腰痛に対する手術に警鐘・failed back syndromeの大半は回避可能


〔米フロリダ州マイアミ〕腰痛の専門家たちは腰痛患者に手術を行うことをためらい始めた。フロリダ州マイアミビーチで開催された第17回米国疼痛学会(AAPM)年次集会で,マイアミ大学総合疼痛・リハピリテーションセンターのHubert L.Rosomoff博士は,腰痛患者に2週間のリハビリを行ったところ手術の必要性がなくなったという事実を受け,腰痛患者への手術を見あわせるよう呼びかけた。

99%は手術不要

腰痛に対して手術を行った後も痛みが持続し,他の治療法でも改善しない腰痛は”failed back syndrome”と呼ぱれており,Rosomoff博士はAAPMにおけるfailed back syndromeセッションの演者の1人であった。同博士は発表のなかで「私の考えに基づいてアプローチすれば,手術の99%は避けられる。実際,腰痛を適切に評価すると手術の確率は500分の1になる」と述べた。
同博士は1970年代には同センターで数多くの腰部手術を手がけ,だれもが同博士の手術によって、患者の腰痛は劇的に解消きれると信じていた。しかし,患者に集中的な術前リハビリ・プログラムを始めたところ.2週間後には手術が必要なくなったのである。
同博士は「腰痛急者への手術は一時的に凍結し,リハビリを行うよう患者を指導すべきだ。どのような患者にも,6か月間のリハビリが終了するまで手術を行ってはならない。
患者の99%は手術対象からはずれるはずだ」と主張した、同博士はfailed back syndromeについて「腰が勝手に悪くなるのではない。医師が悪くするのだ」とし,「同症候群の原因は最初の患者評価が不十分なためで,多くの症例では痛みの根源は脊椎や周囲の神経ではなく.むしろ筋肉や靱帯などの支持組織にある」と述べた。

手術を好む外科医にも問題

AAPMで同セノションの司会を務めたノースカロライナ疼痛医療センターのLynn Johnson所長は「腰椎になんらかの手術を受けた患者の10〜40%はfailed back syndromeになる。ということは,同症候群は増える恐れがある。多くの湯合,手術前の段階で腰痛の成因が誤診きれている。さらに,手術を受けても症状がよくならない場合,診断ミスによる問題が持続するばかりか,術後管理の問題点も浮上してくる」と述べた。
同所長は麻酔およびペインクリニックの有資格専門医で,同センターはイーストカロライナ大学(ノースカロライナ州グリーンビル)の提携病院。同所長は「腰痛に対する手術は確固たる地位が確立されており,多くの外科医が手がけている。しかし,患者に手術を勧める前の段階で適切な保存的治療(カイロプラクテイック,理学療法,注射による治療,低侵襲手術など)を試みようとする外科医は少ない」とコメントし,さらに「大抵の保存的治療は手術よりも優れている。手術した患者としなかった患者とを比較した研究では,5年後の予後は同じであった。つまり,手術を行わなければ,手術費用を節約できるうえに.患者の腰の具合は手術を行った場合と同程度であることは明白である」と述べた。

手術で治る患者もいる

ジョンズホプキンス病院フラウステイン疼痛センター(メリーランド州ポルティモア)所長で脳神経外科のJames N,.Campbell教授も同セッションに参加し,腰痛には常にfailed back syndromeという問題が付きまとうことを認めた。
同教授は,米国に比べてスウェーデンなどでは腰痛のための手術が少ない点を指摘し,@どのような場合に手術を勧めるのかA真に手術対象となるのはどのような患者かB手術で何が良くなるのかC痛みが取れないのは手術の合併症のせいなのかD何をきっかけに症状が悪くなるのかーなどの疑問を提示し,「われわれがこれらの疑問への統一見解を見出せるのは遠い先の話だ」とコメントした。
また,同教授は「手術による神経圧迫の解除は比較的取り組みやすく,神経外科の手術は神経根の圧迫などを解除する方向で発展してきた。神経圧迫解除の手術を受けた患者の大半は予後良好で,約90%は坐骨神経痛や下肢痛が改善する。しかし,実際に問題となっている患者の多くは明らかな神経根障害や坐骨神経痛の見られない患者である。このような恵者では術後の予後が良好となる比率が60〜70%に低下する。つまり,手術にも価値はあるが,その結果は必ずしも素晴らしいものではない」と述べた。

Copyright 2001 Doctors Guide.com           Medical Tribune  2001 4 19   より

加茂整形外科医院