眼鏡をかけても見えにくい:X線所見と非特異的腰痛の因果関係


脊椎のX線像の陰影についてあれこれ考えるのは、暇つぶしにはなる。しかし、非特異的腰痛患者にとって、そうしたX線所見はほとんど意味がない。

「X線所見と非特異的腰痛の因果関係の有無について、確たる証拠は得られていません」。オランダの研究者Maurits W.van Tulder博士らは、これらに関する研究を体系的に再検討した結果から、こう述べている(van Tulder et al.,1997.参照)。

van Tulder博士らは広範な文献調査を行い、基準を満たしている35のこれに関する研究を見出した。X線像でよくみられるいくつかの所見には、非特異的腰痛との関連性が認められなかった。ここで言うX線像でよくみられるいくつかの所見には、脊椎分離症・脊椎すべり症、二分脊椎、移行椎、脊椎症およびショイエルマン病(Scheuermann's disease)が含まれる。

脊椎変性には、非特異的腰痛との関連が認められた。van Tulder博士らは、「変性を、椎間腔狭小、骨棟および硬化像の存在により定義したところ、オッズ比1.2〜3.3で非特異的腰痛と関連性があることが明らかになりました」と述べている。しかし、これらの研究に偏りがあった可能性や、変性と腰痛の関連性が弱いことを考えて、彼らは、変性と非特異的腰痛の因果関係を示す確実な証拠はないと結論している。

これに対してJeremy Fairbank医師は、「先進医療システムでは、X線は非特異的腰痛の原因究明に大した役割を果たしていません。しかし、発展途上国では利用できる画像検査がX線だけの場合もあるので、その役割はより重要でしょう」とコメントをつけてい(Fairbank,1997.
参照)。

一方、「特異的」腰痛の原因究明においては、X線は依然として大きな役割を果たしていることを忘れてはならない。臨床医が腰痛の原因として、骨折、悪性腫瘍、感染など、重大な原因を疑った場合、画像検査法としてX線を選択することが多いただし、AHCPR(米国医療政策研究局)や英国のガイドラインでは、病歴と健康診断で、症状に特別な原因があることを示唆する危険信号が出た場合にのみ、X線検査を指示するべきだとしている。

脊椎X線検査のコストが上昇し、、脊椎MRI検査のコストが急降下するに従い、一部の医療システムではX線の利用が低下している。Fairbank医師は、Oxford(英国)にある彼のシステムでは、重大な疾患が疑われる症例については単純X線像は取りやめて、そのかわりに一般開業医にMRIの利用を開放していると述べている。

これは判断の難しい問題であるある病理学的異常を発見する上で、MRIはX線よりも感度が高い。ところがそのために、MRIスキャンでは関係のない異常が多数明らかになり、診断を惑わすという不都合が生じる。MRIに関するもう一つの問題として、MRI機器の性能やその利用のされ方にかなりのばらつきがみられる点がある。単純X線フィノレムにかえてMRIスキャンを用いるという方策をとる際には、その前提として診断や治療に与える影響を評価することが必要である。


参考文献:

Fairbank J, Point of view, Spine,1997;22(4):434.
van Tulder MW et al., Spinal radiographic findings and nonspecific low back pain, Spine. 1997; 22(4): 427-34 . 


The BackLetter 1997; 12(4) : 38.

加茂整形外科医院