筋肉痛の恐怖

宇野武司(宮崎医科大学附属病院手術部)

ペインクリニック Vol.22 No.10 (2001.10) 巻頭言


数年前,久しぷりに学生を相手に思い切ってテニスを楽しんだ。プレー後,右肩にこわばりを感じたが,運動後の筋肉痛でやがて治るものと思っていた。ところが,日が経つにつれ痛みは強くなり,夜間,激しい痛みで目が覚めるようになった。肩が冷えないようにして我慢しいると1〜2時間で眠れたが,熟睡感はなかった。昼間は仕事で気が紛れたが,それでも痛みが常に気になるようになり,これはただの筋肉痛ではないと考えるようになった。何とかしなくてはと思い,筋筋膜性疼痛について改めて教科書を見直してみた。

非ステロイド性抗炎症薬,中枢性筋弛緩薬,経皮的神経電気刺激,レーザー照射,ストレッチ&スプレー,トリガーポイントブロック(TPB)など本に記載されている治療をいろいろと試みた。TPBのときは,針がうまく刺入されたのか筋にぴくつきが起こり,局所麻酔薬が注入されるとすぐに痛みは消えてしまった.これで痛みがなくなるものと信じたが,数時間で痛みは元に戻ってしまい,裏切られたような気持ちになった。何をやっても時間が経つと痛みは元に戻り,また,夜間は痛みで目が覚める日が続き,どうなることかと不安に襲われた。

痛み治療に頼るだけではダメだと思うようになり,積極的に肩の筋肉を使うことにし,大きく手を振って歩くようにした。また,日頃のストレスを和らげるため,近くの温泉に行きリラックスするように心がけた。こうして痛みは少しずつ和らぎ,半年で痛みは完全になくなったこの間,筋肉痛がいかに恐ろしいか身をもって体験し,自分でリハビリすることが大切であることに気がついた。

トリガーポイント(TP)生成過程は,次のように説明されている。筋損傷から持続的筋収縮が誘発され,罹患部位に虚血が引き起こされる。その結果,発痛物質が産生され,侵害刺激となって痛みを生じる。交感神経反射,運動反射,ストレス,不遭切な姿勢などはTPを悪化させる。このように臨床的にはある程度理解されているものの,TPに関する分子レベルの病態機序は明らかではない。また,TP不活性化の機序についてもよく分かっていないようである。TPBに使用される局所麻酔薬に一体どのような意味があるのか?局所麻酔薬が痛みの悪循環を遮断することに意味があるのか,または局所麻酔薬の筋細胞毒性に引き続いて起きる筋細胞新生に意味があるのか分かっていない。さらに,局所麻酔薬の役割より針刺入による機械的なTP破壊の方に意味があるとも考えられている。最近,ボツリヌス毒素が筋筋膜性疼痛の治療に有用であることが示唆されているが,TPの新しい治療法として期待したい。

TPは,腰下肢痛など多くの疾患に合併し,痛みを増強する原因にもなっている。今は,神経因性疼痛についての研究が盛んであるが,筋肉痛についても研究が進むことを望みたい。


(加茂)

筋骨格系の痛みに最も普遍的なmyalgiaが疎かにされている。筋肉痛(myalgia)という言葉がしばしば誤解をうむ。患者さんにとってみれば「筋肉痛」とは運動会のあとの筋肉のこわばりのようなもので、何日も続く、夜も眠れないほどの痛みとは想像できない。「この痛みが筋肉痛という簡単なものであるはずがない。きっと体の奥のほうで何かもっと大きな原因があるはずだ。」

医師もそんなに痛いのは筋肉痛などではないと思い込んでしまうものだ。根刺激症状とか関節由来の関連痛とかという独特の説明をするものだ。そのことが治りを遅らせていることに気づくべきだ。

肩のmyalgiaも放置すると、腕全体にひろがることもあるし、肩も上がらなくなる。前腕のmyalgiaで手がしびれることもある。これが腰〜下肢でおこれば坐骨神経痛ということだ。

上記の先生も自分で治すことに気づき半年で回復している。関節鏡や、MRIなど検査をして、あ〜のこうのというようになればもっと治癒には時間がかかったのかもしれない。

変形性膝関節症もmyalgiaに注目して、治療するとよくなってしまう。軟骨の変化に注目すると不安が生じ治りにくくなるものだ。

医学教育でmyalgiaに対しては十分でない。鍼灸師やマッサージ師に耳を傾けるべきだ。またmyalgiaと心身医学はとても関係が深い。

加茂整形外科医院