慢性疼痛の病態と分類


慢性疼痛とは,何らかの神経病変が治癒した後も痛みを訴える場合,および明らかな神経病変がないにもかかわらず長期間にわたり痛みを訴える病態をいう。器質的疾患で疼痛を伴うものは多い。それらの疾患では,痛みを起こす器質的,生物学的原因が解明されたものとして扱われることが多いが,よく考えてみると有痛性疾患の痛みの原因を器質的なものだけに限定することほど困難な作業はない。なぜなら痛みは急性痛であろうが慢性痛であろうが,器質的すなわち身体的側面と心理的すなわち精神的側面とを必ずもち合わせているからである。そしてそれぞれの有痛性疾患を患う人々の性格も種々雑多で一様ではない。たとえば同じ三叉神経痛でも心理的要素が訴えの大半に関与している場合もあれば,神経血管圧迫症侯群のようにほぼ純粋に器質的要素から起こっている場合もある。逆に器質的疾患がみつからないのに,痛みだけを訴える疾患群もある。それらは米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)疾病分類〔DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)-W]では身体表現性障害(somatoform disorder)のなかの疼痛性障害(pain disorder)として分類される。このような慢性疼痛は原因不明とされたり心因性とされたりすることが多いのたが,筆者は原因不明とされる慢性疾痛の「器質的」原因として,後述する筋筋膜性疾痛症候群(myofascial pain syndrome:MPS)という疾患が重要と考えている。筆者は慢性疼痛をおもに以下の3群に分類している。

1)身体的に痛みと関連のある明らかな神経障害(神経損傷,侵害刺激)が認められる器質群。痛みの原因は不可逆的な神経の損傷による求心路遮断痛であるか,何らかの痛覚神経への侵害受容器刺激性病変であるかのいずれかである。筆者の研究では,この場合も心気症傾向など,疼痛を助長する心理的背景が存在する。

2)神経障害はあるが訴えている痛みとは関連の少ない神経障害である準器質群。

3)明らかな神経障害が認められない非器質群。準器質群と非器質群はDSM-Wの身体表現性障害のうちの疼痛性障害に相当する。この2群の身体的な診断名は,頚椎捻挫,外傷後あるいは非定型顔面痛,腰・背部痛など後述するMPSが基本的な病態となっており,身体的にみれば二次的な痛みの要素が主体であるといえる。

加茂整形外科医院