急性むち打ち症において全身的過敏性が実証される 

参考文献
Spine. 2004;29:182-188


研究者らによれば、感受性の亢進は心理的苦痛と無関係に起こり、中枢性痛覚処理メカニズムの変化の結果と思われる 

【1月23日】疼痛と身体障害が重症のむち打ち症の人では、症状が軽症な人と異なる感覚障害の証拠が認められるという研究結果が『Spine』1月15日号に掲載されている。 「疼痛と身体障害が中等症および重症の人ではより大きい心理的苦痛が認められたが、症状が軽症な人との最も大きく異なる特徴は、様々な刺激に対する全身的過敏性の存在である」とクイーンズランド大学(オーストラリア、ブリスベーン)のMichele Sterling, PhDらは記述している。

「このような感受性の亢進は心理的苦痛とは無関係に起こり、負傷後まもなく明白にみられる中枢性痛覚処理メカニズムの変化の結果と思われる」とSterling博士らは付言している。

研究者らは、自動車事故による頸部痛を訴える志願者80例(男性24例、女性56例;平均年齢33.5±14.7歳)ならびに健常無症状志願者20例(男性9例、女性11例;平均年齢39.5±14.6歳)を登録した。

むち打ち症の被験者はQuebec Task Force ClassificationのWAD IIまたはWAD IIIを満たすこととし、負傷後1カ月未満に試験を実施した。研究者らは、WAD IVに該当する人、事故による脳震盪、意識喪失または頭部外傷があった人、むち打ち症、頸部痛、頭痛または治療を必要とする精神医学的状態の既往がある人は除外した。また、以前に頸椎、頭部、上四分の一半身(upper quadrant)の疼痛または外傷があった症候性志願者も除外した。

研究者らは、3次元頸部関節可動領域(ROM)、関節位置誤差(JPE)、表面筋電図(EMG)を用いる表面頸部屈筋活動の記録によって運動機能を計測した。

また、研究者らは圧痛感知閾値(PPT)、温熱痛感知閾値の計測を含む定量的感覚検査も実施した。研究者らは、腕神経叢刺激検査(BPTT)を実施し、被験者に10cm視覚的アナログスケールで疼痛の程度を記録するよう求めた。

心理的苦痛はNeck Disability Index (NDI)を用いて評価した。また、WAD被験者は精神健康調査票28項目版(GHQ-28)、運動・受傷の恐怖に関するTAMPA質問票(TAMPA questionnaire for fear of movement/injury)、外傷後ストレスに関する出来事インパクト尺度(IES)への記入も行なった。

NDIスコアに基づくクラスター分析では、むち打ち症集団内に次の3つのサブグループが特定された:クラスター1(n=36、疼痛または身体障害が軽症; NDIスコア 15.6);クラスター2(n=32、疼痛または身体障害が中等症;NDIスコア39.5);クラスター3(n=12、疼痛または身体障害が重症;NDIスコア69.5)。

むち打ち症の3群全ての患者で、対照患者と比べ有意な全ての方向でのROMの減少とEMGの増大が認められた(p<0.01)。中等症および重症群(クラスター2および3)では、軽症疼痛群(クラスター1)および対照群よりもJPEが大きかった(p<0.01)。

中等症および重症群では、尺骨神経部を除く全ての試験部位でPPTが低く、対照被験者と比べ寒冷痛覚閾値が低かった(p<0.01)。また、重症群では、対照患者および他の2つのむち打ち症群に比べBPPTの疼痛閾値での肘伸展域が小さく、疼痛のVASスコアが高かった(p<0.01)。

中等症(31.4±2.3)および重症(46.8±4.1)群のGHQ-28の総スコアは、正常閾値(23/24)を上回っていた。スコアは軽症群(23±2.4)よりも有意に高かった(p<0.01)。TAMPAスコアについても3つのむち打ち症群の間に有意差があった(p<0.01)。3つの群全てに、外傷後ストレス反応が中等症または重症(IESスコア26以上を指標とする)の被験者が含まれていた。

「この試験は、疼痛と身体障害が重い人では症状が軽い人とは異なる感覚障害の他覚的証拠が認められるということを見出した最初の試験である」とDr. Sterlingらは記述している。

「これらの被験者では、負傷後まもなく中枢性痛覚処理メカニズムの変化が認められ、これが回復の妨げとなっている可能性がある」と著者らは記述している。「このことは、この特殊な急性むち打ち症集団の医学的管理に何らかの意味があるかもしれない」。

この試験は、Suncorp Metway General Insurance(クイーンズランド)およびCenter for National Research on Disability and Rehabilitation Medicine (CONROD)からの助成を受けた。

参考文献
Spine. 2004;29:182-188

加茂整形外科医院