X線撮影が腰痛の回復を阻害

医師の作業負担を不必要に増加 


2001.2.21 So-net M3

『British Medical Journal』2月17日号の研究によると、腰痛患者に対するX線撮影は、医師の作業量を増すばかりでなく、患者の痛みや症状を長引かせるという。

「われわれの知見では、X線撮影を行うと回復が遅れる可能性のあることが示唆されている」と主席研究者で、ユニバーシティ・パーク地域保健科学学校(ノッティンガム)の提携家庭医、Mike Pringle, MDはWebMDに話す。「何故こうしたことが起こりうるか分からないが、背部痛のある患者はX線撮影をすることにより自分の症状が「重症」であると考えることが原因ではないかと推測している」。これにより、苦痛の報告がさらに増し、活動がより制限されることになる、とPringle博士らは述べている。

Pringle博士らは、10週間(中央値)続く腰痛の患者421人を、腰椎のX線撮影後に通常療法を行う群と、通常療法のみ行う群に無作為に割り付けた。

経過観察3カ月時点で両群とも改善が見られたが、背部痛の持続は対照群で65%であったに対し、X線群では74%であった。また、介入群(X線撮影群)では全体的に健康が悪化したと評価され、診察回数が増加した。9カ月時点でも、X線群の65%、対照群の57%に痛みが持続していた。

「臨床決断の際にX線が不要な場合に、X線は患者に有害となることがある。こうしたことは何年も前から知られていたことだ」と、エモリー大学医学部(アトランタ)の整形外科教授であり、エモリー脊柱センターの責任者、Scott Boden, MDは客観的コメントを求めたWebMDの取材に答える。「年齢相応の(骨の)磨耗や断裂であるのに、それが危険な徴候と受け取られる場合がある。また、X線写真を撮ることそのものが患者に悪い印象を与える。X線撮影を行う場合、それを指示した医師は何か答えを求めているということを示唆している。われわれの研究では、(臨床研究で対照となる)健常ボランティアでさえ自身のX線像に不安になるということが分かった。医師の収益のため、また時には医師が何か見落としたのではないかと不安に思って、X線撮影が必要以上に頻回に行われることがある。しかし、プライリ・ケアににおいてX線写真から得られるものは非常に少ない」

不必要な画像検査は最小限にしたいと考える医師にとって、なすべき事の1つはX線撮影を略したからといって治療の質を落としたわけでないと患者に納得させることだ。経過観察3カ月時点で、X線群でも通常療法群でも、80%の患者が「選択の機会が与えられるならX線撮影を選ぶ」ことを、Pringle博士らは見出した。結果として「この分野における患者の教育が重要で、医師は診察においてX線撮影を期待する患者に(上記のようなことを)説明する必要があるだろう」という。

論文へのコメント

Gene Feder, MD 
St Bartholomew's and the Londau Hospital Medical School 
Queen Mary and Westfield College 
London, UK 



合併症のない腰痛患者へのX線撮影検査は避けるべきであるとする臨床ガイドラインの勧告は,主として予測検出力の乏しい観察研究の結果に基づいている。患者には腰椎X線撮影が有用な検査であるという認識があり,また医師にも患者を満足させたい,あるいは確認を行いたいという社会的理由があることから,X線撮影が続けられている。Kendrickらの研究は,この検査が腰痛の管理において有用ではなく,短期間でみると実は疼痛が増強し,健康状態が不良になるというエビデンスを強化するものである。その一方で,X線撮影検査を受けた患者の方が9ヵ月時点での医療に対する満足度は高く,両群の患者とも検査を希望すると答えた。すべての適格患者のうちどのくらいの割合が試験に組み入れられたかは不明だが,試験に参加した家庭医の数が多いことから,少なくとも英国においては,結果を一般化することは可能であると考えられる。一般的なことではないが,参加者は各家庭において募られた(訳注,リサーチナースによる訪間基礎調査による)。しかしこうした研究上の特徴が,アウトカムに大きな影響を及ぼす傾向はないようだ。研究者は,腰痛が6週間以内に改善する大部分の患者を除外することにより,最良の検査および治療戦略に関してまだ不明な点が残る患者群に焦点を当てた。われわれは,X線撮影検査に頼ることなく,腰痛患者の満足度を向上させる方法を見付けださなければならない。通常は技術的な精査や医学的な介入を必要としない問題としての腰痛に関して,われわれは分かっていることをより幅広く伝えていく必要がある。

文献

1 van Tulder MW, Assendelft WJ, Koes BW, et al. Spinal radiographic findings and nonspecific low back pain. A systematic review of observational studies. Spine 1997;22:427-34. 
2 Little P, Cantrell T, Roberts L, et al. Why do GPs perform investigations? The medical and social agendas in arranging back X-rays. 
Fam Pract 1998;15:264-5.

加茂整形外科医院