誰か、もっと腰痛の理論を


「そうですね、何が原因でまっすぐに立てないほど痛むのかわかりません。けれども、たちの悪いものでないことは確かですから、精密検査の必要はありません」。

このような説明が気休めだとわかった患者なら、Floridaの湿地でも買って引っ越そうかという気になるかもしれない。

臨床家は非特異的な腰痛の原因について、もっと良い理論を必要としていると、腰痛治療成績評価チームの代表であるRichard A. Deyo博士は、Seattleにおける腰痛のプライマリーケア研究に関する国際フォーラムで意見を述べた。「我々は、痛みの原因が何かを患者に説明するより良い方法が必要です」。

患者は安心させてもらうことを求めているとDeyo博士は指摘した。「彼らは恐ろしい病気になってしまったと思いながら我々の所に来ます。そうでなければこんなに痛みがひどいわけがないと思っているのです。彼らは、何が起きているのか、なぜ痛いのかを知りたいのです」。今のところ、多くの場合、医学はそれらに答えることができない。

Georgetown大学医療センターのSam W. Wiesel博士は、組織を特定した診断を下せないことがしばしばあると同意する。しかし、正確な診断を下せない場合でも、医師は患者を安心させ、役立つ情報を提供することはできると指摘する。「重篤な基礎疾患でないことがわかれば、それだけで患者を十分に安心させられ、全快するまでの期間、患者は腰痛と共存しながら生活できるのです」と、Weisel博士は語った。「多くめ患者は、自分が癌や感染症でないとわかっただけで安心します」。

腰痛の原因に対してより良い理論があれば、患者の不安感や高額の検査を依頼する患者の度々の要求を解消する手助けとなるだろう。「非特異的な腰痛を引き起こしている原因に対して、より明確な理論があれば、それが有効な治療法を探し出すためのもっと有効な指針を我々に与えてくれるでしょう」と、Deyo博士は述べた。

残念ながら、腰痛に関する理論は両刃の剣である。次々と新しい理論が生み出されることが科学研究を前進させるために必要な一方、新しい理論が必ずしも患者に有益な影響を与えるとは限らないのである。腰痛に対して最も合理的であるように聞こえる理論ー椎間板変性疾患が思い浮かぶがーも、激しい腰痛発作に襲われている患者を震え上がらせてしまう。

「少し関節炎の気がありますね」というのも、医師には無害なようでも、一部の患者に対しては背骨が溶けかかっていると思わせてしまう説明のたぐいなのである。

最新の連邦政府の急性腰痛ガイドラインには、確証のない一般的な腰痛診断の一覧表が示されている。すなわち線維輸断裂、線維筋痛症、脊椎症、関節変性疾患、椎間板障害/破壊、成人脊椎分離症、椎間板症候群、腰椎椎間板症、捻挫、脱臼、筋膜炎、挫傷、椎間関節症候群、変形性椎間関節症、亜脱臼である。

ガイドラインでは、これらの用語は「腰痛の原因を表すために一般的に使われている」と述べた。「しかしながら、科学的研究によればこれらの診断と腰痛症状との関連は明らかにされていない」と、ガイドラインは主張した。

確証のない理論を背景にした治療法は、その治療法を確証のないものにしてしまうとDeyo博士は指摘した。「例えば、椎間板変性に関係した脊椎の不安定性が腰痛の主な原因であるとするなら、脊椎を固定しなければならないという答えが導かれます」と述べた。「腰痛のほとんどが職場で繰り返される損傷が原因であるとするなら、正しい攻略法は、業務内容を人間工学に基づいて変更することかもしれません。腰痛が精神的なもので生じると考えるなら、正しい治療はバイオフィードバックや行動認知療法であるかもしれません」。

腰痛理論を有用なものにするには、それらを速やかに科学的試験で検討しなければならない。研究者が理論や仮説を単に証明しようとするのではなく、むしろ反証しようと試みることが重要である。「私は、科学的手法はこのようにして確立するものだと理解しています」と、Deyo博士は語った。「仮説を立て、実験でそれを反証しようとするのです。もし仮説を反証することができなければ、それを試験的に受け入れて、その意味について検討し、その結果を再現しようとします。それが成功すれぱ仮説を受け入れ、何らかの実用的な適用法を開発していきます」。

腰痛の分野では科学的手法が歪められていることがしばしばあると、Deyo博士は示唆する。「ある仮説を立て、その仮説が裏付ける治療法を患者に行う診療所を設立したとします。すると誰かがその仮説を裏付ける貧弱なデータを持って現れ、成功を宣言し、彼らが行っていることを保護するための圧力団体を作るのです」。

TheBackLetter,10(12):133,142.1995.


(加茂)

私はほとんどの腰痛は圧痛点(痛覚過敏点)に局所麻酔を注射するとすぐに止まってしまうのでその部分のポリモーダル痛覚受容器がブラジキニンなどの発痛物質で感作されたためだと思っている。あたりまえのこと。発痛物質が放出されるメカニズムは生理学者に聞けばよい。

病名はポリモーダル受容器感作性腰痛症にすればよい。

ヒスタミンが遊離されて蕁麻疹ができることと同じようなシステムなのだろう。慢性化したり再発を繰り返すのは脳の痛みの認知と反応が関係していると思う。

私は、心身症レベル、うつ状態(傾向)、神経症傾向(状態)がなんとなくではあるがあると思っている。

心身症レベルはとても簡単(簡単なのが心身症レベル)、うつ状態は抗うつ薬が効くので心身症レベルの治療+抗うつ薬でいける。

厄介なのが神経症傾向、(こだわり、とらわれ、理解できない、聞く耳なし、いろいろなタイプがあり)圧痛点がはっきりしない場合もあり、治療に難渋することが多い。

心身症レベル ポリモーダル受容器感作性腰痛症(TMS) 局麻が効く、簡単
うつ状態(傾向) ポリモーダル受容器感作性腰痛症(準TMS) +抗うつ薬が必要か
神経症傾向(状態) ポリモーダル受容器感作性腰痛症(準TMS) バラエティーに富む、治療に難渋
ポリモーダル受容器の感作が疑わしい

加茂整形外科医院