むち打ち症:活動の早期再開がカギ?

Whiplash: Is Early Return to Activity the Key?


むち打ち障害患者には、通常活動を早期に再開するよう、積極的にすすめるべきである

ノルウェーの無作為研究によると、通常活動を早期に再開すると、むち打ち症を伴う「頸部捻挫」の回復が促進されるようだ。

Grethe E. Borchgrevink博士とそのグループは「頸部捻挫損傷後に通常活動を続けるように指示された患者は、病気休暇をとって仕事を休んだ者や、事故から14日間ソフトコルセットで頸部を固定した患者よりも、良好な結果を示した」とまとめている(Borchgrevink et al.,1998.参照)。

Borchgrevink博士らは、通常活動を早期に再開するようアドバイスすることは、患者に良い影響を与える心理学的メッセージを送ることになると考えている。彼らは「患者は頸椎カラーなどによる固定や病気休暇によって、事故や事故後の症状を一層気にするようになり、障害が長く続くのではないかと不安を抱くのではないだろうか。逆に、事故の後でも通常通り行動するよう指示することで、一般的に患者は、負傷した後でも安心であるというメッセージを受け取っているのであろう」と述べる。

Borchgreyink博士らは、交通事故後に「頸部捻挫」のため、救急外来を受診した患者201例について研究を行なった。診断手順は具体的に述べられていない。しかしながら、X線写真で脊椎骨折が見つかったもの、神経根圧迫の臨床症状、および事故時の脳震藍や他の頭部外傷、などのあった患者は、すべて除外された。

すべての患者に、5日分の非ステロイド性抗炎症剤の処方と、「頸部の自已トレーニングに関する指示」を与えた。その後、患者は、2つの治療群に無作為に割り付けられた。一方の群には、『ふだん通りの生活』をするようにアドバイスし、病気休暇または頸椎カラーを与えなかった。別の群には14日間の病気休暇を与え、その期間中頸椎ソフトカラーを装着するようにアドバイスした。「頸椎カラーを、日中は2時間着けたら2時間外しておくのを繰り返し、夜間はずっと装着するよう指示した」。

両群とも、6ヵ月間の追跡調査期間に症状および機能が有意に改善した。しかしながら、局所痛、通常活動中の疼痛、頸部の硬直、記憶力および集中力といった自覚症状、ならびに頸部痛と頭痛についての視覚的アナログスケールの評価結果に関しては、『ふだん通りの生活』群の方が有意に良好な結果を示した。

客観的な指標では、長期にわたる追跡調査で、両群間に差は見られなかった。2週間の治療期間終了時から6ヵ月後までの期間では、病気休暇に関しては2群間に差がなかった。6ヵ月間全く働いていない患者が各群に1例、半日だけ働いていた患者が両群とも数例であった。

本研究は、むち打ち障害に関するケベック特別調査団のいくつかの勧告を支持している。特別調査団の概要では、「臨床医は、むち打ち障害患者に通常活動の早期再開を積極的にすすめるべきである」としている(Spitzer et al.,1995.参照)。

ケベック特別調査団は、臨床症状による程度分類を提案し、グレードIの患者(頸部の疼痛、硬直または圧痛の愁訴のみで、理学的所見なし)に対して、仕事に関する制限なしで通常活動への復帰をすすめた。グレードII(頸部症状および筋・骨格系障害の所見)およびグレードIII(頸部愁訴および神経学的障害の所見)の患者に対しては、(臨床状況から妥当であれば)仕事に関する一時的な制限付で、できる限り早い通常活動への復帰を推奨した。この新研究の対象患者は、グレードIおよびIIに分類でき、“通常通りに活動する”という治療プロトコールは、ケベック特別調査団の勧告と一致しているように思われた。

残念なことに、本研究で実施された「自已トレーニング」プロトコールに関する情報が記載されていないので、臨床医がこの研究の方法を臨床で用いることは不可能であろう。「自已トレーニング」は、運動負荷プログラム、姿勢の訓練、またはマルチ方式の方法であったのだろうか?本研究は、この点を具体的に報告していない。こうした情報の欠如は、無作為臨床研究にとっては大きな欠点である。

ほとんどの患者が良好な回復を示したとはいえ、本研究は、むち打ち関連損傷の暗い側面も強調している。被験者の約20%には慢性症状が発現していた。「両群とも、約20%の患者は、事故後14日目よりも、事故後6ヵ月目の方が症状が悪化したと感じると報告した」と報告された。

疫学者のDavid Cassidy博士は、こうした進行性の症状がみられる部類の患者は、一般的なむち打ち症患者の典型例ではないだろうと指摘する。「救急室を受診した患者から選択した患者群の方が、常に予後が悪い」という。博士は、むち打ち関連愁訴の患者は、通常は大部分が回復すると指摘する。

参考文献:

Borchgrevink GE et al., Acute treatment of whiplash neck sprain injuries, Spine, 1998; 23(D: 25-31. 

Spitzer WO et al., Scientific monograph of the Quebec Task Force on Whiplash-Associated Disorders, Spine. 1995: 20(8S): 36S. 

The Back Letter 1998・ 13(3) : 27 . I

加茂整形外科医院