ユビキタスな全般性不安障害

越野好文(金沢大学)    

第9回日本心療内科学会学術大会 ランチョンセミナー :抄録集より


地域住民の疫学調査では、全般性不安障害の1年有病率は約3%、生涯有病率は約5%と高い。しかも多くの人々が同時に存在する身体症状を愁訴として頻回にプライマリー医を受診している。経過は慢性的で、発症後4〜20年以上のフォローアップ研究では、約半数は中等度の症状が持続していた。

今日、全般性不安障害はその存在が次第に広く知られるようになってきたが、治療はまだ
不十分である。病気についての正しい理解を深め、早期に治療を行うことが求められてい
る。

全般性不安障害の歴史をみると、1894年に精神分析の創始者であるフロイトが、全般的なイライラ感、慢性の懸念・予期不安、不安発作、および不安発作から生じる恐怖性回避の4つを中心症状とする不安神経症の概念をまとめあげた。約1世紀後の1980年に発表されたアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-V)」は、病的な不安を中心症状とする疾患を不安障害という新しいカテゴリーにまとめた。従来の不安神経症は急性の不安発作を中心とするパニック障害と、浮動性不安を中心とする慢性の全般性不安障害とに分けられた。

全般性不安障害の疾患概念は、その後、DSMの改訂を重ねながら、進化をとげた。最新DSM-W-TRは、「不安に満ちた予期あるいは憂慮(worry)」が全般性不安障害の中核症状と定義した。ところでWorryは憂慮、あるいは心配、懸念と、もいわれるが、ここでのWorryは不安に満ちた予測(apprehensive expectation)である。あるひとつのことが心に浮かぶと、それによって何か悪いことが起こりそうだと予測し、不安になり、あれこれと心配する。

憂慮は、心理的には持続的な悪い予感、反復する心配、イライラ感、集中力の低下、落ち着けないことなどとして現れる。そして身体的には筋肉の緊張と自律神経の過覚醒としてあらわれる。DSM-W-TRでは、コントロールできない過剰な不安と心配が、ほとんど毎日6ヵ月以上持続することと、肩こりや不眠などの随伴症状が3つ以上存在することを診断基準に採用している。このような身体症状を苦にして患者はプライマリー医を受診することになる。すなわち、色々な疾患の背後に全般性不安障害が、潜んでいるのである。特に重要なことに、全般性不安障害が長く続くことによってうつ病に至る例が多い。このことから、全般性不安障害を早期に発見し治療することが大切である。


(加茂)

ユビキタス(ubiquitous)とは,ラテン語で「いつでも、誰にでも起こりうること」を意味する

加茂整形外科医院