【目的】
運動器の生活習慣病の多くは四肢体幹に疼痛をきたす。国民生活基礎調査でも有訴者の1〜3位までは肩こり、腰痛、関節痛と運動器疾痛に占められている。しかし多くは整形外科の診療のなかで身体的治療に終始するのみであり背後にある心理社会的な要因までは考慮されない。このような運動器に疼痛をきたす生活習慣病に対する整形外科領域内での心身医学的アプローチの可能性を検討した。
【方法】
関節リウマチ、変形性脊椎症などの生活習慣病の症例で身体的治療をもってしても消失しない疼痛などの身体症状や並存する抑うつや不安などに対して心身医学的なアプローチを行い症状の変化を記録、検討した。
【結果】
関節リウマチでは症状の増悪する時期には抑うつ傾向が認められ、これらに対して支持的共感的に接し抗うつ剤などを使用することによりSDSや疼痛VAS、全般VASなどの改善がみられた。関節リウマチの経過中に2次性の線維筋痛症をきたした症例に対して器質的異常のみならず症状の成因に関与する心理社会的な要素を考慮して症状の軽快を導いた。また脊椎症などから生じる坐骨神経痛でも疼痛が通常の治療で軽快しない症例に対して家族背景などからストレス
の有無を探り心身医学的な視点で対応し症状の軽快が得られた症例があった。
【結論】
腰痛や肩こりなどの運動器に疼痛をきたす生活習慣病は関節リウマチ、骨粗霧症、変形性腰椎症、変形性関節症など有病率の多い疾患が多い。これらの疾患では器質的病変が原因で疼痛が起こるが、その程度や持続はまちまちであり心理的要素が加わることがある。また広く慢性疲労症候群、線維筋痛症や腰部痛を含むFunctional
somatic syndromeでは心理的要因の強い患者ほど自分の症状を純粋に器質的なものと確信する傾向がある。これらの患者は身体愁訴に拘泥し心理的背景の存在を否定するため心療内科を受診することは少なく整形外科のような身体科を受診することが多い。ところがこのような患者に対して整形外科では器質的疾患を検索治療するという従来の方法論のみで治療されていることがほとんどであるため愁訴のとれない症例などを生じている。患者は身体科医による身体的治療を望むのであるから身体科医の診療のなかにこそ心身医学的な視点が必要と考えた。
(加茂)
筆者の主張には賛成だが、次のような点は疑問。
脊椎症などから生じる坐骨神経痛:
坐骨神経痛とはなんぞや?脊椎症からどうして生じるのか?
これらの疾患では器質的病変が原因で疼痛が起こるが、:
変形性脊椎症、変形性膝関節症は椎間板や関節軟骨の老化変性が原因であるが、構造と痛みは直接的な関係は証明されていない。。骨粗鬆症では骨折が起きないかぎり痛みは生じない。
リウマチは関節粘膜(滑膜)において、自己免疫の異常→炎症性サイトカイン→炎症→痛み
器質的病変があっても痛みがないことが多いものだ。また適切な治療で痛みがなくなることがしばしばある。器質的病変が原因で疼痛が起こる、ということは賛成しかねる。器質的病変が原因で疼痛が起こると説明することで、よくなることは少ないと思われる。
骨折、癌、感染症を除いて、痛みはハード(構造)の問題ではなくて、ソフト(心理・社会的)問題ととらえるべきと思う。