慢性頸部根性痛治療に関する初の無作為研究


長期にわたる頸部根性痛の治療に関する無作為研究が初めて行われた結果、手術には保存療法を上回る効果はほとんどないと分かった。

RPT(登録理学療法士)であるLiselott C. G. Persson理学修士(MSc)らは、「注意深い保存的治療にもかかわらず疼痛が3ヵ月間持続する患者には手術を考えるべきである、との見解を示した論文がいくつかあります。しかし、今回の研究から、手術の適応は支持できません」と述べている(Perssonetal.,1997参照)。

Persson理学療法士らは、突出した椎間板による圧迫の有無にかかわらず、骨性の神経根圧迫と関連した慢性根性痛を有する患者81例を対象に研究を行った。いずれの患者も、疼痛が少なくとも3ヵ月間持続しており、疼痛の平均持続期間は30ヵ月を超えていた。

Persson理学療法士らは、被験者を、次の三つの治療法のうちの、いずれか一つに無作為に割り付けた。すなわち、前方からの椎間板切除および固定術(Cloward法を用いる)、各種理学療法の組み合わせ(3ヵ月間に15セッション)、または、頸部コルセットの装着(3ヵ月間)である。

患者の経過観察では、疼痛については視覚的アナログ疼痛スケールを用い、機能についてはSickness Impact Profileを、また、心理状態についてはMood Adjective Check Listを用いて評価を行った。独立した判定者が、治療前、治療の14〜16週間後、および1年後に、総合評価を行った。

短期間の経過観察(14〜16週後)では、視覚的アナログ疼痛スケールの平均スコアが手術群では20ボイント低下し、かなりの効果が認められた。一方、同じ時点で、理学療法群では平均9ポイントの低下、頸部コルセット群では平均1ポイントの低下であった。

ところが、1年後には、疼痛、機能、および心理状態のそれぞれにおいて、3群間には有意差がみられなかった。研究期間全体を通してみると、いずれの群でも中等度の改善が認められた。Persson理学療法士らは、「長期的に見た場合、頸部コルセットのようなシンプルな治療でも、あるいは、もしかすると治療しなくても、理学療法や手術と同程度に有効なようです」と述べている。

本研究は「実際の医療現場における」治療を用いたものであり、そのことが結果に影響を与えた可能性がある。つまり、Persson理学療法士らは、少数の臨床家に綿密に管理された状況下で治療を行わせたのではなく、多数の外科医と25名の理学療法士に治療を行わせたのである。治療の質は同程摩だったかとか、外科医は皆、同様の訓練を受け、同様の経験を積み、同様の手術を行ったのだろうかといった事柄については、この結果からは知る術が無い。

診断が不正確であったとしたら、それも本研究に影響した可能性があるだろう。手術群のうち8例が追加手術を受けており、異なる椎間の手術を受けた患者も数例あった。一部の患者では、最初の手術が適切でなかったことも考えられる。

また、本研究では、術後リハビリテーションに関する詳しい内容は全く報告されていない。

長期間続いた慢性疼痛を手術のみで緩和しようとするのは、無理であろう。様々な研究で、慢性疼痛患者には数種類のリハビリテーションが有益であると示されている。

それでもなお、これがうまく設計され、適切に実施された研究であり、慢性頸部根性痛の外科的治療と保存的治療を比較した最初の無作為研究であることに変わりはない。症状が数ヵ月続いた患者でも保存療法で改善しうることが示唆されたのである。

本研究によって、この種の病態に対する適正な手術の適応について、ますます謎が深まった。Medical College of Pennsylvaniaの外科医であるHenry Sherk 医師は、「この報告から分かる重要な点は、未だに手術の適応が明確に定義されておらず、治療結果を正確に予測できない状態のままであるということです」と述べている(Sherk,1997.参照)。

参考文献:

Persson LCG et al.,Long-lasting cervical radicular pain managed with surgery,Physiotherapy,or a cervical collar,、Spine,1997;22(7):751-8.

Sherk HH, Point of View, Spin.e, 1997; 22(7): 758. 

The BackLetter, 1997; 12(6): 64, 71.


(加茂)

そもそも根性疼痛という概念に問題があるのではないだろうか。生理学的に説明困難。

アメリカは日本と違うね。理学療法士が研究を計画し、この研究に関係のない人が判定する。日本では考えられないことだ。日本では手術をした病院の医師がその結果を発表することが多い。

神経根に原因があると言われて治療することに問題が潜んでいるのではないだろうか。それではどうしても頚に不安をぬぐいきれない。私は心身医学的に痛みを説明し、トリガーポイントブロックを用いることで治療しているが頚部痛の治療に難渋することはあまりない。

加茂整形外科医院