MRIからは、将来の腰痛を予測できないー患者50例での最新研究より


MRI画像を解読して、将来の腰痛を予測しようとすることが、脊椎領域でよく行われる。何千もの患者が、医師から椎間板の陰影や脊柱管狭窄を指摘され、気がかりな宣告を受けてきた。「この椎間板は、将来問題を引き起こしそうです」。

しかしながら、脊椎専門医のこのような推測は患者に悪影響を及ぼしている。このような予測は、科学的な根拠はなく正確とは言えない。

David G.Borenstein医師らによる最新研究によれば、「腰椎のMRI画像によって、腰痛の発生と持続期間を予測することはできない」という(Borenstein et al.,1998年を参照)。

ニューオーリンズにおける米国整形外科医アカデミーの年次総会で、共同研究者のJames W.O'Mara,Jr医師は、この研究を発表した際に「MRI画像上の異常と患者の症状とを注意深く関連づけ、MRI画像に対する過信による誤診を回避することの重要性が、この研究によつて一層強調されました」と述べた。

影響力の大きい研究の再考

彼らは、現代に大きな影響を及ぼしている脊椎研究のひとつについて、この被験者の再考を行った。それは、Scott Boden医師らが1989年に行ったもので、無症候性のボランティア67例の腰椎のMRI撮影を行い、無症候性の椎間板異常が非常によく認められることを初めて明らかにしたものである。

この研究は、「脊椎病理学」についての臨床的解釈、および診断における特異的な撮像テクニックの役割に重大な変化をもたらした。この研究とそれに続く研究によって、臨床医は画像解釈をより慎重に行わざるを得なくなった。

1996年に、Borenstein医師らはこの研究の被験者にっいて再研究を行った。被験者に対して、それまでの7年間の症状について質問し、そのうちの何人かに、再度MRI撮影を行った。

新しい研究の目的は次の3点を明らかにすることであった。(1)7年間に、MRI撮像上の異常所見は悪化したか。(2)1989年にMRI撮像上で有意な所見が認められた被験者は、その後7年間に症状を発現したか。(3)1996年に行ったMRI撮像から得られた新しい所見は、その期間中の症状と相関していたか。

被験者67例中50例が参加

彼らは、初回の研究の67例の被験者のうち、50例について追跡することができた。1989年当時、被験者の平均年齢は43歳であった。追跡調査研究に参加した50例の平均年齢は52歳であつた。

個々の被験者に、7年間における疼痛、知覚異常、歩行困難および欠勤時間を評価する問診票に記入してもらった。また、被験者50例に、疼痛ダイアグラムにも記入してもらい、7年間の腰痛の診断と治療に関する情報を得た。

新しい研究では、Boden医師らによる初回の研究と同じ腰痛の定義を用いた。腰痛は、24時間以上持続する腰もしくは下肢の痛み、被験者が仕事を休まざるを得なかった症状と定義した。

最初の被験者のうち31例が、再度MRI画像評価を受けることに同意し、時間経過によるMRI異常の進行について評価を行った。画像検査は、異なるMRI装置で行ったが、最初の研究と同じプロトコールに従った。

1996年のMRI画像を、1989年の67例による初回の画像と混合した上で、神経放射線科医2名と整形外科の脊椎外科医1名が盲検下で読影した。MRI画像の評価は、椎間板膨隆、椎間板変性、脊柱管狭窄および椎間板ヘルニアの証拠に関して行った(方法についての詳細はBoden et al.,1990を参照)。

その後、問診票に記入した被験者50例の臨床症状と、1989年と1996年のMRI画像の異常所見との相関関係を証明することを試みた。その結果から様々なことが分かった。

MRIの異常は進行したか?

MRI画像上で認められた異常は、明らかに、時間が経つと悪化するようである。0'Mara医師は「4つのMRIのカテゴリーすべてが関与している例では、その症例の重症度は統計学的に有意に上昇しました」と述べる。

椎間板膨隆の頻度は、ほぼ2倍になった。新しい研究に参加した被験者50例のうち、1989年に椎間板膨隆を有していたのは32%で、1996年に再度画像検査を受けた者では、65%が椎間板膨隆を有していた。

新しい研究に参加した被験者50例中、1989年に椎間板変性の所見が認められていたのは56%で、1996年に撮影を受けた被験者の80%に椎間板変性の所見が認められた。

検査した50例中、1989年に脊柱管狭窄が認められていたのは7例で、1996年に再検査を受けた者の32%に狭窄の所見が認められた。

被験者50例中、1989年の撮像で椎間板ヘルニアを有していたのは約14%で、1996年に再検査を受けた者の35%が椎間板ヘルニアを有していた。

1989年のMRI撮影で、将来の腰部の症状が予測できたか?

被験者50例中42例が7年の追跡調査期間に腰痛や下肢痛を発現したが、疼痛と1989年のMRI画像の所見との間には明白な相関はほとんどなかった。

「1989年のMRIの異常からは腰痛を予測できなかったことが分かりました」と、0'Mara医師は述べた。後に腰痛が出現した28例のうち10例は、1989年のMRI画像が正常であった。異常所見があった被験者20例のうち腰痛を発現したのは11例であった。

1989年のMRI画像で椎間板ヘルニアの所見が認められた被験者は、7年間の追跡調査期間に腰痛が出現する傾向があった。しかしながら、この傾向は、統計学的な有意性には達しなかった。1989年の撮影で明らかな椎間板ヘルニアを有していた被験者7例のうち、5例ではその後に腰痛のエピソードが発現した。しかし、2例は症状を全く発現しなかった。

被験者50例中7例は、1989年の撮影で脊柱管狭窄の所見が認められた。1例は、追跡調査期間中に1週間腰痛があり、2例は6週間腰痛があっ
た。

被験者50例のうち16例は、1989年のMRI画像で椎間板膨隆が認められた。1989年に椎間板膨隆のみ(その他の所見はなし)が認められた被験者の約4分の1は、その後7年の追跡調査期間に腰痛を発現した。

被験者50例中28例は、1989年の撮影で椎間板変性が認められ、その約半数が、この間に腰痛を発現した。

根性疼痛はどうか?

7年間に根性疼痛を発現した患者についてはどうだろうか?1989年のMRI画像上に、この障害を予測する」ような所見があっただろうか?彼らによると、そうではなかった。患者6例が、7年間の追跡調査期間中に、腰痛および根性疼痛を発現した。6例中2例は、1989年の撮影で中等度の脊柱管狭窄を有しており、1例には、突き出した椎間板が認められた。しかしながら、3例は、1989年の撮影は正常か、または軽度の変性変化しか認められていなかった。

1996年の撮像は、疼痛と相関していたか?

1989年から1996年の臨床症状の変化は、1996年の撮影における異常と相関していないように思われた。0'Mara医師は、「1996年に認められた異常と腰痛症状の間に統計学的に有意な相関はないことが分かりました」と指摘した。研究者は、たった1つだけ隠されていたつながりを見出すことができた。O'Mara医師は、「症状の持続期間がより長いことと、椎間板ヘルニアまたは椎間板の変性変化の存在との間には、統計学的に有意な相関がありました」と述べている。

これらの疑問点は、たった1回の研究によって決着がつくものではないことは明らかである。この研究は非常に小規模なため、一般化する裏付けとはならないとの批判がある。もっと大規模な研究であれば有用であったかもしれない。大規模研究は恐らく近い将来に行われるであろう。

AAOSセツションの出席者の中には、本研究における腰痛の報告の正確性に疑問を抱いた者もあった。なぜなら、被験者に対して、非常に長期間にわたる腰部の症状を思い出すように要請したからである。プロスペクティブなデータであったなら、より説得カがあったであろう。

用いられたMRI撮影装置の質も問題となる。もしかすると、より良い技術を用いれば、MRI画像の異常所見と、その後の腰部および下肢の症状との間に、より良い相関がみられたかもしれない。

一方、MRI画像の異常所見によつて将来を予測できることを示す説得力のあるデータはない。今後の研究によって、MRI上の異常と将来の疼痛の間に統計学的に有意な相関が見出されたとしても、『正確な』予測が可能なほどの強い相関なのか保証はない。

この研究の椎間板ヘルニアに関するデータは、そのことを証明する良い例である。この研究の被験者で、1989年の撮影で無症候性の椎間板ヘルニアを有していた者の71%に、その後、腰部や下肢の症状が現れた。これは、いくつかの点で非常に興味深い。しかしながら、これらのデータに基づいて、正確な予測を患者に告げるのは不可能であろう。

2例の患者は、完全に無症候性の状態を維持していた。1例は、持続期間が2日足らずの腰痛を有した。1例に1週間の腰痛、2例に2週間の腰痛、1例に6週間の腰痛があった。これらの障害のいずれにも、1989年の研究における椎間板ヘルニアと関係があったという保証はない。ではなぜ、このような不十分な相関関係を根拠にして、患者を心配させたりするのだろうか?

どのような種類のものでも暗い予測を患者に告げることは、しばしば何年間にも及ぶ不安を与えるという否定的な面を持っている。慢性腰痛の治療に携わる者は、患者から「私は、L4-5の椎間板が駄目になっているんです。これ以外にも、もうじき駄目になりそうな椎間板レペルが2つあるんです」というような話を頻繁に耳にする。

いったい誰がそんなことを言ったのだろう?

参考文献:

Boden SD et al.. Abnormal magnetic resonance scans of the lumbar spine in asymptomatic subjects, Journal of Bone & Joint Surgery, 1990; 72A(3): 403-8. 

Borenstein DG et al., The value of lumbar magnetic resonance imaging to predict low back pain in asymptomatic subjects: A seven-year follow-up study, presented at the annual meeting of the American Academy of Orthopaedic Surgeons, New Orleans, 1998; As yet unpublished.

The Back Letter 998・ 13(5): 49, 55, 56.


(加茂)

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加茂整形外科医院