重篤な疾患の有無を調べる検査:最も良い方法は何か?

問診は腰痛患者の評価において最も重要な要素である

医師が患者には局部的な腰痛があり重大な神経学的異常は認められないという”臨床的確信”を得る必要があるので、徹底的な検査を受けなければならない


腰痛の精密検査の際に、重篤な疾患および神経の圧迫の可能性を除外する最良の方法について、専門家の意見が完全に一致しているわけではない。New England Journal of Medicineに掲載されたElizabeth McGlym博士らによる最近の研究は、評価の際に特に次のことを必ず行なわなければならないと示唆している:(1)患者の問診の際に「危険信号(すなわち重篤な疾患を示す徴侯)」に焦点を合わせた質問を行なうこと;(2)神経学的スクリーニングを実施すること;および(3)下肢伸展挙上テストを実施すること。

腰痛の評価に関する4名の専門家が、これらの評価方法の必要性について最近論評した。注意深い問診および危険信号の検査が必要であることに全員が同意した。神経学的症状が存在しない場合に、神経学的スクリーニングを行なう必要性については意見が一致しなかった。そして多くの専門家は、標準的な臨床検査の中に下肢伸展挙上テストを含める必要性について疑問を呈した。

問診が優先する

“問診は腰痛患者の評価において最も重要な要素である"と、オーストラリアのエビデンスに基づく最近の一連のガイドラインで、オーストラリアにあるニューカッスル大学のNikolai Bogduk博士は言及している。Bogduk博士によると、“危険信号の手がかりを検出する際に、問診は理学所見や臨床検査(例えば画像検査や血液検査等)よりも実用的かつ効率的である"。一般的に問診によって特殊な診察手技や臨床検査を行なう必要性の有無を判断することができる(Bogduk,1999を参照)。

重篤な疾患を見逃してしまうのは、多くの場合、問診の際に注意が足りなかったためである。“重篤な疾患を見逃してしまった場合、それは特別な検査を行なわなかったためではなく、問診の際にその手掛りについて十分かつ綿密な注意を払わなかったためである"とBogduk博士はガイドラインで言及している。

Bogduk博士は最近のインタビューで、問診のみでも危険信号を適切に評価することができると示唆している。博士がBrian McGuirk博士と共同で作成した危険信号のチェックリストは、所要時間が1分足らずであり、臨床試験で信頼性を確認済みのものである(Bogduk and McGuirk,2002を参照)。

Bogduk博士は、すべての患者が神経学的検査を受けるべきだという考え方に同意しない。博士は神経学的検査が必要かどうかを問診によって判断すべきだと考えている。

博士はオーストラリアのガイドラインの中で、根性痛や他の神経学的症状のある患者に神経学的検査を行なうのは妥当だとの意見を述べている。また博士は、理由が何であれ神経の圧迫の可能性について医師が臨床的に確信がもてないならば、短時問の神経学的スクリーニングを行なうことは妥当であろうとも言及している。

下肢伸展挙上テストに関する懐疑論

Bogduk博士は、下肢伸展挙上テストを標準的な臨床検査の中に含めるべきだとは考えていない。博士は、「たとえ患者が根性痛を有していたとしても、下肢伸展挙上テストを行なうのは妥当ではありません」と言う。

多くのガイドラインでは、特に坐骨神経痛の評価において下肢伸展挙上テストを推奨しているが、一方でこの検査の解釈については不確実な点だらけである。受動的な下肢伸展挙上テストに関する最近の文献レビューは、これが臨床検査で重大な役割を果たしていることに対する疑いを引き起こした。

R.Rebain博士らによると、“受動的な下肢伸展挙上テストの標準的方法は依然として存在せず、結果の解釈に関するコンセンサスはなく、受動的な下肢伸展挙上テストの結果が陰性であれば、陽性であるよりも大きな診断的価値があるとの認識はほとんどない"(Rebain et al.,2002を参照)。

神経学的検査には安心させる効果あり?

評価方法に関する影響力の大きな研究をいくつも行なったRichard A.Deyo博士は、一般的に問診が理学所見の検査よりも重要だというBogduk博士の意見に同意する。博士はいつも危険信号について質問する。「危険信号について少なくとも1度は質問することが、恐らく有用かつ重要だろうと思います」と博士は言う。

Deyo博士は一般的に短時間の神経学的検査を実施しているが、そのことには神経学的症状が古い場合には限られた診断上の利益しかないと指摘する。

「私は、神経学的検査および下肢伸展挙上テストには、調べたけれども重篤な病気は何も見つからなかったと患者を安心させる効果があると思います。良い検査には3分くらいしかかからないのに、私は多くの患者から、こんな検査は今まで受けたことがないと言われたことがあります」とDeyo博士は言う。

「しかし実は、もし問診で患者に坐骨神経痛等の神経学的症状がないことがわかっていたら、この検査による収穫は無いに等しいのです。したがって、生物学的異常を検出することより、患者を安心させる効果のほうが人きいのかもしれません」とワシントン大学の研究者は指摘した。

Deyo博士は、「私は精密検査の適応に関して決めつけるのは難しいことがわかりました」と言う。しかし博士は、ある種の患者は必ず神経学的検査を受けるべきだと指摘する。

Deyo博士は、「坐骨神経痛の患者または手術を考慮している患者については、実際に入念な神経学的検査を記録に残す必要があります。けれどもそうではないことが多いのです」と言う。

臨床的確信を得る

ノースカロライナ人学(チャペルヒル)のリウマチ専門医であるNortin M.Hadler博士は、臨床医は、全身疾患および神経の圧迫の可能性を確実に除外できる必要があると示唆する。

「ある人が腰痛患者であるとのお墨付きがほしいなら、医師が患者には局部的な腰痛があり重大な神経学的異常は認められないという“臨床的確信"を得る必要があるので、徹底的な検査を受けなければなりません」とHadler博士は言う。

博士は、神経学的検査は注意深い問診および危険信号の検査に付随して行なわれるべきだと考えている。博士は、患者が腰痛と関連する症状、に気づくよりも前に、神経学的検査で神経の圧追に関する証拠が見つかることが時折あると指摘する。

Hadler博士は、「ミエロパシーまたは脱力を示唆する証拠が何もないという確信を得る必要があります」と言う。博士は、脊髄の圧追および他の神経学的問題を除外すること以外は、短時問の神経学的検査でできると指摘する。

博士は、症状が存在しない場合に神経学的検査で陽性所見が得られるのはまれだと認めている。しかし、そういうことも実際にあるのだ。

Hadler博士は急性腰痛の評価における下肢伸展挙上テストの必要性を重要視していない。「(下肢伸展挙上テストは)解釈が難しく、最初の数ヵ月は臨床上の決定の根拠にはならない付随的な情報です」とHadler博士は説明する。

症状が存在しない場合に神経学的検査によって得られるものは、患者集団によって明らかに異なる。Hadler博士は、局部的な腰痛患者を診察するリウマチ専門医である。しかし博士は、重篤なリウマチ疾患の患者の治療も行なっている。この集団において臨床的確信を得るには、典型的なプライマリーケア集団の場合よりも広範囲の検査を必要とする可能一性がある。

教育の機会

ボストンにあるNew England Baptist Hospitalの理学療法士であるJames Rainville博士は、診断のための検査方法について徹底的な再検討を行なった。博士は、患者は入念な問診と危険信号の検査に加えて、短時間の神経学的検査を受けるべきだというHadler博士と同じ意見である。一部の患者はより広範な検査を受けるべきである。

Rainville博士は、Hadler博士のように、患者が異常に気づく前に、神経学的検査によって神経の圧迫に関する証拠が見つかることが時折あると考えている。

成人の急性腰痛ガイドラインを発表した米国医療政策研究局は、Deyo博士、Rainville博士およびKent博士らによるレビューに基づいて、簡略化した神経学的検査を急性腰痛患者に行なうことを推奨した(Deyo et al.,1992を参照)。この検査には、足首および膝の反射、足首および足の母指背屈力、ならびに知覚愁訴の分布の検査が含まれた(Bigos et al.,1994を参照)。

Rainville博士は、神経学的検査の結果によって患者の治療方法が必ずしも変化するわけではないと言う。「しかし検査結果は、患者に問題を説明する際に非常に役に立ちます」と博士は言う。

しかも、神経学的検査の必要性およびその範囲は、患者集団に依存すると思われる。Rainvme博士は、複雑な脊椎愁訴を有する多くの高齢患者を診察する、リハビリテーションと三次医療の専門医である。これらの患者はプライマリーケアの患者よりも神経学的問題を有する頻度が高い恐れがある。

参考文献:

Bigos S et al. Acute Low Back Problews in Adults. Clinical Practice Guidelme No. 14. AHCPR Publication No. 95-0642. Rockville, Maryland: U.S. Department of Health and Human Services, 1994. 

Bogduk N, Evidence-Based Clinical Guidelines for the Management of Acute Low Back Pain. Draft prepared on behalf of the Australasian Faculty of Musculoskeletal Medicine for the National Musculoskeletal Initiative; submitted to the National Health and Research Council, 1999;www. emia .com. au/Medical Providers/Evidence Based Medicine/aihlrn/index .html. 

Bogduk N and McGuirk B. Medical Management ofAcute and Chronic Low Back Pain. Amsterdam: Elsevier; 2002.

 Deyo RA et al., What can the history and physical examination tell us about low back pain, JAMA, 1992; 268(6):760-5. 

Rebain R et al., A systematic review of the passive straight leg raising test as a diagnostic aid for low back pain (1989 to 2000), Spine, 2002; 27(17): E388-95. 


The BackLetter 18(9) : I02-ro3, 2003. I

 

加茂

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