症状のない椎間板の脱出およぴ遊離脱出はまれであったが、高信号域はよくみられた

最新研究報告


症状のない若年および中年患者の脊椎のMRI異常を調べた最新研究により、椎間板の膨隆(bulges)および突出(protrusion)は非常によくみられるが、椎間板の脱出(extrusion)および遊離脱出(sequestration)はあまりみられないことが、再び示された。また、高信号域は高い割合でみられ、高信号域が痛みのある線維輪外側断裂の典型的なマーカーであるとの仮説に、疑問を投げかけた。

Dominik Weishaupt博士らは、20〜50歳(平均年齢35歳)の、症状のない被験者60名の腰椎について、T1強調の矢状断像ならびにT2強調の矢状断像および横断像の検脊を行った。中立的立場の放射線科医師2名が、スキャンの結果を評価して、椎間板異常、終板異常および椎間関節の変形性関節症(OA)の有無について検討した(Weishaupt et al.、1998年を参照)。

被験者の3分の2に、椎間板膨隆または椎間板突出が認められた。高信号域は、被験者の約3分の1に認められた。

椎間板の脱出は少なく、被験者の18%に認められた。椎間板の遊離脱出は全く認められなかった。ごく少数の被験者に終板異常が見られた。重度の椎間関節の変形性関節症は、全く観察されなかった。

これらは興味深い知見である。とは言え、本研究におけるこの結果が必ずしも彼らの結論を支持するとは限らない。Weishaupt博士らによる結論は“50歳未満の患者では、椎間板の脱出および遊離脱出、神経根圧迫、終板異常ならびに椎間関節の変形性関節症はまれである。従って、それらは、症状のある被験者における腰痛の予測因子となりうるだろう。"というものである。

この結論は正しいのかもしれないが、Weishaupt博士らは、その根拠となる証拠を示していない。

症状のない被験者に関する多数の研究において、椎間板の脱出はまれであった。しかしながら、Norbert Boos博士らの行った研究(Boos博士は、上記の論文の共同著者でもある)では、20〜50歳の症状のない被験者の13%で、少なくとも1椎間に脱出が認められた。このことは、脱出が症状を引き起こさない病変である可能性があり、必然的に、疼痛の発生部位とみなすべきではないことを示している(Boos et al.1995年を参照)。

症状のない被験者で椎間板の遊離脱出が認められたとの報告はこれまでほとんどない。これは、椎間板の遊離脱出が、疼痛のある状態の予測因子であることを意味するのであろう。しかしながら、椎間板の遊離脱出の証拠が短期間で消えた可能性もある。というのは、体の防御システムが、遊離脱出した椎間板組織を攻撃し、消化してしまうことが多いからである。

終板および隣接する骨髄の信号強度の変化が、痛みを伴う異常を示しているのではないかという証拠が、いくつかの研究から得られている。“しかしながら、終板の変化が腰痛の予測因子であるかもしれないという仮説を実証するには、年齢、性別および職業といった背景因子を対応させた、症状のある患者とない患者についてのプロスペクティブ研究が必要であろう"と、Weishaupt博士らは指摘している。

筆者らは、これらの被験者の椎間関節に重度の変形性関節症(OA)が認められないのは、重度のOAが腰痛において『活発な役割』を果たしている可能性を示していると考えている。しかしながら、この研究では、症状のない被験者の約20%が、椎間関節に軽度または中等度のOAを有していた。症状のない被験者でMRI特性を調べたMaureen Jensen博士らの研究では、8%の被験者で顕著な椎間関節の変性性変化が認められている(Jensen et al.、1994年を参照)。椎間関節の軽度および中等度の変形性関節症が、すなわち腰痛が存在するというシグナルにはならないことは明らかである。より重度の変形性椎間関節症の変化と症状との間に、さらに強い相関があるかどうかについては、依然として不明である。

症状のない被験者におけるMRIの異常を調べた本研究を初めとするすべての研究から分かったことは、『MRI所見の何か一つの特徴が、すなわちその椎間板が痛みを惹起していることを示しているという確証は、今のところ存在しない』ということであろう。

参考文献:

Boos N et al., The diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging, work perception, and psychosocial factors in identifying symptomatic disc herniations. Spine, 1995; 20: 2613-25. 

Jensen MC et al., Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without low back pain. New England Journal of Medicine, 1994; 331: 69-73. 

Weishaupt D et al., MR imaging of the lumbar spine: Prevalence of intervertebral disc extrusion and sequestration, 
nerve root compression, end plate abnormalities, and osteoarthritis of the facet joints in asymptomatic volunteers, Radiology, 1998; 209: 661-6. 

The BackLetter,1999;14(1):3.

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