ジョージア州の最新研究は、椎間板に起因する腰痛の診断と治療の不確実性を強調する


椎間板に起因する腰痛のために脊椎後側方固定術を受けた患者のうち、結果がgoodまたはexcellentであった者はわずか39%であった、という新しい研究が報告された。とくに労災補償患者の成績はひどく、90%がfairまたはpoorという惨状であった。Emory大学のLarry M.Parker博土らの研究チームは、「このような結果は、厳密な患者選択基準を考えると意外でしたが、現時点における我々の診断の限界を強調するものです」と述べている。

この比較的小規模な非対照試験の設計方法では、手術の結果が思わしくなかった原因を明らかにできなかった。しかしながら、この試験は「椎間板に起因する」腰痛の外科的治療を取り巻く多くの不確実性を際立たせ、Washington,D.C.で開催された北米脊椎学会(NASS)の1995年の年次総会において最も活発な討論を引き起こした(現在、未発表)。

椎間板造影は手術によって修復できる病変を正確に同定できるか?適切な固定法が用いられたか?リハビリテーションは、労災補償患者が職場復帰の難関を克服できる厳しいものであったか?これらの疑問点の答えを見つけるためには、今後も研究を進めていかなければならない。

「椎間板に起因する」腰痛、すなわち有痛性または損傷された椎間板が原因となっている腰痛の治療については未だに論争の余地がある。「脊椎固定術は、椎間板に起因する疼痛症候群の外科治療の切り札とされていますが、それにもかかわらず、結果にはばらつきがありました」と、Parker博士らは報告した。椎間板に起因する腰痛に対する固定術の成績を検討したこれまでの試験では、対象数が少なすぎること、各対象群の構成疾患がまちまちであること、比較対照群を設けていないこと、評価基準が様々であること、第三者の立場による経過観察が欠如していることなどが妨げとなっていた。

Parker博士らは、彼らが行った今回の研究は、これらの欠点のいくつかに取り組んだと述べた。彼らは、同様の診断を下された患者を対象とし、厳密な評価方法を採用し、手術結果の評価は第三者の立場の医師が行うようにした。

彼らは、同じ外科医が治療した23例の患者についてレトロスペクティブに研究を行った。患者は全員、著明な下肢痛や神経脱落所見はなく、動作に伴う腰痛(mechanical low back pain)があった。患者は全て、dark diskーすなわちMRI所見で異常が認められる椎間板が少なくとも1つは存在した。治療にあたった医師は有痛性のレベルを同定するため椎間板造影を行った。試験対象患者は全員、6ヵ月以上にわたり保存療法を行い効果がみられなかった者である。患者は22〜56歳まで、平均年齢は41歳であった。労災補償患者が10例含まれていた。

患者は全員、自已の腸骨を移植する脊椎後側方固定術を受けた。症例のほとんどが骨移植にCotrel-Dubosettのinstrumentを追加した。8例は1レベル、14例は2レベル、1例は3レベルで固定を行った。平均入院期間は9日間であった。6例が合併症を発現し、5例で偽関節が確認された。

第三者の立場の医師が、問診票によって手術結果を評価した。「臨床的結果は、視覚的アナログスケールの[疼痛]スコア、手術後の鎮痛薬の使用、罹患前の仕事量に対する仕事の能力を%で表した仕事復帰率に基づいて評価を行いました」と、Parker博士は説明している。「平均経過観察期間は47ヵ月で、22〜84ヵ月の範囲でした」。

総合すると、患者の39%がgoodまたはexcellent,13%がfair,48%がpoorという結果であった。労災補償を受けた患者10例のうちgoodの結果は1例だけで、残りの9例はfairまたはpoorという結果であった。

仕事を続けていたか、あるいは手術前の休職期間が3ヵ月未満であった患者10例の70%は、経過観察時に半日勤務以上の仕事に復帰していた。術前に3ヵ月以上休職していた患者11例では二半日勤務以上の仕事に戻った者は1例だけであった。以前の仕事量まで100%戻った患者は29%に過ぎなかった。対象患者のほぼ半数は、経過観察時に自分自身を「働くことができない」と考えていた。

患者の満足度はく機能的な結果と完全には相関しなかった。21例のうち12例は手術結果に満足しており、goodまたはexcellentの患者は全例これに含まれた。少々驚いたことに、fairまたはpoorの患者の47%も治療に満足していた。

今回の研究が、筆者が述べているように診断の限界を強調するのも無理はない。椎間板造影は軸性腰痛を引き起こしている椎間板を正確に同定しただろうか?この研究の全ての患者は、本当に手術による修復が適当と思われる解剖学的異常があっただろうか?椎間板に起因する腰痛であることが椎間板造影で確認された患者について、手術と保存療法を比較する無作為試験は長い間求められていながら行われていない。

椎間板造影の正確さを評価できる絶対標準(gold standard)となる診断法がないため、患者の治療成績を詳しく調べることが、この検査の価値を判断する最良の方法であろう。

NASS総会で、数名の外科医から、この研究で行われた脊椎後側方固定術(これは関節複合体の後部のみを固定する手術)はこの種の椎間板障害に適した手術法でないのではないかという意見が出された。脊柱の前方部と後方部の両方を固定する固定術ならば、確かにもっと良い結果をもたらしたかもしれない。これは厳密な対照試験で証明する必要があるだろう。

しかしながら、もし労災補償患者を本試験から除くなら、残りの患者の70%は脊椎後側方固定術の結果がexcellentまたはgoodということになるだろう。PRIDEのTom Mayer博士は、労災補償患者の結果が劣っていたのは、Georgia州の労災補償制度下におけるリハビリテーションが単に不十分であったことの現れであるかもしれないと指摘した。彼は、外科医は解剖学的異常の修復と安定化によって疼痛を軽減することと機能回復をさせることに集中すべきであると示唆した。そして、リハビリテーションの過程では、職場復帰と社会経済的問題に取り組まなければならないと述べた。

Parker博士はそれに答え、外科医は彼らが行う手術の全結果を認識しておかなければならないと述べた。「あなたがたは固定術を成功させようとしていますが、もし患者が仕事に戻ることもできず、また著しい改善がみられなければ、その手術が患者のためになるのかどうか疑問が生じます」。

TheBackLetter,11(1):3.1996.


(加茂)

「椎間板に起因する腰痛」:変成した椎間板には痛覚神経の終末がみられるそうだが、それが興奮したときの関連痛をいうのか?興奮は高閾値機械的刺激なのか、内因性の発痛物質なのか?「椎間板に起因する腰痛」:この言葉の定義もなんとなくいいかげんで暗黙の不思議な了解のもとに、ある人は何の疑問もなく、ある人は言い出しにくく、議論しているのだろう。

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