固定術と偽手術との比較試験を実施すべきか?

Should Fusion Surgery Be Compared With A Placebo Operation?


観血的脊椎手術について症状軽減に関するプラセボ効果が定量化されたことは一度もない

脊椎手術に関するプラセボ対照試験を要求する新たな提案がなされた。脊椎外科手術は実質的なプラセボ効果を有する可能性があり、それは手術法によっても、適応症によっても、患者集
団によっても異なり、おそらく手術を行う個々の外科医によっても異なる可能性がある。観血的脊椎手術について症状軽減に関するプラセボ効果が定量化されたことは一度もない。

New England Journal of Medicine誌に最近掲載された固定術に関するレビューは、固定術のプラセボ対照研究がまもなく可能になるだろうと指摘している。

“固定術のための低侵襲的技術の出現によって、偽手術を対照群にした比較試験が実行可能で受け入れられるものになる可能性がある”と、Richard A. Deyo博士、Alf Nachemson博士およびSohail Mirza博士は述べている(Deyo et al.,2004を参照)。

“倫理上の理由により、偽手術については依然として異論があるが、我々は、この手術法[すなわち脊椎固定術]について偽手術を取り入れた無作為研究が正当化されると考えている。なぜなら、生命を脅かす疾患のために行う手術ではなく、主要な臨床アウトカムは主観的であり、合併症の発生率が高いからである”と博士らは述べている。

膝関節鏡手術群と偽手術対照群

外科手術に関する最近のプラセボ対照研究はほとんどない。しかし実施された少数の研究は大反響を引き起こした。

J. Bruce Moseley博士らによる2002年のプラセボ対照外科研究は、膝の変形性関節症の治療に大きな影響を与えた(Moseley et al.,2002を参照)。同研究において、膝の関節鏡手術を受けた患者と偽手術(切開のみ)を受けた患者の症状軽減の程度は同様であった。結果として、第三者費用支払人は、膝変形性関節症に対するこの一般的な治療費を保険で補償することを渋るようになった。

脳手術のプラセボ対照研究

脳手術に関する最近の研究でも、手術の特異的効果を評価する上でプラセボ対照研究が重要であることが実証されている。Cynthia McCrae博士らによると“本研究におけるプラセボ効果は
非常に強力であり、偽手術を対照群にした研究の価値が実証された”(McCrae et al.,2004を参照)。

博士らのグループは、パーキンソン病の患者を、(1)胎児ニューロンの移植を行う脳手術、または(2)偽手術という2種類の手術方法のいずれかに無作為に割り付けた。

偽手術を受けた患者は症状が実質的に軽減したと報告し、他覚的な神経学的検査では有意な改善が実証された。

被験者の受け止め方と信念がアウトカムに重大な影響を及ぼすように思われた。“被験者が実際にどちらの手術を受けたかには関係なく、移植を受けたと考えていた人々は偽手術を受けた
と考えていた人々よりも、12ヵ月後に本人が報告したQ0Lが良好であった”とMcCrae博士は述べている。

しかし、手術群は運動機能の尺度においてわずかな改善を示し、手術にはいくらかの特異的利点があった可能性が示唆された。

研究者らは、この無作為対照研究において少なくとも12ヵ月間は患者およびアウトカム判定者を盲検下におくことができた。したがって、バイアスを最小限に抑えてアウトカムを検討することが可能であった。プラセボ効果に関する研究のほとんどは、二重盲検の期間が数週間しかなく、実際の治療効果と、患者が感じている治療効果との長期的な差を見分けることは難しい。


参考文献:

Deyo RA et al., Spinal-fusion surgery - the case for restraint, New England Journal of  Medicine, 2004; 350: 722-6. 

McCrea C et al., Effects of perceived treatment on quality of life and medical outcomes in a double-blind placebo surgery trial, Archives of General Psychiatry, 2004; 61 : 412-20. 

Moseley JB et al., A controlled trial of arthroscopic surgery for osteoarthritis of the knee, New England Journal of Medicine, 2002; 347: 81-8. 


The BackLetter 19(5): 51, 2004. 


(加茂)

変形性膝関節症への関節鏡下デブリドマンはプラセボ効果しかない 

〔サンフランシスコ〕 当地で開かれた米国整形外科医学会(AAOS)の年次集会で,ベイラー大学医療センター(テキサス州ヒューストン)整形外科のBruce Moseley教授は,変形性膝関節症(膝OA)の患者に関節鏡下デブリドマンや関節内洗浄を行っても,2 年後の予後はプラセボと差がないとする研究結果を発表した。

同研究では膝関節痛がある患者180例に、関節鏡下デブリドマン、関節鏡下膝関節内洗浄、器械挿入または軟骨切除をしない模擬関節鏡下小切開手術が行われた。3群に無作為に割り付けられた被験者は全員がインフォームドコンセントに署名し、同じ外科医の手術を受けた。

同意の手続きで擬似(sham)手術のみを受ける可能性があることを実際に説明した結果、研究参加基準に合致した被験者324例のうち、44%は参加を断った。研究期間中は一貫してどの手術を受けるか被験者にわからないようにした。

2年間の追跡期間で、3群全てで疼痛および膝関節機能の中等度の改善を報告したが、デブリドマン群も関節内洗浄群も、プラセボ群より成績が良いわけではなかった。追跡期間のある時期において、擬似手術を受けた患者の転帰はデブリドマン群より良好であったと報告された。

関節鏡下膝関節手術によりほとんどの患者の疼痛が軽減することが過去の臨床試験で明らかにされたが、実際の手術と擬似手術の比較はされていない。米国では、年間65万例以上の関節鏡下のデブリドマンや洗浄処置が行われているが、その多くは関節症患者で、費用は1回約5千ドルである。

「本研究は、手術方針に重要な関わりを持つ」と同博士は話す。「膨大な利益をもたらす産業を後押しする推進力が全てプラセボ効果であることが判った。医療産業は、純粋に主観症状を軽減する外科処置のプラセボと比較した有効性をテストする方法を考え直す必要がある」

加茂整形外科医院