運動療法と行動療法VSインストルメント併用の脊椎固定術:ノルウェーの革新的研究で互角の成績


現代の脊椎治療における最も興味深い概念の1つに、長期にわたり慢性腰痛と椎間板変性のある患者は、たとえ固定術の適応のようにみえても、運動療法や意識改革を通じて、満足できる程度の機能回復と苦痛緩和が得られるという考え方がある。

ノルウェーの無作為研究はまさにそのことを証明しているようである。無作為割付けに従って運動療法と認知療法を行った患者は、インストルメント併用の脊椎固定術を受けた患者と同程度の改善を示した(Brox etal.,2003を参照)。

オスロにあるNational Hospitalの整形外科のJens Ivar Brox博士らによると、“今回の研究の結果は、このような患者には手術の代わりにこれらの治療法の組み合わせを利用できることを示唆する”。

“ほとんどの慢性腰痛患者は認知療法と運動療法によって治療でき、腰椎固定術は費用のかかる代替手段である”と博士らは主張する。

根拠に基づいた治療

著者らによると、これは腰椎固定術と根拠に基づいた保存療法とを比較した最初の無作為研究である。

本研究で使用した保存療法は、従来の脊椎治療の多くの教えに異を唱えたノルウェーの医師Aage Indahl博士の理念に基づいている。患者には、現代医療に依然として浸透している腰痛に対する慎重な対処法を気にしないよう指導した。

被験者には腰を痛めることを心配しないように指示した。通常の活動を再開しても脊椎には全く害がないことを説明した。自由に腰を動かすこと、すなわち前屈みになったり重い物を持ったり、自然にかなったやり方で腰を使うよう奨励した。被験者は、これらの指示を強化するための運動療法と集団療法に参加した。

新規研究は、これまで椎間板変性疾患の患者を対象に、脊椎固定術と保存療法を比較した唯一の無作為研究であった、大規模なスウェーデン腰椎研究の結果と相反する(Fritzell etal.,2001を参照)。

スウェーデンの研究では、手術を受けた患者は保存療法を受けた患者よりも、疼痛、活動障害、および治療に対する総合的満足度に関するアウトカムが有意に優れていた。

しかし、スウェーデンの研究は脊椎固定術を最新式の運動療法および行動療法と比較しなかった点が批判されている。スウェーデンの研究では、手術を比較的旧式の理学療法と比較し、後者は被験者に有意な改善をもたらすことができなかった。

改めて研究を行う必要がある

ノルウェーの研究は、慢性腰痛の治療に対するこれまでにない前途有望な取り組みについて述べている。

この治療理念は、保存療法を超える意味をもっている。同様の認知療法と運動療法が、腰痛の捉え方を変革し身体を動かすことや活動することに対する恐怖心をなくすために考案されており、それらは手術の適応となる患者を選択するうえで貴重な役割を果たす可能性がある。さらに、患者の術後の機能回復に役立つ可能性もある。

しかし、ノルウェーの研究で使用した保存療法は、経過観察期間が1年と比較的短く規模もそれほど大きくはない無作為研究で1度検討されたに過ぎない。そして患者のアウトカムにはかなり大きなばらつきがみられた。

この対処法の利点については、別の厳密な研究を行って他の条件下で検討する必要がある。本研究で使用した保存療法を他の多くの認知療法/運動療法プログラムと比較する研究を行ったならば、非常に興味深いと思われる。

研究の規模は十分だったのか?

バンクーバーで開催された国際腰椎研究学会(ISSLS)の年次総会でノルウェーの研究が発表されると、研究の規模を批判する意見が出された。この研究は被験者が64例しかおらず検出力が不足しており、2つの治療法の間の有意差を検出できなかったのではないかと、複数の出席者が示唆した。

しかし、著者らによる検出力の計算では本研究の規模は適切であり、1年の経過観察でOswestry活動障害スコアにおける10ポイントの群間差を検出できると考えられた。「本研究にはわずかな統計学的な差ではなく、臨床的に意味のある差を検出できる検出力がありました」と筆頭著者のBrox博士は語る。

ISSLS学会で本研究を発表した共著者のIndahl博士は、著者らの主な目的は、保存療法によって、固定術を行った場合とほぼ同様の改善が得られるかどうかを調べることだった、と示唆した。そして、その通りであったことになる。


参考文献:

Brox JI et al.. Randomized clinical trial of umbar instrumented fusion and cognitive intervention and exercises in patients with chronic low back pain and disc degeneration, Spine, 2003' 28: 1913-21. 

Fritzell P et al.. Lumbar fusion vs. nonsurgical treatment for chronic low back pain: A multicenter randomized controlled trial from the Swedish Lumbar Spine Study Group. Spine. 2001; 26: 2521-32. 


The BackLetter 18(10)  : 109. 1 15.2003.

加茂整形外科医院