慢性疼痛とうつとの関係


慢性疼痛患者の心理的特徴として,保険や医療,法律,会社組織などの仕組みに対し,合理的な判断ができず不安に陥りやすいというものがある。また医療者や家族,関係者に被害妄想的怒りを向けることもある。この場合,医療者が適切な説明を怠ると,いっそう医療不信をつのらせ,症状が長引く」因となる。また事故の被害者の場合,加害者の態度によって,あるいは支払われる保険金に対する不満から,怒りや心のなかの葛藤が生じる。病気の場合も,とくに重篤な場合は,自分がこのような病気になるはずがないという否認や,どうして自分がこのように苦しまなければならないのかという怒りが生じやすいといわれている。痛みが長引けば当然気分が落ち込み,抑うつ状態が加わってくる。痛みがあるから動かさないでいると,関節や筋肉が硬くなってMPSが生じ,二次的な痛みをきたしてしまうのである。こういった悪循環の根本は,社会制度や患者自身の病気が理解できず,今後の展望や生活の保証などがまったく立たないことからくる不安と抑うつであり,この意味で,慢性疼痛患者は社会的関係からくる不安と身体的不全感のダブルパンチを受け,痛みの悪循環から抜け出せないでいるといえる。慢性疼痛とうつ病には類似点が多くみられる。なかには慢性疼痛はうつ病そのものであると言いきる研究者もいる。しかし筆者は,慢性疼痛に付随する抑うつ状態については,通常は患者を取り巻く社会環境に対して反応性に起こった二次的なものであるという立場に立って考えている。いずれにせよ慢性疼痛に抑うつ状態が合併する以上,この点からも抗うつ薬の投与が当然考えられる。

加茂整形外科医院