21世紀の脊椎治療の重圧に直面:今後の医療の行方は?

Coming to Grips With the Pressures of 21st Century Spine Care: Where Should Medicine Turn Next?


モントリオールで開催された、2002年北米脊椎学会(NASS)年次総会で最も印象に残ったできごとが、伝統的な医療の倫理と価値観、そして医療の激動期に示唆とひとときの猶予を求める脊椎治療医に与えられている選択肢についての議論であったことは、時代を象徴している。

NASSが急成長し、会員数が1985年の50名から2002年の3200名へと急増したことは、脊椎疾患が重要な社会問題であることを示しており、助けを求める一人一人の患者に有効な脊椎治療を行うには難問が山積しているという証拠である。

モントリオールの学会は脊椎治療の抱える矛盾を物語っていた。過去120年間に、腰痛や頸部痛に関する理解が著しく進み、患者の治療や疾患管理の新モデルが提示され、脊椎の治療法には種々の目覚ましい技術革新が起きた。それにもかかわらず、本学会等で発表された科学的研究で実証されたように、こうした革新がいまだに患者の治療成績の飛躍的進歩にはつながっていない。これは興味をそそる一方で地味な分野である。

しかし同時に、目まぐるしく発展している医療分野でもある。NASSの年次総会は科学と技術の豪華絢燗な発表の場である。モントリオールの学会には790を超える研究が投稿され、108の口演演題と73のポスター演題が発表された。

脊椎マニピュレーションからむち打ち症までを対象として、8つの主要なシンポジウムが開催された。そこでは、患者の治療にまつわる利害や、多面的な脊椎疾患の“安定化”も取り上げられた。科学技術者のRalph Merkle氏による基調講演は、間近に迫った“ナノテクノロジー”革命、および超小型の機械を用いた細胞レベルでの究極的な解剖学的修復について論じた。

“Tuesdays with Morrie” (邦題「モリー先生との火曜日」)の著者として知られる、Mitch Albom氏が来賓として招待され、人間関係の重要性、および人と人との緊密な関係について講演した。学会の前後には多くの講座、セミナー、フォーカスグループの調査、最新情報の提供および企業後援のイベントが行われた。

しかしおそらく最も注目を集めたのは、21世紀の医療関係者が直面する難しいジレンマについて、現代的な視点と古来の視点の両方から助言した、Stanley Herring博士の会長挨拶であろう。

Herring博士は、医師をはじめとする医療関係者は難しい選択に直面していると指摘した。彼らは、分配された予算の範囲内で最大多数の患者に最大の利益を提供する責任がある。これは、コロラド州のRichard Lamm知事が述べたように“経済的に無理で維持できないものを作り出している”現代の医療システムの中では、容易な課題ではない(Herring 2002を参照)。

医師は、自分たちが設計したものではない、自分たちの二一ズを満たさないシステムの中で、医療政策および財政方針の代理人になっていると、Herring博士は述べた。しかし同時に多くの医師は、患者の負担の増大や期待の高まりおよび医療費償還率の低下に直面して、自分自身が経済的に生き残るために奮闘している。「けれども、もしも医師が支払いの不正や医療供給の気紛れさだけを口にするなら、われわれは冷淡で、一人一人の患者への思いやりに欠けているように見えるでしょう」とHerring博士は述べた。

博士は、医師および他の医療関係者が、使命をまっとうしながら21世紀の医療危機を乗り切ろうとするなら、医療と倫理の原点に帰らなければならないと示唆した。「永続する解決法は一つしかありません。それこそ、医療へのアクセス、医療費の償還および技術適用に関する現在のジレンマを乗り越える唯一の解決法であり、将来生じるに違いないジレンマを乗り越える解決法なのです」と博士は述べた。

Herring博士によると、その解決法とは、医療関係者のプロ意識、すなわち医療という「崇高な仕事」の中心的価値観に立ち戻ることである。それぞれの医療関係者が多くの「知的および経験的」知識を持っていなければならないと博士は示唆した。各人が広範囲の問題に関する能力基準を設定しなければならない。そして各分野の専門家が自らの基準を徹底して守らなければならないので、これらが、他の専門家、他の機関および他の利益によって吸収されることはない。

「最後に、そして最も重大なことですが、われわれの職業では、あらゆる種類の個人的報酬よりも、他者のために実行し奉仕することを重んじなければなりません。これは、決して妥協してはならない倫理的行動規範です」とHerring博士は静かに語った。

博士は、12世紀の医師で哲学者でもあったMaimonidesの言葉を引用して締めくくった。

「富や利益に対する欲望によって、私が真実を見ることができなくならないように。私の助言を求める患者を一人の人間として見ることができるように。たとえその人が金持ちでも貧しくても、友人でも敵でも、善人でも悪人でも、または困窮した人でも、ただ一人の人間として見ることができるように」。

 

参考文献:

Herring S. Presidential address, North American Spine Society, , Montreal. Canada, 2002; in press, The Spine Journal. 


The BackLetter 17(12) : 133, 136, 2002. I

加茂整形外科医院