日本における慢性慢性疼痛を保有する患者に関する大規模調査

服部政治 竹島直純 木村信康 山本一嗣 水谷明男 野口隆之

大分大学医学部脳・神経機能統御講座麻酔学

(ぺインクリニック25:1541ー1551,2004)


要旨

本邦で「慢性の痛み」を抱えた国民の実態について大規模な調査(n=18,300)を実施した.慢性疼痛保有率は13.4%で、疼痛の原因として腰痛症が最も多かった。慢性疼痛保有者の約70%は病院・医院の受診経験を持つが、満足のいく程度に痛みがやわらいだ人は22.4%と低く、半数以上の人で通院を継続することをやめていたことがわかった。専門科でみると整形外科が45%で最も多く、ペインクリニック科を受診した人は0.8%で、疼痛専門医への受診率が低いことから、全国的な疼痛治療の啓蒙活動が必要と思われた。

キーワード:慢性疼痛、全国調査、疼痛保有率

はじめに

近年、疾患自体の予防、治療とともに症状マネージメントで「痛み:pain」が5番目のバイタルサインとして治療の質向上のため重要視されるようになった1)。欧州や米国では患者のpainに関した大規模調査が行われ、国民のpain保有率や患者意識調査の報告がなされている。わが国ではがん性疼痛におけるモルヒネ製剤服用患者の意識調査2)や除痛率の報告3,4)が行われているが,慢性疼痛を有する患者に関した大規模な実態調査報告は行われていない。そこで今回、痛みからの解放を目指した医療の質向上のための基礎的資料作成のため、日本での慢性疼痛の有病率の推定、および慢性疼痛の原因となっている疾患、部位の特定、慢性疼痛保有者の医療機関への通院治療状況に関する大規模調査研究を実施した。

まとめ

日本全国に1,700万人いると推定される慢性疼痛保有者の中で、通院加療を受けている人34.5%、疼痛がやわらいでいる人22.4%に対して、受診経験がない、または通院をあきらめた人65.5%、痛みが変わらない人77.6%と、通院しても痛みが変わらない人が多いことが本調査でわかった。疼痛専門医・ペインクリニック医がこれからより一層必要とされ、その養成、啓発が緊急課題であることを改めて考えさせられる調査結果であった。


本稿の要旨は、11th International Pain Clinic World Society of Pain Clinicians (2004,東京)で発表した。

謝辞

本大規模調査実施にあたり、ムンディファーマ株式会社よりご支援をいただきました。

文献
1)http://www.ampainsoc.org/advocacy/fifth.htm

2)村川和重:モルヒネ製剤服用がん患者の意識調査.緩和医療学4:69-73.2002

3)厚生省・日本医師会昭和63年厚生科学研究(特別研究事業)「プライマリ・ケアに関する総合的研究」プライマリ・ケアにおけるがん末期医療のケアの在り方研究班.1988

4)平賀一陽,武田文和:緩和医療1:134-142.1999

5)PaininEuropeA2003report(http://www.painineurope.com)

6)LazarusH,NeumamCJ:Assessingundertreatmentofpain:Thepatients'perspectives.J Pharm Care Pain Symptom Control 9:5-34.2001

(2004.9.受付)

加茂整形外科医院