脊柱管狭窄症手術の長期成績に関する厳しい調査緒果。これが本当に一般的なのか?


高齢者の変性性脊柱管狭窄症の患者に対する手術療法は、症状の改善が長く続かない場合が多いという調査結果が最近報告された。

Boston, Brigham and Women's Hospitalのリウマチ専門医であるJeffrey Katz博士らが、脊柱管狭窄のために除圧手術を受けた患者を7〜10年後に追跡調査したところ、1/4の患者が再手術を受け、1/3が重度の腰痛を訴え、半数以上が2ブロック程度の距離も歩けないことが明らかになった(Spine 1996;21(1):92-97.を参照)。

Katz博士は、「痛みや機能障害がその後再発することは極めてよくあります。再手術も珍しくありません。脊柱管狭窄に手術は有効ですが、患者にあまり期待をもたせすぎてはいけません。この手術は股関節置換術とは違います。解剖学的な異常を完全に治せるわけではありません」と述べている。

今回の調査結果から、手術の長期成績は惨憺たるものであるように思われるが、その一方で76%の患者が手術の結果に満足していると回答しており、82%が必要あれば再度手術を受けるつもりであると答えている。症状の重い高齢者にとっては、日々の痛みや機能が少しでも改善されれば歓迎することのようである。

この研究には賞賛と批判の両方が寄せられている。スウェーデン、Gothenburg大学の整形外科医、Bjon Rydevik博士は、「この研究から、脊柱管狭窄症の手術後の治療成績に関して、かなり多くの情報を知ることができました。これらはこの種の患者に対する様々な治療法の選択を論じる上で重要なデータになります」と述べている(Spine 1996;21(1):92-97.を参照)。

この分野を研究しているAlf L.Nachemson医学博士は、「今回のものを含めたいくつかの研究結果からみて、狭窄症の手術後の成績は年月が経つにつれ悪化するように思われます。これらの研究で共通して明らかになったことは、この手術が腰痛を治療するものではないということです。これは下肢痛に対する治療であり、機能を改善して患者がもっとよく歩けるようにするために行うものなのです」と述べている。

この研究は手術成績について過度に厳しい評価をしているのではないかと推測する意見も聞かれる。彼らは、患者の一部では除圧が十分に行われていなかったのかもしれないし、脊椎固定術を行っていればもっと多くの患者で改善が認められていたはずだと考えている。現在の手術技法は、この研究対象となった手術が行われた当時よりも進歩しているという指摘もある。

Georgetown大学医療センターのSam Wiesel医学博士は、「この研究の最大の特徴は、1つの疾患の多数例を長期間追跡調査している点です。しかし、あくまで1名の外科医が取り扱った患者だけを対象とした1つの調査にすぎません。また、除圧術の程度を定量化することもできません」と指摘している。

さらにWiesel博士は、「私は20年間にわたり脊柱管狭窄の手術を行ってきました。私が今日行っている手術は初期の頃のものとはかなり異なります。現在の手術はかなり改善されていると思いますが、それが1O年後にどうかと言われたら確証はありません。今後も長期成績に関する新しい調査結果が得られるたびに、この問題を再検討し続けていくことが必要でしょう」と述べている。

高齢の狭窄症患者グループを対象に、このように詳細な長期追跡調査による評価を行った研究はほとんどないため、これらの結果を他の試験と比較するのは難しい。この高齢の狭窄症患者群に関する調査結果は典型的なものなのだろうか?この質問に答えることは不可能である。

狭窄手術件数は年間30,000件

脊柱管狭窄の最適な治療法を明らかにすることは、今なお保健医療面における重要な課題である。米国内だけで毎年30,000件以上の脊柱管狭窄手術が行われており、その総費用は1O億ドルに近づこうとしている。

これまでに様々な研究で、短・中期的な症状の軽減には手術が有用であると示されている。1992年にJudith Turnerらが試みたメタ分析によると、手術の成功率は約64%であることが明らかになった(Spine 1992;17:1-8.を参照)。対象グループの中には短期的な手術の成功率が85%に達したものもあった。しかしながら、脊柱管狭窄に関するプロスペクティブな研究は少なく、長期経過観察を行ったものも非常に少ない。

Katz博士らは、1983〜1986年の間に椎弓切除による除圧術を受けた患者88例(固定を行ったものと行わなかったものを含む)に関して、レトロスペクティブな評価とプロスペクティブな追跡調査を行った。患者は概して高齢で、手術前の平均年齢は69歳(55〜89歳)であった。性別では女性が多く、ほとんどの患者が多椎間狭窄を有していた。

手術は全て優れた1名の外科医によって行われた。16例で1椎間の除圧術を行い、33例で2椎間、29例で3椎間、1O例で4椎間の除圧術を行っていた。22例で変性すべり症が認められたが、固定術が行われたのは8例のみであった。

この外科医は狭窄症に対し、椎弓切除、内側の椎間関節切除によるlateral recessの除圧、椎間孔を抜けるまでの各神経根走行経路の除圧を行った。1Oo以上のすべりを有した8例については、腸骨稜からの骨移植による両側の側方固定術が行われた。

手術から7〜1O年後の長期追跡調査の時点までに、当初の対象例の23%が死亡しており分析対象から除外した。残りの81%が郵送によるアンケート調査に回答した。

回答者の1/3は、強度の腰部、腎部、下肢の痛みがあると回答した。1/3は強度の腰痛があると回答した。また、20%は大腿部、下腿部、あるいは足部に強い痛みがあると回答した。

患者の85%は手術後に明らかな疼痛の緩和が得られたと回答した。患者の約1/3は疼痛の緩和が持続していた。

患者の53%は2ブロック程度の距離も歩けないと回答した。38%はショッピングモールや戸外を散歩できない、4%は住まいを歩き回ることもできないと回答した。回答者の1/3が、歩行困難の原因を主として腰部の問題であると述べていた。

23%が再手術を受け、再々手術を受けた患者も2例みられた。「合計で39%の患者が追跡調査の時点までに再手術を受けるか、重度の疼痛を有していました」とKatz博士らは報告した。

手術結果に満足している患者の割合は驚くほど高く、“手術結果に多少不満"、あるいは“非常に不満である"と答えた患者はわずか25%であった。重度の腰痛と不満度については強い相関がみられ、除圧術を行えば腰部の症状がなくなるだろうという非現実的な期待を抱いている患者がいたことが示唆される。

自然経過は悲惨か?

これらを総合すると、手術後初期にはほとんどの患者で症状の改善がみられるものの、それは往々にして長続きしないことが調査で明らかになった。1989年に行われた追跡調査では、予後不良を予測する最も重要な因子は腰痛の重症度であった。追跡調査期間が長くなるにつれ成績は悪くなった。1989年の追跡調査では、他にも医学的問題点のある合併症が予後不良を予測する因子であるという結果が得られていたが、長期追跡調査による結果は異なった。治療開始時点で合併症を有していた患者のほとんどは、どうやらそれまでの期間にすでに死亡してしまったらしい。

Katz博士は、再発性の有症性脊柱管狭窄症の自然経過が良くないことを考慮した上で、これらの結果を解釈しなければならないと指摘する。「この疾患の自然経過の悪さは確かな事実です」と博士は主張する。手術の成績は目覚ましいものではなかったが、結果に満足している患者の割合から考えれば、手術によってこれらの患者の生活は著しく変わったのかもしれない。

今回の結果は、現実をよく表わしているのだろうか?

患者が最も適切な外科治療を受けていたか、あるいは彼らの予後が典型的なものであったかどうかについて、我々は知る術がない。もっと広範な除圧術を行っていれば、より長期間にわたって症状が抑えられていたのかもしれない。あるいは、固定術をもっと多く適用していれば腰痛の程度が軽くなったかもしれない。Katz博士は、「これらの仮説は興味深い問題で、比較対照試験を行って検討することが必要です」と語る。「これらの批判はどちらも正しいのではないかと思われるヒントがいくつかあります」。多レベルの除圧術と脊椎固定術の両方を受けた患者には、有意でなかったが再手術の実施率の低い傾向が認められた。Rydevik博士は、「このデータは、個々の腰部脊柱管狭窄症の患者に適切な手術法を決定することが難しいように、正確な術前評価を行うことも難しいことを示しているのです」と述べた。

Arto Hemo医学博士らは、狭窄手術を受けた比較的若い患者(手術時の平均年齢50.7歳)のグループを対象に長期追跡調査を行い、手術後
の経過がそれほど急速に悪化しないことを明らかにした。除圧術から平均12.8年後に行った追跡調査において、患者の69%が機能面においてgoodからexcellentの成績を示した。再手術を受けていたのは約10%であった。固定術が行われた例はなかった(Spine 1993;18(1):1471-1474.を参照)。

脊柱管狭窄症の手術成績が時間が経つにつれ悪化していくことについては、ほとんど異論がない。もちろん問題はそれがどの程度であるかである。Katz博士らの研究に基づいて、重度の症状が再発したり再手術が必要となる確率は40%であると患者に告げることもできるだろう。これに対し、比較的若い患者を対象としたHerno博士の研究に基づけば、結果はもう少し良いと考えられるだろう。手術の予後に対して、より正確な情報を得るには、無作為抽出試験を実施し、その長期追跡調査の結果を待たなければならない。

The BackLetter,11(3):25,33.1996.

加茂整形外科医院