにかく喉がいたいんです。耳鼻科にかよいました。」「耳鳴りとかめまいはありませんか?」「耳鳴りはずーっと以前よりあります。」

ひまでしたのでいろいろお話をおききしました。戦時中の非常に恐ろしい体験を目に涙をうかべてお話してくださいました。


Oさん(60歳代、男性)は3ヶ月ほど前、腰痛になりました。整体に2回かよいその後ゴムバンドをしてかなりよくなりました。その後、右の肩甲骨部が痛くなりました。診察を受け、頚の軟骨が悪いことを指摘されました。しだいに肩を動かすと鋭い痛みが走るようになりました。「それは50肩だから時期がくれば治る」と周囲に人にいわれていますが・・ある人から当院は他の整形外科と違うから受診するようにと進められました。

青点は腰痛の圧痛ポイントです。赤点も青点も同じメカニズムです。とくに病名を変える必要はありませんが・・
 

Rさん(80歳代、女性)は以前より、時々両膝痛で来院されます。レントゲンでは膝関節内にピロリン酸カルシウム結晶の沈着がみられます。今回は久々に「膝が痛くて歩けないので往診にきてくれ」との電話がありました。数日前より特に原因なく右膝が痛くなりました。膝はポンポンにふくれています。このようなことは今までありませんでした。

約50ccの関節内浸出液がありました。注射器で抜いて、ステロイド+局所麻酔を注入しました。このような急性炎症は、これですぐに治ってしまうものです。結晶誘発性の急性関節炎(偽痛風)です。

「数日前、知人が入水自殺した。かわいそうだ。」とおっしゃっていました。結晶誘発性の急性関節炎発作はしばしばみられるものですが、その引き金は案外「情動」が関係しているのかもしれません。


Sさん(80歳代、男性)は時々、腰痛で来院されます。今回は膝痛です。数回治療していますが、まだあまりよくないそうです。お腹の具合も悪く内科にもかかっています。

「来月、鹿児島へ行くのですが大丈夫ですかね」「鹿児島まで何をしにいくのですか?」「私は特攻隊の教官をやっていましたので、その関係で○○へ行くのです。」(特攻隊のあった場所)

特攻隊の教官とはつらい立場の仕事をしていらっしゃったのですね。
Tさん(60歳代、女性)は両肩痛や大腿部痛で当院にかかっています。ときどき嵐のように痛くなったりします。半年ほど前より両側の手指がこわばって伸展が十分にできなくなりました。リウマチの検査を何度かしてもCRPがやや高値をしめす以外は異常ありません。軽い吐き気があるときもあります。そのようなときは外来で点滴と安定剤でおさまります。ある日、指がすっかり伸びるようになったと喜んでこられました。「いったい何があったのですか?」

「私が嘘をついているといいふらされていたのですが、腹が立って・・・・自殺してやろうかと考えたこともありました。それで、ある人が私が正しいと証明してくれたんです。そしたら、指が伸びるようになりました。」「こぶしを握り締めていたのでしょうか」うそのようなほんとの話。


Sさん(70歳代、男性)から頚から背中が痛くてつらいので診てくれと夜に電話がありました。奥さんは私が診たことがあります。圧痛点が肩甲部から背中にかけて多数ありました。それらをすべてトリガーポイントブロック、レーザー照射で消してやりますと、すぐに症状はおさまりました。

「普段、肩こりはあるのですか?」「いいえ、ありません。数日前より何となく痛くなってきまして、今日はもうがまんできなくなりましたので、妻のすすめで来ました。」「何か、気になっていること、不安なことはありませんか?」「1週間前、血液検査で、前立腺のほうを検査したほうがいいということで、今度の月曜日に検査することになったのですが、それが不安なんです。」


Tさん(70歳代、女性)は3年ほど前より左膝が痛くなりました。整形外科や整骨院にかかっていますがよくならず、1年ほど前より跛行を呈するようになりました。同窓会で当院でよくなったお友達にすすめられて来院されました。

左図のような圧痛点がありました。それを消去してやるとすぐに跛行せずに歩けるようになりました。1年前からの跛行が数分の治療で治ってしまう。「正座の練習をしなさい。お風呂の中とか風呂上りに」「正座はだめといわれていたのですが。」「私を信じたほうがお得ですよ。」1週間後、痛みは半減、跛行なし。

Aさん(80歳代、女性)は数年前に夫と死別し一人暮らしです。半年以来の来院です。同じような症状でしたが、抗うつ薬の投与で改善していたのですが、中止されてしまいました。(私の治療を中止しないで内科のほうの治療を中止されればいいのですが・・・と思っていても言えないものです。)左図のような痛み、早朝覚醒、食欲不振、頻尿、頭痛、胃痛などです。内科では心臓や胃が悪い?ということで薬をもらっています。

夫が生きているときは二人の年金で生活できたそうです。今は、大変で貯金で何日生きることが出来るかいつも計算しているということです。以前は商店をしていました。近所の人がたずねて来るのですがそれがとても億劫にかんじられます。トリガーポイントブロックと抗うつ薬で、またよくなることでしょう。

Bさん(90歳代、男性)は年齢より10歳は若くみえます。約1ヶ月前より特に原因なく右の股関節から大腿にかけて痛くなりました。某病院で診てもらっていましたが原因がよく分からないということで座薬をもらっていました。1週間ほど前より歩行困難となりました。車椅子で診察室にこられました。

圧痛点をブロックするとすぐに立って少し歩くことができるようになりました。トリガーポイントブロックは検査にも治療にもなるのです。4日後来院時ほぼ治癒していました。

家人の付き添いでの来院ですが、初診の時と別の人でしたので説明は二度いたしました。(~_~;)

「先生、原因は何でしょうか?」

「筋肉に強い緊張がありましたね。その原因は不安とか緊張などのことが多いものです。何かの拍子に起こった痛みが次第に広がっていくことはよくあることです。ほとんどの痛みはある意味では原因不明といってもいいのですよ。」


Dさん(20歳代、女性)は特に原因なく3週間ほど前より、立ち座りの時右大腿部が痛くなりました。左図のような圧痛点がありました。レントゲンでは特に異常はありません。トリガーポイントブロックをしたいのですが、それを納得させるのは結構難しいものです。特に注射の嫌いな方には。ほとんど痛くないのですがね。治療の意味が理解できないことが多いのです。何とか説き伏せて、やりました。

「どうですか?立ったり座ったりしてごらんなさい。」「大丈夫です。痛くありません。」

これで痛みの原因、治療の意味が理解できるのです。もしこうしないと、この上のBさん(90歳)のようにならないともかぎらないのですから。痛みとは全くふしぎなものです。

「○○由来の痛み」「異常なし」「筋肉痛」・・・以上のような説明を受けることが多いものです。「筋肉痛」がもっともよいと思いますが、ちょっとイメージがちがいます。筋肉痛ならすぐ治ると思われがちなのですが、そうはいつもいかないものです。

1ヵ月後に再度来院。

「あれから、全く痛くなかったのですが、3日ほど前よりまた痛くなってきました。注射をうってください。」

「ストレスが関係していることが多いんだけど、何か思いあたることはないですか。」

「何もありませんが・・・」


Cさん(70歳代、女性)はたばこ屋をしていましたが、最近、河川工事で立ち退き引越しをしました。腰痛,早朝覚醒、疲労感、が続いています。引越しがこたえることはよくありますよ。特にご高齢の場合。以前も年に1度ほど腰痛で来院されましたが、そのつど1度の治療で回復されていましたが、今回はちょっと複雑です。勿論、腰の構造的な問題ではなくて、Cさんの環境の変化に伴うストレスが問題なのです。このようなことはかかりつけ医ではないとうまくいかないでしょう。

加茂整形外科医院