とらわれの悪循環

「心療内科を訪ねて」     夏樹静子 著  より


ふとしたとらわれから始まった痛みの悪循環に振り回された男性。夫婦のコミュニケーションを見失ったために腰痛に苦しんだ主婦。ちょっとしたキッカケや、些細なことの積み重ねが重大な結果を作り上げてしまうという怖さは、多かれ少なかれ、誰しも思い当るものであろう。痛みには、身体病による痛みと、心が生み出す痛みと、その両方が混じりあったものと、3種類あると考えてもいいのではないだろうか?

このケースの男性の場合には、身体病はまったくなく、100バーセント心が作った痛みだったということになる。

女性の場合は、ギックリ腰というキッカケがあったから、あるいはその肉体的痛みも少しはあったかもしれない。だが、検査で何も異常は発見されないのだから、主治医の指摘の通り、心因の部分が大きいと見るべきであろう。キッカケとなった小さな痛みを、心因によって何倍にも増幅し、腰掛けられないほどひどく感じていたということもできる。

そして、精神の鬱屈が解消された時、痛みは徐々に、すっかり消えた。すると、彼女の場合も、100バーセント心が作った痛みであったのかもわからない。

私自身が三年間経験した、モルヒネを求め、死を願ったほどの腰痛も、わかってみれば、すべてが潜在意識からのメッセージみたいなものだった。心が痛みを生み、気付きを得た時、その痛みは消える。改めて心の不思議、心身医学の原点を、知らされる思いがした。

私の見解

 

痛みには、身体病による痛みと、心が生み出す痛みと、その両方が混じりあったものと、3種類あると考えてもいいのではないだろうか?

「身体病による痛み」とは具体的にどういうものなのでしょうか?帯状疱疹後の神経痛、幻視痛、癌性疼痛、感染症に伴う疼痛、骨折などのあきらかな損傷に伴う疼痛、外傷後の反射性交感神経萎縮症に伴う疼痛、などが考えられます。

「私の場合、ヘルニア、(分離症、狭窄症、すべり症、骨盤輪の不安定)がみつかったから、身体病の痛みだ。」「ぎっくり腰は身体病だ。」・・・・このように誤解していませんか。

ヘルニアがあるとなぜ痛いのか科学的に説明する義務があります。「ヘルニアが神経を押さえているから痛いのは当たり前だ。」等という説明はだめです。また、構造的異常?があるとなぜ痛みがおきるのか説明する義務があります。その説明は矛盾が生じ失敗におわるでしょう。

痛覚受容器や発痛物質が関与しているのか、痛み認知システム系になんらかの変化が起きているのか、説明しなくてはいけません。

ぎっくり腰の本態はどういうことなのか、説明できなければいけません。
「身体病による痛み」と「心が生み出す痛み」の線引きをどうするのか議論の余地があると思います。

加茂整形外科医院