腰椎椎間板ヘルニアのガイドライン作成状況  日本整形外科学会誌  第78巻第4号 2004. April

小森博達、四宮謙一(東医歯大大学院脊椎脊髄神経外科学) 


近年、EBMの手法に基づく診療ガイドラインの作成が各科の代表的な疾患において多数作成されている。整形外科においては腰痛に対するガイドラインがすでに作成されているが、日整会を中心として主要疾患のガイドラインの作成が現在進行中である自ガイドラインの作成が必要とされる疾患は、現在の診療に大きなばらつきがあり、High volume,High risk,High costであり、かつガイドライン作成が重要な影響を与えうる事が肝要であるが、腰椎椎間板ヘルニアがこの要件を満たしている疾患であることは疑う余地がない。

腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインは11名の委員からなる委員会が現在作成中である。章・節・項の設定、文献検索・文献収集、文献一次選択、論文査読・Abstract Form作成、Scientific Statement作成まで終了している。章立ては疫学、病態、診断、治療、予後とし、文献検索は英文はMedlineから、邦文は医学中央雑誌から1982年以降の論文を選択し、英文は症例対照比較試験以上の研究デザインの論文だけを採用した。これらを一次選択したのち論文を査読し、最終的にAbstract Fomが作成されたのは疫学:109、病態:155、診断:114、治療:281、予後:141であった。これらの論文を基にしてScientific Statementが作成され、現在細部の吟味を行い編集中である。

腰椎椎間板ヘルニアに限定したガイドラインは世界的にも認められない。その背景としては、椎間板ヘルニアとの診断に明確な基準がないこと、椎間板ヘルニアの分類法や治療判定の基準も多種多彩であること、近年画像診断法が劇的に変化したことなどの要素があるため、質の高いRCTが少ない事が一つの要因と考えられる。そのため、複数のRCTによるメタ分析の結果も限定的な結論であることが多く、現状ではエビデンスの高いガイドラインの作成は困難である。しかし、今回の作成過程で明らかとなった多くの課題を解決していくために、学会を中心として研究を整備してゆき、その結果に基づいて数年毎に改訂していく必要がある。

加茂整形外科医院