無痛性胸部椎間板ヘルニア
Silent Thoracic Disc Hemiations


数年前までは画像スキャンで胸部椎間板ヘルニアがみつかると、危険信号と解釈されて時には手術が適応された。ところが、今では様々な研究により無痛性胸部椎間板ヘルニアはよくみられるだけでなく、自然経過が安定しているとも推測されている。経過観察を行う価値はあるが、予
防的治療が必要だという証拠はない。

MinneapolisのTwin Cities Scoliosis CenterのJohn Blair医師らによる新規研究では、無痛性胸部
椎間板ヘルニアが有痛性に変化した例は、平均2年以上の経過観察を通して全く確認されなかった。小さな椎間板ヘルニアの中には大きくなったものもあったが、いくつかのより大きなヘルニアは縮小しており、症状を引き起こしたものは1つもなかった。

「本研究の結果から、医師は胸椎MRIを慎重に解釈すべきだと考えます」と、最近のAtlantaでの米国整形外科学会の年次総会で共同研究者Kirkham Wood医師は述べた。「患者の愁訴とMRI所見との関連性を注意深く検討することが、過剰な治療を回避するために重要です」。

以前の研究で、Wood医師らは無痛性椎間板ヘルニアが極めて一般的な所見であることを明らかにしている。平均年齢40歳の無症状の被験者60人のうち、37%に明らかな椎間板ヘルニア、53%に椎間板膨隆、58%に線維輸断裂を認めた。同様に症状を伴わない脊髄の変形も29%と驚くほど多くの被験者に認められた(Journal of Bone and Joint Surgery,1995;77-A(11):1631-1638を参照)。

最近、Blair医師とWood医師らのグループは、前回検討した60人の被験者のうち29人について、無痛性椎間板障害の経過をX線像と臨床面から検討するために、第2の研究を行うことにした。このうち20人の被験者で、平均26ヵ月間の経過観察中に複数回のMRI検査が行われた。年齢は25〜54歳で、平均38歳であった。

前回のMRI検査では、被験者の48椎間でヘルニアが確認されていた。今回の研究では、これら48椎間の全てにヘルニアが依然としてみられることが確認され、5椎間で新たにヘルニアがみつかった。新たな椎間板ヘルニアのうち、症状を引き起こしていると考えられたものはなかった。

Wood医師らは胸椎の全てのレベルに椎間板ヘルニアを認めたが、大多数は胸椎の下半分に生じたものであった。ヘルニアが最も多くみられたのは、T6-T7とT8-T9であった。彼らは、最初の研究で発見した椎間板ヘルニアの大きさと形を経過観察時と比較した。胸部椎間板ヘルニアの73%では、有意な大きさの変化がほとんど認められなかった。大きな椎間板ヘルニアは小さくなる傾向にあり、7椎間のヘルニア中4椎間で明らかに小さくなっていた。小さな椎間板ヘルニアは同じ大きさのままか、もしくはやや大きくなる傾向がみられた。

「どの椎間板ヘルニアも完全には吸収されませんでしたが、無痛性椎間板ヘルニアの予後は良好であると、我々の研究結果では示唆しています」とWood医師らは結論した。

残念なことに、胸部椎間板ヘルニアに関する科学文献が説得力に欠けていることは否定できないので、臨床医はこれらの研究を話半分で聞いておこうとするかもしれない。今回の研究では、無痛性椎間板ヘルニアが将来、症状を引き起こすという証拠はみつからなかったが、あくまで48椎間を検討したにすぎないのである。おそらく数え切れないほど多くの成人に無痛性胸部椎間板ヘルニアがあると考えられるので、この危険性を正確に予測するのに本研究は十分な規模ではないだろう。

しかしながら、一方では無痛性胸部椎間板ヘルニアも最後には症状を引き起こすようになるとか、あるいは予防的に治療するべきであるという証拠はない。Blair医師らは、臨床医はMRIスキャンで明らかになる無痛性の異常像を認知するべきであり、画像検査で無痛性ヘルニアが確
認された場合には注意深く観察を行うことをすすめている。脊髄もしくは神経根障害の疑いがある場合には、画像スキャン上の異常との関連性についてきわめて注意深く検討しなければならない。

画像上での異常所見と症状のいずれもみられる患者でも、注意深い経過観察が適応になるだろう。Courtney Brown医師らによる、有症性胸部椎間板ヘルニアの自然経過に関する唯一の研究では、73%の患者が保存療法によって回復するとの結果が得られている(Spine、1992;17(6S):
S97-102.を参照)。

The BackLetter,11(4):37,44,1996.

加茂整形外科医院