急性腰痛に関する米国医療政策研究局ガイドラインは、薬物療法、脊椎マニピュレーション(Manipulation)、運動療法を推奨する

ー患者のほとんどで特定診断のための検査を先送りにしても差し支えないー


何が、効くのかを述べているのではない・・・科学的根拠のあるものは何かを述べているのだ
ガイドラインは、臨床医が確信をもって危険な状態を除外できる簡単な手順を概説している

新しいFederal Clinical Practice Guideline, Acute Low Back Problems in Adults(成人の急性腰痛に関する米国医療政策研究局臨床治療ガイドライン)では、腰痛患者における長期間の臥床や、目的の明らかでない鎮痛薬の投与、診断のための不必要な検査を避け、その代わりに苦痛を最小限にし、早期に活動を再開し、腰の障害を自然に軽快させるような安全で有効な治療法を行うべきであると奨励している。

委員会の一人、Nebraska大学のEdward Susman医学博士は、「ガイドラインのもっとも重要な点は、自然に良くなるのを待つ間、患者が自分自身の苦痛を和らげるために何ができ、また反対に何をしてはいけないかということにあります。」と語る。

さらに委員会議長、Washington大学Stanley Bigos医学博士は、「ガイドラインのもう一つの点は、
通常の日常生活に必要な活動に耐え得る力をつけ、維持していくことです。」と語っている。

脊椎の治療に大きな衝撃を与えそうなこの新しいガイドラインは、急性腰痛の評価と診断に対して綿密に構成された低コストの取り組み方を提唱している。それによると、少なくとも1ヵ月間は費用のかかる画像診断やその他の検査を行わないことを勧めている(もちろんこれは特別の危険を示す症状がでている患者を除いての話である)。

ガイドラインは、安全で効果的な急性腰痛の治療法として一般大衆(OTC)薬、脊椎マニピュレーション、適度の運動を勧めている。また急性期における手術は、重篤な脊椎病変を持つ患者や、特異的な神経根障害の症状を伴う非常に強い坐骨神経痛を呈するごくわずかな特別な患者の場合に限られるべきであると指摘している。

一般的治療のほとんどに裏付けとなる科学的証拠がない

ガイドラインは、これまでの主な急性腰痛の治療法について科学的根拠を検討している。Bigos博士は、新しいガイドラインによって、患者が混乱した腰痛治療の大海原を迷うことなく航海できるよう望んでおり、「ガイドラインは、確かな科学的根拠に基づいた安全かつ効果的な治療を導く明確な知見と勧告を提示しています。」と語っている。

新しいガイドラインは科学文献に支持されている腰痛治療法と同時に、文献による裏付けのない多くの一般的な腰痛の治療法についても評価を行っている。「多くの治療法が未だに科学文献の裏付けがない状態にあり、ガイドラインではそういう治療法を推奨していません。」とSusman博士は説明を続ける。「その中には、例えば牽引療法、バイオフィードバック、経皮的電気的神経刺激(TENS)、針療法、ステロイド・抗うつ薬の経口投与、および注射療法などがあります。理学療法士による温熱療法、マッサージ、超音波のような理学療法により、治療コストは著しく上昇しますが、まだ科学的には証明されていないのです。」。

同様に、腰痛のためのその他の一般的な手技や治療法も新しいガイドラインではあまり高く評価されていない。腰椎の固定ベルトやコルセットを治療に用いることについては、結論を出すだけの科学的証拠がないのである(頻繁に物を持ち上げる動作を繰り返す仕事をする人が、腰を
痛めないようコルセットを使用することの根拠とは別である)。疼痛誘発点(トリガー・ポイント)、椎間関節、硬結または靭帯への注射を支持する根拠は不十分である。さらに神経根症状のない患者への硬膜外注射を支持する証拠は何もない。

運動療法に関する2つの指摘には驚く人もいるだろう。委員会では「腰痛患者の治療に背筋のストレツチングを支持する証拠はない」といい、またガイドラインでは「腰痛のための特殊な運動機器は、従来からの運動療法と比べて明らかなメリットがない……」としている。

ガイドラインにより、患者の苦痛、時間的・経済的負担を軽減するだろうか?

保健福祉省次官で公衆衛生総局長であるPhilip R.Lee医学博士は、「急性腰痛に悩む人々が
通常の活動を再開し、科学的に有効性が証明されている治療法だけを受けるよう奨励されているこのガイドラインによって、アメリカでは、現在、不必要な治療や効果の明確でない治療に費やされているかなり苦痛、時間そして莫大な費用が軽減されるでしょう。」と、新しいガイドラインが効果のない治療から患者を救い出すだろうと信じている。

Clifton R.Gaus医療政策・調査庁長官は、「ガイドラインに基づいて試験的にコスト分析を行ったところ、治療の質を低下させることなく国全体で腰痛治療に掛かる費用の約1/3を節約できることがわかっています。」と、新しいガイドラインにより腰痛に関わる支出が大きく減少することを望んでいる。

北米脊椎学会は、ガイドラインに異議あり

しかしながら、皆がガイドラインに満足しているわけではない。北米脊椎学会(NASS)はガイドラインを鋭く批判し、これを治療の標準として採用するべきでないとの意見を打ち出している。

NASSは声明文で、「医療政策・調査庁の委員会による共同見解は、必ずしも個々の腰痛患者にとっての最良の診断・治療法を見極めているのではない。」との立場を表明している。NASSによれば、「ガイドラインは現存の文献および意見の限られた総括にすぎず、個々の患者がこれによって自分の受ける治療を指図されたり制限されたりすべきではない。」という(脊椎外科医の反応:後述p.10を参照)。

ガイドラインの目的

ガイドラインは23名の専門家とさまざまな分野の多数の協力者で構成された委員会による科学文献の徹底的な検証の成果である。彼らは11,000以上の研究について検証を行っている。

Bigos博士は、「委員会の目的とは、患者が治療法を決める前に何が科学的な裏付けがあり、何がそうでないのかを理解できるよう手助けすることです。またガイドラインは、特別の検査を行わなかった場合でも危険な状態が起こり得る可能性がごくまれであることを、主治医が確信を持って患者に保証することができる簡単な手順を提示しています。」と語る。

委員会は、各ガイドラインの勧告を裏付ける科学的証拠の量と質の分類を行った。「A」は、質の高い複数の研究結果により明確に裏付けられたもの。「B」は、質の高い一研究、あるいは複数の適切な研究結果によって中程度に裏付けられたもの。

また「C」は、一つ以上の適切な研究により得られた限定された研究結果によって裏付けられたもの。そして「D」は、研究結果による裏付けがいずれも委員会の認定基準を満たさないものである。

脊椎に関する文献は二流か?

科学的裏付けの基準にしたがって腰痛治療を検証した結果、「A」と判定された治療法はなかった。アセトアミノフェン、アスピリン、および非ステロイド系抗炎症薬などの投与、マニピュレーション、患者教育が「B」と判定された。驚くべきことに、非常に多くの一般的な腰痛治療法・診断法が「C」、または「D」と評価された。

「C」や「D」と評価された治療法の評価法については、ガイドラインの発表記者会見でも疑問の声が聞かれた。ある記者は「その評価は根拠となる論文の質の低さであって、その質の低い論文を根拠に、重要な臨床治療のガイドラインを決めることができるのでしょうか。科学はそこにはないのでしょうか?」と質問した。

Bigos博士は、腰痛に関する文献を現実的に評価したところ、このような評定になったと応答した。「われわれは、臨床医の皆さんに、今ある科学的データに注目してもらいたいのです。これはわれわれが現段階で到達しているレベルを反映しているものです。そしてこれが将来の進歩に
つながる第一段階であることを望んでいます」。1975年には、委員会の認定基準を満たす科学的研究は一つもなかったが、1994年には科学的な最低基準を満たす研究は260にも増した。Bigos博士は脊椎に関する研究の質は向上してきていると訴えた。

薬物療法、マニピュレーション、運動療法を強く支持

ガイドラインは、一般大衆(OTC)薬、マニピュレーション、運動療法の効果を保証している。委員会では、「0TC薬や脊椎マニピュレーションは最も安全に苦痛を取り除くこと
ができる」と結論している。文献を総括した結果、アセトアミノフェン(タイレノールなど)、アスピリン、非ステロイド系消炎鎮痛薬が急性腰痛の治療に有効で、かつ安全性が高いことが明らかにされた。

「筋弛緩薬やオピオイドの投与は短期的治療として選択してもよいです。」とSusman博士は説明する。「しかし、嗜眠といった明らかな副作用がみられます。さらに医学的にみて、より安全性の高い他の治療法と比べて、筋弛緩薬やオピオイドの方が有効であるとは言えません。」。

ガイドラインは、脊椎マニピュレーションを現代の腰痛治療の主流としてはっきり打ち出している。わずか十年ほど前には、医学界の大多数で「いかさま療法」とみなされていたことを思えば、大変な名誉回復といえよう。

ガイドラインでは、「神経根症状のない急性腰痛患者にとって、脊椎マニピュレーションが疼痛を効果的に底下させ、おそらく発症後1ヵ月以内での症状消失までの期間を短くすることが科学的に立証できた。」と述べているが、1ヵ月以上腰痛が持続している患者や神経根症患者につい
ては、まだ結論を出すだけの証拠を見つけていない。

同じく委員会では、運動療法にも賛成の立場である。Susman博士は「文献によって裏付けられた他の処置は、歩行、水泳または自転車などのような低負荷の運動療法によって肉体的活動のための耐性を維持・回復することです。」と述べている。「これらは、症状が消失する前から開始することができますし、最初の症状がおさまれば、すぐにこの種の運動療法に体幹筋のコンデイショニング運動を追加することが可能です。」。

急性期における脊椎固定術には反対

委員会では、手術療法は腰痛治療の最初の3ヵ月間は限られた役割でしかないことを明らかにした。「腰椎の椎間板摘出は、重症で耐えられない下肢症状(臨床検査所見と矛盾しない)のある患者において、保存療法を続けるよりも速く症状を軽減することができる。」とのことである。委員会は腰痛が発現してから最初の3ヵ月間は「骨折・脱臼、腫瘍または感染などの合併症のない場合には」脊椎固定術を薦めていない。腰椎変性すべり症による不安定性が悪化した場合には固定術を考慮してよいと示唆しているのである。

同じくガイドラインは、脊柱管狭窄症患者における手術適応についても検討した。「高齢患者で日常生活における活動に支障のないような脊柱管狭窄症の場合には、保存療法によって治療することができる。脊柱管狭窄症に対する手術は、通常、治療開始から3ヵ月間は行うべきではないだろう。」。しかし、「D」判定程度の裏付けしかないのでは、このガイドラインもあてにはならない。

マネージド・ケア(総医療費管理型医療保険提供方式)機関は、ガイドラインを適切に運用するだろうか?

ガイドラインがどのように用いられるかは、現在も明らかにされていない。常に変化を続ける医学文献を反映しての改訂は、マネージド・ケア機関、保険会社、第三者の費用負担者から過度の圧力でできないのではないかとの懸念が研究者にある。革新的な研究結果が発表される度に、ガイドラインの解釈をやり直す必要があるのかもしれない。

「重要なのは、ガイドラインがある時点におけるスナップ写真のような存在だということです。」とSusman博士は語る。「われわれがマネージド・ケア機関をコントロールできないことは明らかです。けれども、マネージド・ケア機関に対し、患者や主治医が情報に基づいて治療を決定することを認めるよう望んでいます。勧告の中にはほんの少数の研究結果の裏付けしかないものもあるのですから、何が適切で何が不適切かを決定する際には、十分な柔軟性をもって臨むべきでしょう」。

Bigos博士はさらに、「マネージド・ケア機関はガイドラインを柔軟に解釈しなければなりません。われわれは、何が効くとか何が効かないとかを問題にしているのではなく、科学的証拠が何を支持し、今なお、何を支持できないかを述べているのです。ガイドラインが残された空白の部分を埋めるための科学的研究を促進させてくれることを願っています。」と付け加えた。


The BackLetter, Vol.10,No.1


(加茂)

「科学的に立証できた」とあるが・・・・

タイ国で研究すれがきっと「タイ式マッサージ」が最も科学的に立証された治療法になることだろう。

急性腰痛症の生理学的病態をどのようにとらえているのであろうか?そしてどのように立証したのであろうか?私は筋筋膜性疼痛症候群(MPS)と思っている。それは必ずといっていいほど強い圧痛点が存在するからです。また、多くの場合は中腰になるようなちょっとした動作や、時にははっきりとした原因なく発症しています。

つまり、筋肉のトラブルです。脊椎は無関係と考えられます。なのに脊椎マニピュレーションを推奨しているのは疑問です。しかもそれを科学的に有効性 が証明されている治療法といっているのはいかがなものかな。

圧痛点に局所麻酔をきちんと注射してやればその場で治ります。そのほうが生理学的にも立証可能ですし、消炎鎮痛剤が効くことの理由とも矛盾しません。

「神経根障害の症状を伴う非常に強い坐骨神経痛を呈するごくわずかな特別な患者」

これは具体的にはどういうことなのだろうか?神経根が障害されると、麻痺がおきるのではないか?また痛みがおきるとすればCRPStypeUのようなカウザルギーの痛みで臨床で経験したことや、聞いたことがないが・・・。神経根障害とはどのような病態を想定してのことなのだろうか?

 

私はこのガイドラインは科学的ではないと思っています。

急性腰痛に対する臨床治療ーガイドラインの主な結論ー(アメリカ)


●評価

  • 急性の腰痛患者の最初の評価として、「危険を示す信号」(潜在的に重篤な脊椎の病変または他の脊椎以外の病変を示すもの)を見つけ出すことに焦点を絞る。
  • 危険を示す信号が存在しない場合、画像診断やそれ以上の検査を行っても、通常、腰痛症状が発現してから最初の4週間は役に立たない。

●活動の制限と治療

  • 苦痛は、一般大衆(OTC)薬の投与・脊椎マニピュレーション(manipulation)によって最も安全に緩和できる。
  • 急性期の患者において活動性を少し制限することは必要なことであるが、4日以上の臥床は役に立たないばかりか、患者をより弱体化させる可能性がある。
  • 低負荷のエアロビック運動は、発症後2週間以内に安全に開始することができ、患者の弱体化を避けられる。一方、体幹筋のコンデイショニング運動は、通常2週間遅らせる。
  • 急性腰痛が回復した患者は、できるだけ早く仕事や通常の日常生活に戻ることを奨励する。

●症状の持続化

  • 腰痛症状が持続する場合は、より詳しい検査が必要である。
  • 坐骨神経痛を併発する患者は回復が遅くなることがあるが、同様に精密検査を遅らせても問題ない。

●手術の適応

  • 腰痛発症後の最初の3ヵ月間は、重篤な脊椎病変のある患者、または患者が衰弱してしまうほどの重症の坐骨神経痛のある場合、画像診断で確認できる特異的な神経根障害の生理学的所見の認められる場合のみ、手術が利益となるであろう。

●回復の予測

  • 手術を行うか否かにかかわらず、坐骨神経痛を伴う患者の80%は最終的に回復できる。

●身体以外の因子

  • 身体以外の因子(心理的あるいは社会・経済的な問題など)は、回復の妥当な期待度を検討する因子に含めてよい。


(The BackLetter,Vol.10,No.1:p.3.1995.)


(加茂)

以上は1995年のアメリカの「急性腰痛の治療のガイドライン」である。これに対してもちろん賛否両論がある。日本ではこの内容では無理だろう。全体的にはまずまずだと思うがいくつかは疑問点がある。

脊椎マニピュレーションとはいったい何なのか、その定義は?指圧やマッサージでは最も安全に苦痛を緩和できないのか。具体的に何をどうする目的なのか?

薬(たぶん消炎鎮痛剤)と脊椎マニピュレーションを推奨しているが、いったいどのような病理を想像しているのか?何となく政治的配慮のにおいがする。

私は急性腰痛の治療に頻繁にたずさわっているが、圧痛点のブロックで何のトラブルもなくほぼすぐに解決している。薬はいらないという患者さえいる。脊椎マニピュレーションを知らなくてもなにも問題はない。

アメリカ人は日本人では考えられないほどのミリ数の薬を飲むと聞いたことがある。

ほとんどの急性腰痛は治療しなくても数日〜数週でよくなるものだ。それを1〜2日で治すところに治療するメリットがある。

坐骨神経痛とはどのような病態なのか?特異的な根障害とは?麻痺のことか?

加茂整形外科医院