運動と腰痛


運動によって青少年の腰痛の危険性が有意に上昇するという証拠は、最新研究からは、ほとんど得られなかった。

シアトルで開かれた米国スポーツ医学会の年次総会における最新研究の発表で、共同研究者のIan Shrie博士は「青少年は、運動によって急性の傷害を受けやすいかもしれませんが、筋骨格系の腰痛発現の総合的な危険性は変わりません」と述べた(Ehrmann-Feldmann et al.,1999)。

そして、「この情報は、『いつか腰痛が起こるから子供にスポーツはさせたくない』という親の心配を和らげるために有用かもしれません」と付け加えた。

運動に関するジレンマ

Shrier博士は、青年期における運動と腰痛に関する本質的なジレンマを明らかにした。スポーツが青少年の急性腰痛の危険性を高めると仮定するのは理にかなっている。定期的なスポーツによって疲労性傷害の危険性が高くなるかもしれないのも直観的にわかる。しかし、いくつかの横断研究(Cross-sectional study)では運動をしない生活環境の方が腰痛の危険性を高めることが示されている。

基本的な問題は、『スポーツするのとしないのでは、どちらのほうが腰痛を起こしやすいのかである』とShrier博士は述べた。

810人の青少年に関する研究

D.Ehrmann-Feldman博士とShrier博士の研究では、カナダの公立および私立の学校の生徒(平均年齢13.8歳)について調査した。研究では異なる3時点での健康状態・生活環境・身体的因子に関するデータを集めた。

最初の評価は、秋(学期途中)に行った。2回目の評価は6ヵ月後(進級後)に行った。3回目の評価は最初の評価から12ヵ月後に行った。

総合的な質問用紙を使って、健康・生活環境・腰痛の既往歴・その他の筋骨格系に関連する事柄など、生徒についてのさまざまな情報を集めた。

生徒たちに伝統的な運動と新しい運動への参加について質問をした。Shrier博士は「野球やアイスホッケーなど伝統的なスポーツ、さらにインラインスケートやガーデニングなどの新しい活動についても質問しました」と述べている。

被験者にSF-36質問用紙の5つの精神医学的項目に記入してもらい、心理杜会的問題について洞察した。

さらに、すべての生徒の身体測定と健康診断を行った。この中には、身長と体重、大腿四頭筋とハムストリングの柔軟性、脊椎の可動域および腹筋力の測定が含まれた。

研究でもっとも重要視したのは腰痛であり、過去6ヵ月以内に週1回以上起こったものを腰痛ありと定義した。

502人の生徒に関する完全なデーター

Ehrmann-Feldman博士らは、502人の生徒に関して完全なデータを得ることができた。言い換えると308人については追跡調査が不完全だった。これらの生徒は、調査を完了した生徒と比較して喫煙率がわずかに高かった以外は同様だった。

彼らは、さまざまな統計学的手法を用いて運動と腰痛の関係について検討した。運動を、『激しい運動』、『中程度の運動』、『軽度の運動』、『運動をまったくしない』の4レベルに分類し、前半および後半の各6ヵ月間にっいて、別個にロジスティック回帰分析を行った。

調査中は被験者のデータを数回収集したので、年齢・性別・喫煙・成長・伸展性・筋力・労働に関して補正を行った。反復測定デザインに基づく多変量解析も行った。

腰痛はよく見られた

Ehrmam.Feldman博士らによれば、調査の結果、青少年の17%に腰痛が認められた。Shrier博士は「この結果は、文献で報告されている計算値と一致しています」と述べた。

全体として、運動やスポーツを行っている生徒の腰痛の危険性が高くなったことを示す証拠は見いだせなかった。Ehrmann-Feldman博士らは「この青少年集団において、運動が腰痛の危険因子であるという結果は得られませんでした」と述べている。

激しい運動はストレスが多い?

最初にEhrmann-Feldman博士らが6ヵ月毎に区切ってデータを検討した段階では、調査の前半6ヵ月間に激しいまたは中程度の運動を行っていた被験者では、腰痛の危険性が高いことがわかった(前半6ヵ月間のオッズ比2.6)。彼らは、学会の別冊として発行された最初の研究抄録の中で「学期中における中程度以上の激しい運動(あるいは競技トレーニング)が過剰なストレスとして作用し、青少年の腰痛の危険性を高めるという仮説を裏付けるものでしょう」と述べている。

しかし、さまざまな因子を調整した詳細な統計解析を行ったところ上記の可能性は低いようだった。ACSM学会においてShrier博士は抄録で提示した結論をあまり評価していない。

Shrier博士は、この種の調査における解析モデルの選択は科学というよりも芸術に近いと述べた。異なる解析モデルで異なる結果が得られる可能性は常に存在する。Shrier博士は「そのような問題点が我々のモデルにあったとは考えられません。二分変数・順序変数・連続変数のいずれのモデルでも解析しましたが、すべてのモデルで同じ結果であり運動は危険因子ではないといえます」と述べた。

これらのデータについては引き続き検討中とのことである。彼らは、それぞれの運動レベルと等価の代謝量を代入して、新たな相関が見いだせるかどうかを検討する予定である。

確実にいえること

当面は、腰痛は青少年に比較的よく見られるがスポーツや運動との明確な関係はないようだ、というのがこの研究から確実にいえるということになる。本研究の短い期間内には運動で腰痛は発症しなかったが長期的には腰椎の障害につながるかもしれない、という主張があるかもしれないが、その可能性は低いだろう。

参考文献:

Ehrmann-Feldman D et al., Is physical activity, a risk factor for the development fo low back pain in adolescents?, 
presented at the annual meeting of the American College of Sports Medicine, Seattle, 1999; as yet unpublished. 

The BackLetter 1999・14(8) ・85,93 .

加茂整形外科医院