症例55  それぞれの痛み4

原因不明の身体症状


Aさん(60歳代、女性)は8ヶ月前より、左下肢が痛くなりました。整骨院に通院していましたが、左膝も痛くなり、4ヶ月前より某病院に通院するようになりました。1ヶ月前より、急に痛みがひどくなり膝に水がたまり、2回穿刺を受けました。一向によくなる気配がありません。夫の薦めで当院を受診されました。

レントゲンは年齢相応、水が溜まった状態、軽度の跛行、夜間痛あり。正座はできません。軽度のうつ状態あり自分でもそれを認識している。

心理的なストレスが関係していて、軟骨のせいではないことを説明するとすぐに理解ができた様子で、息子夫婦との同居がきっかけかもしれないとおっしゃいました。

水を抜いてステロイド+局麻を注入、圧痛点ブロックをする。「寝る前に安定剤をだしますから飲んでみてください。ゆっくり休まれるといいです。必ずよくなりますよ。」

3日後、再診。「おかげさんでよくなりました。」「薬はのみましたか?」「飲まなくてもぐっすり眠れます。」「正座はどうですか?」「まだこわくてやっていません。」

水はたまっていませんでした。このような症状は軟骨のせいにされますが、原因不明の身体症状といったほうが適切です。そういえば五十肩もそうですね。それらは不安、うつ、怒りなどの情動と関係しているように思えます。医者にかかることによって不安がますます大きくなることが多いものです。今回のケースも不安を解消してやることによって症状が改善し治癒へのきっかけとなったのでしょう。


Bさん(60歳代、女性)は以前に坐骨神経痛で当院にかかっています。今回は正月より左膝が痛くて来院されました。「足腰のためにプールに通っているのですが、バタ足の練習をしてより痛くなりました。」

水がたまって正座できない状態でした。上記と同じ治療をして痛くなくなり正座もできるようになりました。

「親が半月板が悪く長く通院していたので、夫がそういっておどかすのです。」

「バタ足の練習がきっかけかどうかははっきりしません。後からそうではないかと想像したわけです。半月板は60歳すぎたら痛くない人も検査したら半数近くに異常がみられます。このようなことは半月板とは無関係でストレスと関係しますよ。だから治るのです。」

ストレスの話はすぐに理解できたようです。「正月に嫁にいった娘が帰ってきて姑とのトラブルの話とかで・・・いまストレスがいっぱいなんです。」

「前の坐骨神経痛のときと同じことです。」


Cさん(70歳代、女性)数年前より、右膝が痛くて周囲のすすめでグルコサミンを飲んでいます。一向に良くならないので来院されました。膝周囲、大腿、下腿に圧痛点が多数ありました。水は溜まっていませんでした。圧痛点をブロックするとすぐによくなりました。

現在、2回来院しています。「すごくよくなりました。今までが何だったんだろう、たくさんお金を使って・・」

「痛みは軟骨と関係ないですよ。ストレスとか心の動きと関係があるんです。」「そういえば、事業をしていたのですがその時はどこも痛くありませんでした。やめたとたんに痛くなりだしたんですよ。」「痛みはそんなもんなんです。グルコサミンでよくなる人もいます。それは薬理作用というよりか安心感とかいったものではないかと考えています。」


Dさん(56歳、男性)は昨日会社で階段を上っているとき急に左ふくらはぎが痛くなりました。夜も痛みが続いていました。跛行。

ふくらはぎからアキレス腱にかけて圧痛点が多数ありました。肉離れの感じはありません。圧痛点をブロックしてやると症状はほぼなくなってしまいました。

「ぎっくりふくらはぎ・・ですね。痛みは不思議なものです。ストレスが関係していると思います。もし会社の階段ではなくて楽しい場所の階段だったら起きなかったかもしれませんよ。私と同じ団塊の世代ですね。そろそろ会社勤めもいやになったのかもしれませんね。(^_^;)」

「そういえば私はぎっくり腰もよく起きるのです。お医者さんは定年がなくていいですねw」

「定年もなければ退職金もない、いつまで仕事をすればいいのやら・・・人生なにがいいのかわかりませんね。」


Eさん(60歳、男性)は昨日夕方、孫と風呂に行こうとして下駄箱でしゃがんだ瞬間、腰に激痛が走った。ほとんど動けなくなる。睡眠薬を飲んでねむる。

3〜4年前まで年に1回ぐらいぎっくり腰を起こして当院にきているとのこと。最近は起こさなくなりよろこんでいたところだそうです。普段は腰痛0とのこと。

娘さんに抱えられるようにしてゆっくり歩いてくる。ベッドにうつ伏せになるのもきわめて困難。強い圧痛点が図のようにあり。レントゲンは撮っていない。

圧痛点ブロックをしては動きを試してみるを3回繰り返した。計24ccの局麻を使う。15分ぐらいかかったか。

スムーズに立ち座りでき、支えなく歩けるようになる。「あ〜助かった!!」といって帰られた。

「明日、もう一度みせにきてください。」たぶん数日のうちに治癒するでしょう。

アメリカの文献で急性腰痛は何もしなくてもほとんどは数週で治るので、積極的に治療しなくてもよいというようなものをみるが、慢性化しないともかぎらない。こんな短時間で簡単で安全で安い?治療を知らないのではないか?患者は可能なかぎり痛みを止めてもらう権利があると思う。

Aさんは会社設立に忙しいということです。


Fさん(78歳、女性)は長年腰が痛いそうです。2w前より両膝が痛くなってきました。やや円背があり、左手を左大腿前面に添えて歩いています。(痛み行動)

治療すればよくなることを告げても、がんとして受け入れようとしません。「曲がってしまった背骨がまっすぐなるはずではないし・・・軟骨も減ってしまってるやろ。」と自分の判断を強く主張します。このタイプの人の治療は難しいものです。

いつものように圧痛点に局所麻酔を注射してやりました。そして歩かせてみたのですが、自分の主張をいいはっています。

初診より3日目(2回目)まだよくなったという言葉はけません。私はこれは辛抱強くやるよりしかたがないなと思っていました。

初診より7日目(3回目)「腰も膝もだいぶよくなった」とおっしゃいました。一瞬、驚きました。予想に反して、早くも治癒へのスタートがきれたみたいです。

「先生、もう注射はええわ、注射しとると骨がぼろぼろになるとゆうとったわ。」

「そうか。そんならしばらく電気だけかけとけよ。」

よくなったといっている人に注射する必要はないんですが。

痛みの治療は医師と患者が信頼関係を持ち協力して治癒をめざそうという基本的なことがなければなりたちません。心無い第3者の言葉がそれをこわしてしまうこともあります。局所麻酔を4cc打っても骨がぼろぼろになることはありません。こような場合の注射は薬理作用の期待もありますが、医師が手当てしているという儀式的な意味もあります。


Gさん(48歳、女性)「3ヶ月ほど前捻挫した足の甲がいまだに痛く正座ができません。」

足の甲の圧痛点に局所麻酔2cc注射しました。「どうですか?正座してみてください。」「あ!痛くないです。(^_^)」

3日後、だいぶ良くなったのですが、前とちょっとちがった場所が痛いんです。同じ足の甲の前回より少し離れた所に圧痛点がありました。その場所に注射しました。「痛くないです。(^_^)」

3日後、「もう足は痛くなくなりました。今朝、ポットを持った瞬間、背中にピリッと痛みが走り、腕を動かすといたいです。」右の肩甲骨の中央に強い圧痛点がありました。またおなじことをしました。

「どうですか?腕を動かしてみてください。」「いたくないです。(^_^)」

こんなのどういう病名がいいと思いますか?「末梢性痛覚過敏状態(足背)(肩甲骨部)」?


Hさん(59歳、女性)半年前より左臀部より下腿外側にかけて、ピリピリとした痛みが常時あります。時々強くなります。

3つの病院でいずれも椎間板ヘルニアの診断を受けています。(MRI受けている)色々治療をうけましたがよくならず、整骨院もかけもちで治療。

23日、当院受診、左図のような圧痛点あり。トリガーポイントブロックをする。計18ccの局麻を使う。帰りは楽になったという。

24日、2回目受診。「とてもよくなりました。昨夜はピリピリしないでよく眠れました。今はお尻、大腿は全く痛くないです。下腿が少し、ジーンとした感じが残っているがあまり気になりません。もう治らないのかと思っていたので驚いています。本当にありがとうございました。」

発病が退職と関係あるかもしれません。いつもこのように著効するとはかぎりませんが、このようなこともあることは事実です。

 


Iさん(50歳代、女性)1W前より、誘因なく左尻から下肢にかけて痛くなりました。本日、朝より、痛みが増強。過去にこのようなことはありません。やや歩行困難。

図のように圧痛点あり。圧痛点ブロックする。楽になる。

今後、どのような経過をたどるかはわかりませんが・・。

3日後、約半分の痛みになりました。


Jさん(20歳、男性)

「先生、お尻の骨を取ってくれませんか。」「いったいどうしたんですか?」「痛いんです。親が骨が出っ張っているからとってもらえと言った。」「いつから痛いの?」「5年ぐらい前から、」「どんなときに?」「30分ぐらいすわっているといたくなります。」

骨には異常がない。皮下が痛覚過敏になっている。尾骨痛といわれているものでめずらしくはない。発症にはストレスが関係していることが多い。治療したら治ると思うので骨は取らなくてよい。などの説明をする。

Jさんが帰ったあと、看護師(Jさんの近所)が5年ほど前にJさんの両親が離婚したことを教えてくれました。発症はおそらくそのことと関係あるでしょう。


Kさん(73歳、男性)は約1ヶ月前、雪かきをしてより腰痛、右下肢痛が出現しました。以前にはこのような症状はなかったそうです。

次第に症状は強くなり夜間痛、特に朝起きる時辛い、少し歩くと痛みが強くなり前屈みになる、という状態になり2月23日来院されました。

左図のように強い圧痛点がありました。トリガーポイントブロック(局麻10t)をしレーザー照射をしました。薬は蕁麻疹の薬を飲んでいるので飲みたくないとのことでした。

24日、昨日はぐっすり眠れた。50軒ほど配達ができた。26日、痛み60%位になった。28日、痛み30%位になった。とても喜んでいらっしゃいました。もうしばらくで治癒することでしょう。

Mさん(42歳、女性)は約1ヶ月前より特に原因なく、左肩が痛くなりました。次第に症状は強くなり、夜間痛も出現するようになりました。腕は90度までしか上げられません。帯を結ぶ動作ができません。28日来院。

圧痛点は左図のようにありました。トリガーポイントブロックをしレーザーをあてました。挙上角度は40度ほど改善しました。

KさんとMさんは上肢下肢の違いはありますが同じ病態と考えます。特にはっきりした原因なく発症し、しだいに悪化、夜間痛出現。肩甲骨と腸骨は同じようなものです。下肢は体幹を支えるので見た目にはより辛そうです。

Kさんの場合は「腰からきている」「坐骨神経痛」「脊柱管狭窄症」、Mさんの場合は「肩関節周囲炎」「頸肩腕症候群」のような病名がつけられ説明されるのが一般的でしょう。

どちらも末梢性の痛覚過敏(圧痛点、トリガーポイント)を呈してきているのですから治療法は同じです。なぜ、その場所がそうなったのかは説明困難です。ストレス反応であることはたしかですが。


82歳、女性、昨日転んで、膝下に血腫、

今までに膝が痛かったことは一度もなかったとおっしゃっていました。

関節軟骨の変性=関節痛、ではないということです。

 

加茂整形外科医院