慢性疼痛への心理・社会的アプローチ

高橋玖美子(高崎健康福祉大学健康福祉学部保健福祉学科)

ペインクリニック25:884ー891,2004


要旨

心理・社全的要因が錯綜した慢性疼痛患者は、医療の治療対象から排除される傾向がある。これらの対象者にリハビリテーションチームが治療契約を結んで、その枠組みの中で心理的な「拘えの環境」を作る3ヵ月プログラムを実施した。認知行動療法にカウンセリングを併用して、自己の内的世界への直面化を促しつつアイデンティティの確立と生活の再構築を図る。症例ではカウンセリングにより、母親の死への喪の作業とストレスコーピングヘの気づきなど人間の精神構造についての理解を促した。第1期治療終結時に引き起こされた怒りを受け止め言語化することによって本治療の意味を理解させ、第2期追加治療時における疼痛行動の劇的改善と積極的な治療への参加に効果があった。

キーワード:慢性疼痛、カウンセリング、心理・社会的アプローチ

はじめに

1.対象者の特徴

2.「長期プログラム」の特徴

3.治療枠組みについて

4.症例紹介

 表3現病歴

2000年10月 椅子から立ち上がろうとして腰痛,左下肢痛出現
10月初旬 K市民病院整形外科外来受診
10月24or25日 同院入院
12月13日 手術(左L5/S1 herniotomy)施行、術後いったん症状軽減.
12月23日 再び左下肢痛出現
2001年1月7日 再手術(両側L5/S1 herniatomy)施行.術後、いったん症状軽減。しかし再手
術後、徐々に腰部全体の痛みが出現。ただし初発の腰痛よりは軽い。Facet
block、SRBを受けたが効果不十分であった。
2月下旬 県立T病院ペインクリニック科へ転院し、神経ブロック・薬物療法を受けたが
著効なし。同病院入院中に精神科受診するも異常なしと診断
3月下旬 K市民病院へ転院
3月末 官舎(独身寮ー自室3F、和式トイレ)へ退院し、1年間外来にてfacet block,
アンペック坐剤等受療
2002年4月 M市へ転勤、市内I整形外科病院受診
4月下旬 復職。復職後より右下肢痛出現。I病院で仙骨裂孔ブロックを受ける
10月上旬 M赤十字病院整形外科受診
10月21日 同院入院.検査(myelogram,SRG等)では異常なし
11月12日 Iリハビリセンターへ転院
初診時腰椎椎間板ヘルニア術後SLR左30度陽性、右40度陽性(1 tight hamstrings)Valleign sign 陰性、PVM・GSN圧痛なし
入院治療では効果がなかったため外来診療への移行を伝えると本人が疼痛リハビリ専門での入院治療を希望
2003年2月13日 当院リハビリ科外来初診


5.考察

本稿で紹介した長期プログラムは,慢性疼痛患者への心理・'社会的な側面に焦点を当て、治療チームが患者とともに社会復帰に向けて協働作業をしていることが特徴である。表2に提示したとおり、初期の治療方針ではそれぞれのスタッフが個々に専門的なアプローチをしているように見えるが、病んでいる心と身体の双方向から同時に関わることによって、孤独でほとんど寝たきりであった状態からスタッフを通して人とのコミュニケーションが可能になり、結果として日常生活自立に移行している。この協働作業では家庭や職場、地域社会から孤立していた患者が「抱え環境」を体験し、自己を安心して取り戻す作業を促す。従来の治療者主導による身体機能改善目的のリハビリ訓練と比較して、本手法では「遊び」の要素を多分に含んだ卓球、スタッフ等との外出,パーティーの準備(表2)といった形をとる。患者は受け身的な医療概念から治療の主体が自分自身であることを目に見える形で経験し、医療依存からの認知的転換がなされる。この中で心と身体における過緊張を無意識に解きほぐしリラックスしていく。

本アプローチにおいて,カウンセラーは本人およびチーム成員に患者の精神構造への理解を促し、患者がその成長過程で負ってきた心傷体験の癒しとしての関わりを持つ。この対応によって患者は自分自身の心と身体に起こっている症状に深く納得することができるのである。

おわりに

慢性疼痛患者への心理・社会的アプローチについて述べた.。昨今は経済効率が優先される結果・通常め医療の枠組みでの慢性疼痛への対応はますます困難になりつつある。慢性疼痛を総合的に扱う受け皿つくりが早急に求められている。今回述べてきた長期プログラムはそのようなシステムの中でこそ生かされていくのではないかと考えている。

稿を終えるにあたり,終始臨床をともにしご指導をいただいた東京都リハビリテーション病院リハビリテーション科の本田哲三先生、作業療法士 水品朋子先生、理学療法士 鈴木博行先生、医療ソーシャルワーカーの朝比奈朋子先生に深謝いたします。


(加茂)

それにしても壮絶な病歴ですね。椅子から立ち上がったばっかりに・・・・。ヘルニアと痛みは関係ないと思います、やっぱり。

慢性化したのは

  • 急性痛の時の介入の間違い?
  • 個人的要因(環境、不安など)

手術の技術的な問題ではないと思います。

http://junk2004.exblog.jp/d2004-12-11

加茂整形外科医院