運動とアドバイスは脊椎固定術の代替となる実行可能な手段か

新規研究が続々と発表された


ここ数週間、興味をそそる膨大な数の新規研究が専門誌または学会で発表された。今回は食欲をそそるいくつかを紹介しよう。



IDETに関する議論

椎間板内温熱療法(intradiscal electrothermal anuloplasty:IDET)に関する2つの無作為対照比較研究(RCTs)によって、椎間板に起因する慢性疼痛のための温熱療法に関わる、時には敵意に満ちた議論に終止符が打たれることを多くの人々が望んでいた。しかし2研究は、意見の相違がこれからも続くことが確実な、相反する結論に到達した。

テキサス州で行われたRCTでは、注意深く選択した患者の群において、IDETによる中等度の利点が認められた。しかし、オーストラリアの研究では、IDETには臨床的価値がないことが明らかになった。

[Pauza K et al.,Arandomized,double-blind,placebo controlled trial evaluating intradiscal electrothermal anuloplasty(IDET);国際腰椎研究学会(ISSLS)年次総会(バンクーバー、2003年)で発表;論文未発表;およびFreeman BJC et al.,A randomized double-blind controlled efficacy study:Intradiscal electrothermal therapy(DET) versus placebo;ISSLS年次総会(バンクーバー、2003年)で発表;論文未発表]



脊柱管狭窄に関するRCT

フインランドの研究者らは、多くの点で脊椎研究の歴史に残る研究を行った。すなわち、中等度の脊柱管狭窄のある患者において、手術を保存療法と比較する最初のRCTを行ったのである。手術群の患者のほうが、自己報告した疼痛および活動障害に関していくらか良い結果であった。しかし、手術群は、重要な他覚的アウトカムの尺度である、12ヵ月後の経過観察時の歩行可能距離に関しては利点がなかった。

[Malmivaara A et al.,0perative treatment for moderately severe lumbal spinal stenosis:A randomized controlled trial;ISSLS年次総会(バンクーバー、2003年)で発表;論文未発表]



運動+アドバイスと固定術の比較

3週間の運動療法を組み合わせた教育プログラムを通して恐怖心と不安を取り除くことは、固定術を検討している患者にとって前途有望な治療法であるように思われる。ノルウェーで行われた中規模のRCTにおいて、教育プログラムと運動に無作為に割り付けられた患者と、脊椎固定術に割り付けられた患者では、同様の経過がみられた。この研究は、以前に効果がみられなかった被験者を同じ形態の保存療法に再度割り付けせずに、固定術を保存療法と比較した最初のRCTであった。

[Brox JI et al.,Randomized clinical trial of lumbar instmmented fusion and cognitive intervention and exercises of patients with chronic low back pain and disc degeneration;ISSLS年次総会(バンクーバー、2003年)で発表;論文未発表]

 

マニピュレーションの再考

Coclane共同研究の後援を受けて実施された体系的レビューとメタ解析によると、脊椎マニピュレーションは、腰痛に対して偽のマニピュレーションよりも大きな効果がある。しかし、家庭医による治療、薬物療法、運動、教育、および理学療法のような、一般に推奨される他の腰痛治療と同程度の効果しかない。

「マニピュレーションは、腰痛をいくらか緩和することができるいくつかの治療法の1つです。残念なことに、これらの腰痛治療はいずれもそれほど大きな効果はありません」と共著者であるRANDのPaul Shekelle博士は言う。レビューでは、マニピュレーションが、臥床安静、牽引、局所ゲル、コルセットおよび温熱療法のような、流行遅れの受動的な治療法よりも優れていることが明らかになった。メタ解析の結論は、急性腰痛にも慢性腰痛にも等しくあてはまる。

[Assendelft WJ et al.,Spinal manipulation for low back pain,Annals of Internal Medicine,2003;138(11):871-81を参照]



マッサージを支持

マッサージは、Daniel Cherkin博士らによる、腰痛の3つの一般的な代替療法に関する最近のレビューにおいて傑出していた。これまでに得られた中間報告的なエビデンスによると、マッサージは持続的な腰痛のある患者の症状を緩和し機能を改善する。マッサージは、初期治療後の治療の総合コストを低下させる可能性もある。レビューによると、マニピュレーションは、一般的に使用されている他の治療法と同様の“小さな臨床的利点を有している"。鐵治療の臨床的価値はまだ漠然としている。これまでの無作為比較研究は、その有効性を実証するのに十分な質ではなかった。レビューによると、3つの治療法はいずれも比較的安全であるように思われる。

[Cherkin D et al.,A review of the evidence for the effectiveness,safety,and cost of acupuncture,massage therapy,mand spinal manipulation for back pain,
Annals of Internal Medicine 2003;138(11):898-906を参照]



低コストの頸部痛治療

脊椎のモビリゼーションという形での徒手治療は、家庭医による通常の治療または理学療法士による運動を中心にした治療に比べると、対費用効果が非常に高い頸部痛治療である。オランダの革新的なRCTにおいて、徒手治療(特別な訓練を受けた理学療法士が実施)を受けた患者はより速やかに改善し、かかった費用ははるかに少なかった。これらの治療に関連する費用[直接的なもの(医療費、通院交通費、自己負担費)と間接的なもの(生産性の低下、欠勤)の両方]に関して、両群間に著しい違いがあることが強調された。

1年後の経過観察までにかかった総費用は、徒手治療群が402ドル、理学療法群が1297ドル、そして家庭医による治療群が1379ドルである。ここで一つ注意すべき点は、理学療法群の臨床医は、多くの治療専門家が一般的に使用している徒手治療技術を用いることを禁じられていたということである。結果として多くの理学療法士は、本研究では標準的な理学療法レジメンの公正な評価がなされなかったと抗議している。しかし、本研究によって確かに頸椎モビリゼーションは有利な立場におかれた。

(Korthals-de Bos I et al.,Cost-effectiveness of physiotherapy,manual therapy,and general practitioner care for neck pain:Economic evaluation alongside a randomized controlled trial,BMJ,2003;326:911を参照)。



坐骨神経痛のRCtsー驚くべき知見

2つの無作為研究において、保存療法と椎間板切除術による、椎間板ヘルニアと坐骨神経痛の患者のアウトカムは同様であった。フィンランドの小規模RCT(被験者56例)において、手術群は、疼痛および機能に関して早期には利点がみられたが、2年後の経過観察時には統計学的に有意な優越性は認められなかった。88例の患者を対象にした英国のRCTでも同様のパターンが認められた。顕微鏡視下椎間板切除術群は、腰痛、下肢痛および活動障害に関して早期に統計学的に有意な利点を示した。しかし、24ヵ月目までにもはや群間に統計学的有意差は認められなくなった。これらの研究の症例数が、重要な投与群間の差を検出するのに十分であったかどうかはまだわからない。

[Osterman H et al.,Surgery for disc herniation:A randomized controlled trial with two-year follow up:ISSLS年次総会(バンクーバー、2003年)で発表;論文未発表;およびGreenfield K et al.,Microdiscectomy and conservative treatment forlumbar disc hemiation with back pain and sciatica:A randomized controlled tria1;ISSLS年次総会(バンクーバー、2003年)で発表;論文未発表]



段階的な運動は効果がある

オランダで行われたRCTでは、徐々にノルマを増やしていく段階的な運動によって、航空会社従業員の欠勤日数が減少した。理学療法士のBart Staal氏らによると、“段階的な運動は、無作為割り付けから50日間以降での病気休暇から有効であった"。しかし、段階的な運動群と通常の治療群との疼痛および機能における平均差はわずかであった。

(Staal B et al.,The efficacy of a graded-activity program for workers who are disabled as a result of nonspecific low back pain:A randomized clinical trial in an occupational setting;
Annual Report,EMGO Institute,Amsterdam;2002;www.emgo.nl.を参照)



健康増進プログラムと欠勤

多くの研究者は、運動およびコンディショニングによって、腰痛および他の筋・骨格系障害の有病率を低下させることができると信じているが、そのエビデンスは不完全である。オランダのRCTにおいて、職場での身体的活動プログラムには、心血管系の適応度、身体組成および活発な運動機能に対して統計学的に有意な好ましい作用があったことが認められた。しかし、筋・骨格系障害および欠勤の発現率に関しては有意な影響がみられなかった。

(Proper KI et al.,The effectiveness of a worksite physicalactivity program on physical activity,fitness,musculoskeletal disorders,and absenteeism from work,Annual Report,EMGO hstitute,Amsterda,2002;www.emgo.nl.を参照)



加齢に伴う筋肉量の減少

加齢に伴う骨量の減少は世間に知れ渡っているが、加齢に伴う筋肉量の減少、すなわち筋肉減少症(Sarcopenia)は、健康と機能、転倒リスク、脊椎疾患からの回復速度に重大な影響を及ぼす可能性がある。3075人のオランダの高齢者に関する最近の研究では、運動性の制限に対するさまざまな筋肉関連因子の影響について検討した。その結果、筋力の低下と筋肉への脂肪の浸潤が、これらの制限の独立したリスクファクターであることが明らかになった。筋肉量が少ないことが一因と思われるが、おそらく筋力が関係しているのだろう。本研究は、筋肉減少症に関係する諸問題はおそらく行動療法、運動療法そして薬物療法を組み合わせた治療によって改善しやすいだろうと示唆している。

(Visser M,Determinants and consequences of sarcopenia:The role of endocrine factors and physicalactivity;
Annual Report,EMGO Institute,Amsterdam,2002;www.emgo.nl.を参照)


The BackLetter18(6):61,64-65.2003.

加茂整形外科医院