椎間板性腰痛の自然経過-手術なしでの患者の回復は可能か?-


北米脊椎学会の最近の総会で、North Carolinaから出された新しい研究報告が論争を引き起こした。外科医の研究グループが驚くべき成果、つまり手術適応と思われる慢性の椎間板性腰痛の患者が、非手術的治療を続けると長期的には手術療法より経過が良好であろうと報告したのである。

Alfred Rhyne,V医学博士と共同研究者らは、手術適応であっても、手術を拒絶したり受けられなかった患者の68%が、3年後に大幅に症状が改善していたことを明らかにした。労災補償患者の2/3は仕事に復帰していた。6例だけは悪化していたが、このうち4例は精神医学的な診断を得ていた。博士は、「これらの結果は、この条件における手術の成績と同程度か、あるいはそれらより良いのです。」と結論した。

他の研究者は、直ちにこの研究の不備を指摘し、正当な結論ではないと反論した。Rhyne博士は研究の計画に不備があることを認めた。しかし、この論文は脊椎に関する文献が無視してきた重要な問いかけに答えるための最初の試みであることに間違いないと指摘した。その問いかけとは「椎間板性腰痛の自然経過は、いかなるものか?」というものである。少なくともこの小さな調査母集団において、自然経過はかなり良好なように思われる。

椎間板性腰痛は、いまだ議論のある概念

椎間板性腰痛の診断には、いまだ議論がある。多くの脊椎専門医が腰背部痛が椎間板異常からしばしぱ生じると考えるが、この診断を確実に証明することができる試験がない。

椎間板性腰痛は、正常なX線像、MRI像またはCTスキャン像、および神経学的所見をほとんど伴わない軸性の腰痛を一般的に指している。診断は、しばしば椎間板造影の陽性所見により、すなわち椎間板造影注射で椎間板内に異常が認められ、かつ患者の症状の再現による所見である。

Rhyne博士らは、1987〜1990年までに腰痛の診断のために椎間板造影術を受けた患者432例のカルテを過去にさかのぼって検討した。全椎間板造影は標準化されたプロトコールにしたがい、一人の椎間板造影に熟練した医師によって実施された。

椎間板造影術を受けた患者432名のうち、36例がこの研究の採用基準を満たした。これらの患者は、椎間固定手術の適応の有無を確認するために徹底的な診断検査を受けた。全例が耐えられないほどの腰痛を有し、また、数カ月間にわたる保存療法が無効であった。患者は一椎間の椎間板造影に陽性所見を認めていたが、さまざまな理由のため、手術を受けていなかった。

研究者は手術適応例であった25例を追跡調査し、総合的評価を得るために、理学的検査、X線撮影、客観的不自由度の判定を行った。全例ともに、患者が最初の精密検査を受けてから3年以上経過していた。

経過観察時の患者の平均年齢は48歳で、男性9例、女性16例であった。25例中15例は、椎間板造影の時点では、仕事をしていない労災補償患者であった。12例は喫煙者で、平均経過観察期間は4.9年であった。

3年以上経過した後、患者25例のうち17例(68%)が改善していた。2例は変化がみられず、6例が悪化していた。労災補償患者の80%が改善しており、また喫煙者の66.7%と、非喫煙者の69.2%に改善が認められた。

経過調査時には、患者全体の67%が仕事に就いていた。15例の労災補償患者のうち、10例が仕事に復帰できるほど回復していた。椎間板造影施行時には、労災補償患者は一人として働いていなかった。

また悪化した6例の患者のうち4例は、腰痛症状に影響した可能性のある精神医学的な診断名を与えられていた。精神医学的な診断名を与えられていた症例を除くと、結果はさらに良好であった。

研究結果についての論争

これらの結果を総合して、Rhyne博士と共同研究者は、明らかな心因性に問題のない患者では、椎間板性腰痛は好ましい自然経過を示したと結論した。彼らは軸性の腰痛の椎間固定手術に関する論文で、68%程度の成功率を示しているものは非常に少ないと述べた。

数名の研究者は、この研究の方法論的欠陥を批判した。Dalls脊椎グループのDavid Selby医学博士は、このような回顧的研究は先入観を生じる可能性が高いと指摘した。例えば、患者の改善報告は、彼らが3.3〜7年前の椎間板造影施行時にどうだったかという記憶に基づいている。この種の記憶は一般的に正確な結果をもたらさない。

同様に研究の規模についても問題である。25例の患者の研究が、多くの患者に影響を及ぼす症状の自然経過にっいての正確な評価を与え得るだろうか?答え.はおそらく「否」だろう。

一方、他の脊椎外科医はこの結果が混乱を生じさせると認めていた。研究についての討論の席上、NASSの一人は、「私は聴衆がこの報告に対して不快感を抱いていることに気づきました。」と述べ、「その点が重要なのです。新しい概念を最初に提示する論文は、一般的にあまりよく設計されていませんし、規模もそれほど大きくありません。たいていは決定的性質や構造を持っていないものなのです。」と続けた。

この研究は、椎間板性腰痛の自然経過についての完全に正確な特性の解析ではないかもしれない。しかしながら、科学文献が今までに提供した唯一の基準点であると彼は示唆している。彼はさらに、「われわれの唯一の自然治癒率の指標である68%よりすぐれた結果を得ていないならば、ある治療法を患者に施行したり勧めたりしている医者は気まずさを感じるべきでしょう。」と語った。

(The BackLetter,Vo1.9,No.121p.133,142.1994.)

 


(加茂)

そもそも椎間板性腰痛という概念そのものがあやしいです。

加茂整形外科医院