脱髄現象

「脳の痛み 心の痛み」 慢性痛からの解放をめざして      北見公一 著   三輪書店  


末梢神経が慢性に圧迫されることにより脱髄現象が起き、わずかな刺激にも敏感になり、痛みが生ずるものを拘扼性神経痛というのでした。手根管症候群のほかにも、椎間板ヘルニアのときのような神経根の慢性圧迫でもみられます。軸索や神経細胞膜は機械的および化学的刺激に対して極めて鋭敏に痛み反応を引き起こしますが、一般に末梢神経は結合織性の被膜に覆われているため、単なる圧迫では痛みは生じないと考えられています。椎間板ヘルニアによる慢性の神経圧迫では、椎間板の髄核や線維輪などの組織が後方へ飛び出し、それが脊髄神経や脊髄から出る神経根を慢性的に圧迫して、症状を出します。一般的には、この症状も含めて椎間板ヘルニアと呼ばれることが多いようですが、椎間板ヘルニアとは基本的には形態的な病名であり、本来はこの病態は椎間板症と呼ばれています。一般的に椎間板症のときの痛みは根性痛といわれるもので、これは脊髄神経節という部分の圧迫症状なのです。神経根は末梢神経と異なり結合織の被膜に覆われていません。一般に軸索突起(神経線維)が30mmHg以上の圧で圧迫されると、神経伝達物質を運ぶ軸索流という物質の運搬が停止し、圧迫が長く続くと、圧迫部位より遠位にある神経線維が死滅、変性と再生が起こります。これが側芽となり機械的刺激に反応するようになります。正常の脊髄神経節は純粋な圧迫では痛みは生じません。しびれるような感覚を感じるのみであるといいます。しかし神経節に炎症があれば、わずかな圧迫でも痛みを生じます。慢性の圧迫の結果、神経表面の血管が圧迫され、血行障害を起こし、さらに軸索の被覆組織である髄鞘が消失し、電線である軸索が部分的に露出する脱髄という現象が起こります。すなわち神経の圧迫が慢性的になると、その神経は脱髄を起こし神経毒の影響を受けやすくなるのです。


(加茂)

*ヘルニアに対して、この説は疑問があります。

加茂整形外科医院