神経根慢性圧迫モデルにおける抗TNFーα抗体の効果

佐々木伸尚、菊地臣一、紺野慎一(福島医大整形)

日整会誌78(8)2004(第19回日本整形外科学会基礎学術集会の抄録集より)


【目的】

近年,神経根の慢性圧迫によって惹起される痛みにtumor necrosis factor-alpha(以下TNFーα)が関与していることが示唆されている。しかし,神経根の慢性圧迫によりTNFーαが産生されるか否か,産生されたTNFーαが痛みに関係するか否かは明らかにされていない。本研究ではラット神経根慢性圧迫モデルに対し,抗TNFーα抗体を投与して,機械的刺激閾値の変化を検討した。

【方法】

SD系雄ラット(n=18)を対象とした。全身麻酔後,左第5腰椎椎弓の一部を開窓し,神経根と後根神経節(DRG)を同定した。開窓部から椎間孔にむけてstainless steel rodを挿入し,神経根とDRGを圧迫した。これらを以下の2群に分けた。1群は術後6日目にPBSに溶解したラット抗TNFーα抗体10mg/kgを静注し,抗体投与群(n=6)とした。他の1群は,術後6日目にPBSを静注しcontrol群(n=6)とした。椎弓の開窓操作のみを行いsham群とした(n=6)。これらの群に対し,術後1,3,5,7,10,14,21,28日目にvon Frey針を用いて左足底の50%閾値を計測した.統計学的解析はANOVAを用いて行い,P<0.01で有意差ありとした。術後28日の時点で,3群のDRGを摘出しTNFーαの免疫染色を行った。

【結果】

抗体投与群とcontrol群では,術後3〜28日でsham群と比べ有意に機械的刺激閾値が低下していた。一方,抗体投与群では薬剤静注翌日の術後7日目において,control群に比べ有意な閾値の上昇が認められた(p<0.01)。しかし,他の計測時点では2群間に有意差は認められなかった。免疫染色では,sham群では染色を認めなかったが,抗体投与群とcontrol群では神経細胞,シュワン細胞,血管内皮細胞の染色が認められた。

【考察】

抗TNFーα抗体投与により,機械的刺激閾値の上昇が認められた。また,神経根の圧迫によりDRG内にTNFーαが認められた。以上の事実から,神経根の慢性圧迫により惹起される痛みにはTNFーαが関与していると考えられた。

【結論】

神経根の圧迫による疼痛には,TNFーαが関与している。


(加茂)

機械的刺激以外、内因性発痛物質による痛みはどうなのか?

いずれにしても末梢からの痛み刺激が存在しないことには痛みは生じないわけだ。だから「以上の事実から,神経根の慢性圧 迫により惹起される痛みにはTNFーαが関与していると考 えられた。」この表現は疑問。

全く症状のないものもいるがそれはどういう理由か。

交感神経の腰痛および神経根性疼痛への関与

竹林庸雄(釧路赤十字病院)、山下敏彦(札幌医大感覚・運動機構治療学)

日整会誌78(8)2004(第19回日本整形外科学会基礎学術集会の抄録集より)


【目的】

腰痛や神経根性疼痛は体性感覚神経によって支配されている。しかしながら,交感神経ブロックが根性疼痛に有効であることや,下位腰椎椎間板が上位DRG細胞よって腰部交感神経幹を介して支配されているという最近の報告から,その疼痛メカニズムには交感神経が関与している可能性がある。本発表ではこれらの疼痛に対する交感神経の関わりについて報告する。

【方法】

【結果】

@L5/6椎間板において機械的刺激に反応する受容器は認められなかった。電気刺激では42個の受容器が検出され,その神経伝導速度は平均7.8±4.9m/s(2.2-21.6)で、痛覚伝達に関与するV・IV群神経線維に属していた。炎症物質の投与後,椎間板は機械的刺激に反応を示した。

ASham群ではDRGの交感神経線維分布に左右差はなかたが,手術群ではDRG髄鞘周囲に交感神経線維が豊富に観察された。


【考察】

交感神経支配の椎間板受容器は,正常の条件下で機械的刺激に反応せず,炎症などの病的状態でのみ活動を示すSilent nociceptorと考えられた。根性疼痛モデルにおける交感神経系と体性感覚系の異常な相互作用はDRGの異常発火の引き金となり,結果的に根性疼痛を誘発する可能性がある。


(加茂)

「DRGの異常発火」?

腰椎変性疾患による神経根性疼痛の病態

矢吹省司、菊地臣一(福島医大整形)

日整会誌78(8)2004(第19回日本整形外科学会基礎学術集会の抄録集より)


【目的】

本研究の目的は,椎間板ヘルニアモデルと慢性神経根圧迫モデルを用いて,神経根性疼痛の病態を明らかにすることである。

【方法】

【結果】

椎間板ヘルニアモデルでの検討

椎間板ヘルニアのモデルでは,DRGの病的変化やWDRニューロンの自発異常放電が惹起された。TNF-alphaの局所投与は,侵害刺激に対するWDRニューロンの持続する異常放電を惹起した。そして,抗TNF-alpha療法によってDRG内圧の上昇やWDRニューロンの持続する異常放電は抑制された。

慢性神経根圧迫モデルでの検討

このモデルでは,処置側の下肢にallodyniaカ濾起された.ロッドの素材自体やロッドの挿入自体ではallodyniaは惹起されなかった。そして,抗TNF-alpha療法によってallodyniaは一時的に抑制された。

【結語】

神経根性疼痛の発現には,TNF-alphaが深く関与しており,抗TNF-alpha療法が有効な治療法のひとつとなり得る可能性がある。

加茂整形外科医院