短時間撮像MRI

将来、医師と患者が重大な異常を紛らわしい臨床症状と見分けられるようになった時に、この研究が真価を発揮する可能性がある


MRIが1970年代から1980年代にかけて脊椎治療に初めて導入された時、その可能性は無限であるように思われた。最初の診察の前に患者にMRIを受けさせた医師がいたほど、1980年代にはMRIに対する過度な期待がみられた。

4半世紀が経過し、ほとんどの医療現場、特にプライマリーケアにおいては、従来型のMRIの適応になるのは少数の特別な場合に限定されるべきだということが明らかである。

Jeffrey Jarvik博士とRichard A. Deyo博士は、最近、診断手順に関するエビデンスに基づくレビューの中で、限定された役割について概説した。そのレビューによると、適応となる全身疾患のない50歳未満の患者は画像検査を必要としないという。50歳以上の患者ならびに癌および他の疾患を疑わせる所見のある患者の場合には、単純X線撮影および臨床検査によって全身疾患を除外することができる(Jarvik and Deyo,2002を参照)。

Jarvik博士とDeyo博士によると“最新式の画像検査は、手術を考慮している患者または全身疾患が強く疑われる患者のためのものと考えるべきである。すなわち、従来型のMRIを実施するのは比較的まれでなければならない。

X線の代替としてのMRI

しかし、腰痛の評価における主要な画像検査法として、X線の代替として費用があまりかからない簡略化されたMRIを使用するというのはどうだろうか。

X線検査には多くの制限がある。かなりの放射線被曝を伴い、診断上の利益は限られている。X線検査は高価である。例えば米国では2000年に、Medicareが106万件の脊椎X線撮影費用として5500万ドルを支払っている。

最近、Jarvik博士、Deyo博士らのグループが、画像解像度がわずかに劣りT2強調が制限されている短時間撮像MRIが、プライマリーケアにおいてX線の代替になりうるかどうかを調べるため、無作為対照比較研究(RCT)を実施した。短時間撮像MRIのコストは従来型のMRIの約半分なので、対費用効果に関しては脊椎のX線写真に対抗できるだろう(Jarvik et al.,2003を参照)。

これは多くの点で魅力的な考えである。短時間撮像MRIは全身疾患および潜在性の異常を検出する能力が優れている。腫瘍、感染症、馬尾病変およびさまざまな変性性疾患の検出感度もより優れている。

もちろん短時間撮像MRIにも欠点があり、それは多くのものが見え過ぎることである。従来型のMRIのように、無関係またはほとんど無関係の解剖学的異常に関するさまざまな情報を提供する。そしてこれらの異常の存在が、患者と医師を不適当な考えや不必要な治療へと誘い込むことが時々ある。

380例の患者の研究

Jarvik博士らの研究については広く報道されているので、ここでは概略についてのみ説明する。RCTにおいて、380例のプライマリーケア患者が4箇所の画像検査施設で通常の方法に従って評価を受けた。医師からX線検査が推奨された患者を、X線検査か短時間撮像MRIのいずれかに無作為に割り当てた。研究者らは、その後2年間にわたって被験者のアウトカムを追跡調査した。

短時間撮像MRIによる評価を受けた患者のほうが、手術を受ける可能性が高かった。MR僻では10例の患者が手術を受けたのに対して、X線群ではわずか4例であった。その結果、短時間撮像MRIの被験者の総合的なコストは有意に高く、X線群のコホートが2059ドルであったのに対して、2380ドルであった。しかし、2群のアウトカムは実質的には同等であった。手術が多かったことやコストが増えたことによる明らかな利益は認められなかった。

期待値の修正

Jarvik博士は、短時間撮像MRIに関する期待値を縮小したと言う。「私は、腰椎のX線検査の代わりに短時間撮像MRIを行うことによってX線検査を実質的に省略できるだろうと、最初は非常に楽観的に考えていました。私は今でも、X線検査で得られる診断情報は極めて限られており、特にプライマリーケアにおいては放射線被爆およびコストを正当化できないと考えています」と、Jarvik博士は最近述べている。

続けてJarvik博士は、「画像検査は局部的な腰痛のある患者の診断には役立たないというエビデンスがあるにもかかわらず、患者および医師はX線検査を指示し続けています。我々は、短時間撮像MRIで重篤な疾患がないという大きな安心感が得られれば、その結果、アウトカムが改善するだろうと期待していました。前者については確認できましたが、残念ながら後者は確認できませんでした」。

「我々の研究結果から、短時間撮像MRIに切り替えても患者の健康感は改善されないことがかなり決定的に示されたわけですが、患者への悪影響がないことも証明されました。しかし、MRIを用いる手順のほうがコストが高い可能性がある点は否定できず、この結果をみて私は考え方を変えたのです」とJarvik博士は付け加えた。

いくつかの点で、この研究は短時間撮像MRI自体を非難しているのではなく、医療従事者と患者がそれによって得られる情報を解釈する能力を非難しているのである。したがって、将来、医師と患者が重大な異常を紛らわしい臨床症状と見分けられるようになった時に、この研究が真価を発揮する可能性がある。

「臨床医および患者が偶発的な画像所見にあまり影響されることがないよう、短時間撮像MRIと同時に適切な教育が行われるのであれば、X線の代替としての短時間MRIによる検査は有効だろうと、私は今でも信じています」とJarvik博士は言う。

腰痛の評価における従来型のMRIの役割は限定的だという博士の見解は変わっていない。「私は今でも、それは重篤な疾患の疑いのある患者や手術を考慮している患者に限定されるべきだと考えています」と博士は付け加えた。


参考文献:

Jarvik JG et al., Rapid magnetic resonance imaging vs radiographs for patients with low back pain: A randomized controlled trial, JAMA, 2003; 289 (21):2810-8. 

Jarvik JG and Deyo RA, Diagnostic evaluation of low back pain with emphasis on imaging, Annals of Internal Medicine, 2002; 137(7):586-97. 

The BackLetter 18(8) : 85, 90-91, 2003. I

加茂整形外科医院