最新の文献レビューによれぱ、人間工学的な介入が職業性腰痛を防ぐという証拠はないと報告

No Evidence That Ergonomic Interventions Prevent Back Pain at Work, Says Major New Review


科学的証拠は・職業性の腰部損傷の補償請求や腰部の愁訴を防ぐための人間工学的な手法を支持するものではない。

雇用者、労働組合、および政府機関は、かねてから職場における幅広い人間工学的な介入によって、腰痛と脊椎が関係する就労障害が予防できるのではないかと期待してきた。専門家の中
には、非常に費用のかかる脊椎関連の就労障害が蔓延するのを食い止めるには、政府が職場環境の改善を命令すべきだと主張する者もいた。

しかしながら、最新の大規模な文献レビューにおいて、職場における脊椎関連の問題は人間工学的な介入により消失するどころか、実質的に減少するという科学的証拠さえほとんどないことが明らかになった。「概して、職業性の腰部損傷の補償請求や腰部の愁訴を防ぐための人間工学的な手法が有効であるという科学的証拠はありませんでした」と、文献分析の筆頭者である
Stanley Bigos医師は述べている。

Bigos医師は、この最新の研究成果をNew York Cityで開催された国際腰椎研究学会(ISSLS)の教育講座で報告した(現在、論文は未発表)。

750件の研究を再検証

米国整形外科学会の協力を得て、Bigos医師らは職場における腰部の愁訴や腰部損傷の補償請求に対するリスクと予防に関する学術論文を包括的に分析した。この分析には、AHCPR(米国の医療政策研究局)ガイドラインと同様の方法が使用された。

Bigos医師らは、科学的に最も信頼できるプロスペクティブな比較試験、グループ研究、および症例対照試験を系統的な手法で確認した。1994年12月にMEDLINEで文献検索を行った。2人の医師がより詳細な分類と再検証を行うため、750件の研究を選択し、審査のために科学的証拠の表を作成した。

各研究は客観的基準に基づいてランク分けされた。最終的には、科学的証拠の質によって各研究を分類した。最高ランクが"strong"、次が"adequate"、その下に"some"、“weak"と続く。

"Strong"にランク付けされた研究は1件のみであった。それは、M. Rossignol医師らの研究で、航空機の組み立て工において、補償の既往と将来の腰部損傷の補償請求とが相関すると報告していた(Spine1993;18(1):54-60.を参照)。

看護婦のための腰部調整運動

"Adequate"と判定された研究はわずか6件であった。そのうちの1つは看護婦の欠勤時間数を減らすために、腰部調整運動を行うことを強く勧めていた。B.Gundewall医師らは、老人専門病院の看護婦を対象に腰部運動プログラムを実施し、腰部損傷の補償請求が有意に減少することを見いだした。Gundewall医師らによると、「理学療法士の指導によるトレーニング1時間あたりに換算すると、プログラム参加者の欠勤日数は1.3日減少しました」という(Spine1993;18(5):587-594,を参照)。

この他に"adequate"と判断されたものに、Bigos医師らのボーイング社の航空機関連従業員を対象とした画期的な研究がある。この研究で、Bigos医師らは仕事に対する不満と生活困窮の程度が将来の腰部損傷の補償請求の予測因子になることを示した(Clinical Orthopaedics and Related Research 1992;(279):21-34.を参照)。

Hilka Riihimaki医師らによる2つの研究も"adequate"に評価された。このうち1つは、機械操縦員と大工で、腰痛の既往があると将来の坐骨神経痛のリスクが増大することを示した研究である。Riihimaki医師は、「腰痛の既往は、将来における腰部障害の最も良い予測因子です」と述べている(Spine,1994;19(2):138-142.を参照)。

Riiqmaki医師らのもう1つの研究は、コンクリート補強作業員と家屋塗装業者では、坐骨神経痛の既往があると将来の腰部愁訴の発現リスクが増大することを明らかにした(Scandinavian Journal of Work Environment & Health,1989;15(6):415-423.を参照)。

"Adequate"に分類された研究の最後の1つは、腰椎ベルトの着用が腰部損傷の補償請求を減らさないことを示した研究である。C.R.Reddell医師らは、アメリカン航空の手荷物取扱者を対象として、腰部ベルトを着用した者と着用しなかった者で、欠勤日数、仕事制限のあった日数、業務に関連する腰部損傷に関して差がないことを明らかにした。

どう見ても、"strong"や"adequate"と評価された研究から、職場における大規模な腰痛予防プログラムの骨組みは浮かび上がってこない。それぞれの知見をつなぎ合わせると、雇用者にできることといえば、腰痛あるいは坐骨神経痛の既往のない労働者を雇い、彼らが仕事に満足して生活に困らないようにさせ、仕事中に腰部調整運動(老人専門病院の看護婦で得られた知見が他の業種にもあてはまると仮定して)をさせるように努めるということになろう。この予防プログラムでは、どうあってもWall St. Journalの表紙は飾れまい。

不十分なデータ?

Bigos医師は、「これが、今のところ得られている"strong"と"adequate"とのデータです」と語る。「とても多いとは言えませんが、この問題に関する現実的、あるいは科学的な指針をもはやレトロスペクティブな研究や横断研究に求める必要がなくなったと言えるでしょう」。現在、職業性腰痛の研究は盛んに行われており、今後、正当な根拠をもつ新事実が着実に明らかにされていくであろう。

TheBackLetter,11(8):87.1996.

加茂整形外科医院