熟練医師のコンセンサスで、科学的根拠の穴を埋められるか?


重度の運動麻痺を伴う疼痛性の椎間板ヘルニアが手術の適応であることは疑う余地がないだろうか?次第に悪化する知覚障害を伴う椎間板ヘルニアの場合はどうだろう?大きな椎間板ヘルニアは?画像スキャンで脊柱管狭窄症が確認された腰痛は?これらのうちのどれが、椎弓切除術の適応であろうか?その答えは、『コンセンサスは得られていない』である。F.Porchet博士らは「腰痛の手術に関しては、患者の選択や治療成績予測因子の基準などに関する論文は数多くあります。中には手術決定のためのアルゴリズムを示したものもあります。しかし、腰痛に対する手術の詳しい適応についての一般的なコンセンサスは得られていません。手術を勧める意見の科学的根拠は弱いものです」と指摘している(Porchetet al.,1999)。

科学的根拠がまったくない場合に、臨床医が脊椎手術の決断を下すにはどうすればよいだろうか?最善策は、最良の治療法を同定できるような質の高い無作為研究を実施することなのは明らかである。実際に、脊椎分野の研究者らはこれに着手しようとしている。ヨーロッパでは、いくつかの大きな無作為研究が実施中であり、アメリカでも、大規模な無作為研究が計画段階にある。

他に可能性のあるアプローチとしては、手術適応に注目した治療成績評価研究を利用することであろう。Maine州の最新研究では、実際の坐骨神経痛または脊柱管狭窄症の手術後の治療成績を検討し、治療成績のパターンに基づいた勧告を作成している(Keller et al.,1999)。

RAND-UCLAのアプローチ

これとは別のアプローチがコンセンサスプロセスである。Porcher博士らは、RAND-UCLA法を用いて椎弓切除除圧術の手術適応についてのコンセンサスを求めた。博士らは、外科医5名(神経外科医3名と整形外科医2名)と外科以外の医師4名(開業医1名、神経科医1名、リウマチ専門医1名、内科医1名)から成る委員会を組織した。各委員は椎間板ヘルニア手術に関する科学的根拠、およびそれとは別個に脊柱管狭窄症に対する椎弓切除術に関する証拠について再検討した。

さらに、各自1,000例の仮想手術症例を評価し、各症例を1(きわめて不適切)から9(きわめて適切)にランク付けした。

第二段階として、意見が一致しなかった分野に焦点を絞って、その結果を委員会で検討した。彼らは「この討論は多くの専門分野にまたがるため熟練した議長が司会を務めました。各委員は、各適応が適切であるかどうかのランク付けを再評価しました」と述べている。

第三段階として、そのランク付けの結果を、『不適切』(1〜3)、『どちらともいえない』(4〜6)、『適切』(7〜9)の3つのレベルに分けた。

手術適応が適切と評価されたのは11%のみ

仮想手術症例1,000例のうち、椎弓切除除圧術の適応が『適切』とされたのは106例(11%)のみであり、26%は『どちらともいえない』、63%『不適切』とされた。

評価が全員一致した疾患領域もいくつかあった。腰痛のみでは椎弓切除除圧術の適応とはならないという点で委員全員の意見が一致した。2例の馬尾症候群については椎弓切除除圧術で効果があり、椎間板ヘルニアと進行性の筋力低下が関係する2つの症例への適応は適切であるとする意見が、参加者間で一致した。

他の領域でもかなりの一致がみられた。画像診断で病因が確認されている馬尾症候群または急激な進行性の不全麻揮を除いて、保存療法を試みていないものは手術禁忌との意見で一致した。

著者らは「手術以外の治療後も活動障害が存続し、重度の筋力低下および神経根緊張の徴候が認められ、画像診断により病因が確認されたものについては、手術適応です」と述べた。

しかしPorchet博士らは、手術適応で『どちらともいえない』とされた症例は、手術の危険と利益の割合が不明または不確実な、いわゆる灰色の領域も含んでいると報告している。彼らは、委員会で未決定の症例は、今後の無作為研究に特に適した分野であると考えている。

外科医と非外科医との意見の不一致

討論会に参加した外科医と非外科医との間には、意見の不一致がいくつか見られた。たとえば、椎間板切除術について、外科医は13%を適切と判定したが、非外科医が適切としたのは7%のみだった。

Porchet博士らは、「RAND-UCLA法は、適応基準を作成するために実行可能かつ有効と判明しました」と述べた。この方法の正当性をさらに確認し、プロスペクティブな研究で適応を検討した後、その結果を多くの臨床例に広げていこうと考えている。

最終的な課題は、この方法を用いれば患者の健康が増進するのか、健康が損なわれず費用削減可能なのかという点であるとPorchet博士らは述べており、「厳密な試験がほとんど行われていない医学領域で証拠を得るのは困難だろうが、このような慣例との決別が必要です」としている。

スイスの病院で腰痛手術を受けた196例のカルテをもとに正当性の格付を検討した結果、「手術療法の適応は、『適切』が48%、『不適切』が23%、『どちらともいえない』が29%であった」としている。

コンセンサス委員会が、「一時しのぎながら、手術療法の正当性について有益なランク付けができた」と考えるのは無理もない。しかし、熟練者間のコンセンサスは質の高い科学的根拠とは違う。この種のプロセスは、科学的試験の代わりにはならないという点が重要である。時間をかけて、すべての臨床的な手順を科学的に検証すべきである。


参考文献

Keller RB et al.,Relationship between rates and outcomes of operative treatment for lumbar disc herniation and spinal stenosis, Journal of Bone and Joint Surgery, 1999; 81A(6):752-62. 

Porchet F et al., The assessment of appropriate indications for laminectomy, 
Journal of Bone and Join~ Surgery 1999; 81B(2)234-9. 

The BackLetter 1999・14(8) ・88. I

 


(加茂)

少なくとも痛みだけでは手術の絶対的適応がなく、末梢神経麻痺、馬尾神経症候群のときのみ手術適応ありということか。(加茂)

加茂整形外科医院