非内包性の椎間板ヘルニアは数週間で消失するか?手術を遅らせるべきか?

Do Uncontained Disc Herniations Resolve Within Weeks Should Surgery be Delayed?


日本で行われた研究が、非内包性の椎間板ヘルニアが存在する場合には忍耐が役立つかもしれないことを示唆している。Takui Ito博士らは、椎間板手術を数週間遅らせることにより、非内包性の椎間板の脱出(extrusions)や遊離脱出(Sequestrations)は自然に消失すると提唱している。

Ito博士らによると、“これらの患者が最初の2ヵ月間、症状を我慢できるなら、非内包性の腰椎椎間板ヘルニアの患者を手術せずに治療できると、著者らは考えている”(Ito et al.2001を参照)。

この論文を書いた日本人研究者らは、数多くの観察に基づいてこの結論に到達した。彼らの自験例で実施したレトロスペクティブな研究で、症状出現後8週間以上経過してから手術を行った場合、非内包性の椎間板ヘルニアはまれにしか見つからないことに気づいた(編集者ノート:著者らは、線維輪を突破したものを非内包性の椎間板ヘルニアと定義した)。

著者らは、自らの研究および他の研究をもとに、画像および臨床上での異常の早期消失は、身体防御システムが非内包性の椎間板ヘルニアを攻撃してそれを吸収することによると推測した。

Ito博士らは、この仮説をプロスペクティブ研究で検証することにした。彼らは、馬尾症候群の患者や重篤な運動麻輝のある患者または社会的、経済的に早期手術が必要な患者を除き、症状
のある椎間板ヘルニアの患者全員に、少なくとも8週間は保存療法を受けることを勧めた。研究者らは、8週間待つことにより、総合的な手術実施率および非内包性のヘルニアの手術実施率
が低下するか知りたいと考えた。

新しい治療方針は、椎間板手術の実施率、すなわち、彼らの臨床現場における1年間の椎間板切除術の件数をほぼ50%低下させたようだ。そして、少なくとも8週間待ってから椎間板切除術を受けた患者は、手術時に著者らの分類法に基づく非内包性椎間板ヘルニアを有していなかった(詳細についてはIto et al.,2001を参照)。

一部の専門家は、本研究は非内包性の椎間板ヘルニアがしばしば速やかに消失することを裏付ける更なるエビデンスを提供するという、Ito博士らの意見に同意している。“Itoらの研究では、
脱出もしくは遊離脱出したヘルニアのあるほとんどの患者において、症状およびヘルニアそのものが数週間または数ヵ月で消失することを示した以前の研究の結果を確認する結果が得られた”とFranco Postacchini博士は「Spine」の論説で述べている(Postacchini,2001を参照)。

しかしながら他の専門家は、よく設計された大規模な科学的研究では、非内包性の椎間板ヘルニアが内包性のヘルニアよりも好ましい臨床経過を有することが、今なお実証されていないと
指摘する。彼らは、研究者が、ItO博士らの知見を土台にして、両方の種類の椎間板障害の自然経過について更なる研究を行ってからでなければ、結論を出せないと示唆している。

本研究は、非内包性の椎間板ヘルニアをどのようにして同定するかという問題を含めて、多数の興味深い問題を提起している。Ito博士らは、内包性のヘルニアと非内包性のヘルニアをMRI
で正確に区別することができなかった。その代わりに、彼らは、手術中の目視検査で椎間板ヘルニアを分類した。

一部の観察者は、目視による椎間板ヘルニアの内包性の検討では、完全に正確な結果が得られるとはかぎらないと提言している。椎間板の形態学的所見に関する研究をいくつか実施した、
Stanford UniversityのEugene Carragee博士は、本研究で同定した非内包性の椎間板ヘルニアの数が比較的少ないことに驚いたと語る。博士は、いくつかの脱出した椎間板断片が間違って
分類されていたのではないかと疑っている。

Carragee博士は、慢性の神経根症状のある患者に、非内包性の椎間板ヘルニアが認められることがあると報告している。しかし、博士は、これら脱出の一部は、目視では内包性の椎間板ヘ
ルニアとまったく同じように見えることに注目する。Carragee博士は、「脱出した大きな断片は、時に、部分的に吸収されることがあります。吸収過程において、断片の表面に高密度の線維
性の膜ができるのです」と語る。この膜は、線維輸組織と類似していることがある。

Carragee博士は、通常、断片の周りの組織に規則的な環状パターンがあるかどうかを知るために、脱出した断片の内包性の状態を顕微鏡観察で解析すると言う。しかし、博士は、内包性か非
内包性かをより正確に分類するために、今後の研究で断片の組織学的分析を実施することが必要だと示唆している。

手術は、結果の評価尺度として適当か

本研究が提起するもう一つの重要な問題は、椎間板手術の実施率が椎間板ヘルニアの臨床経過の適当な尺度かどうかということである。Ito博士らは、臨床現場における椎間板手術の実施率が低下していること、および手術時に認められる非内包性の椎間板断片の数が少ないことは、おそらく非内包性のヘルニアの臨床経過が良好であることを反映しているのだろうと結論づけている。博士らは、症状および機能に関するいくらかの情報を提供しているが、究極的には、本研究における主要な結果評価尺度は、1年当りの手術件数であった。

椎間板手術に関する決定が、基礎的な椎間板ヘルニアの臨床経過を直接反映しているというのは、確かにありうることである。しかし、多くの点で、手術を受けるという決定は、基礎的な解剖学的異常を直接反映しているというよりも、患者の症状および生活環境に対処する患者の能力を反映していることが多い。将来の研究で、すべての被験者の症状、機能および障害度に関する包括的なべースラインと経過観察のデータが得られれば、椎間板ヘルニアの消失が手術の決定とどのように相関するかを知るのに好都合であろう。

エビデンスにおける大きな溝

Ito博士らの研究は、椎間板ヘルニアの予後に関して、科学文献には大きな溝があるという事実を浮かび上がらせた。非内包性の椎間板ヘルニア患者に関する信頼できる長期結果のデータは、非常に不足している。選択された患者集団に関するいくつかの研究で、脱出もしくは遊離脱出した断片が身体に吸収もしくは部分的に吸収されることが実証されている一方で、大規模な結果研究では、非内包性の椎間板ヘルニアの画像上での消失が、一般的に症状や障害の消失と相関するかどうかが今なお決定されていない。

この問題についてより精密に研究するために、研究者は、MRIまたは他のX線検査を介して、内包性および非内包性の椎間板ヘルニアを正確に分類する方法を開発しなければならないであ
ろう。これによって、研究者が、患者が最初に医療機関を受診したときから椎間板ヘルニアの進行を記録し、症状の進行に対する椎間板の形態学的所見の影響を注意深く研究することが可能
になる。

実際にある種類の椎間板の形態学的所見によって、症状とそれに関係する障害の早期消失を予測できるのであれば、これは、予後に関する貴重な情報になるであろう。現時点で臨床医は、
患者に椎間板ヘルニアに関係した神経根症状があるとき、症状が1週間続くのか、それとも1ヵ月、1年、4年または10年続くのか予測する手段をもっていない。有症状の椎間板ヘルニアの臨床経過が、少なくとも長期的には好ましいことを、すべての人が認めている。しかし、回復曲線は、患者によって予測できないほど異なる。

最近のCochrane Collaborationレビューは、椎間板手術の本来の役割は、症状の消失を促進することだと指摘した。椎間板手術がこれを超える何らかの長期的ベネフィットをもたらすというエビデンスはない(Gibson et al.,1999を参照)。

同じくCochrane Collaborationレビューが指摘したことは、よく設計された科学的研究は、症状が消失するのを待つ気のない患者の最適手術時期を知るための詳細な指針を提供していないという点であった。

「Spine」の論説欄で、Carragee博士は、単純な時間経過とともに、有症状の椎間板ヘルニアが比較的良好な結果を示すことを指摘した(Carragee,2001を参照)。このように自然経過が好まし
いため、早期手術を推奨する脊椎専門医はほとんどいない。

Carragee博士は、“椎間板切除術を急ぎすぎると、不必要に多くの患者を手術のリスクと出費にさらすことになる”と述べた。一方、手術を望んでいる人々の手術を遅らせることが、同じく有害な作用を及ぼすこともあるかもしれない。Carragee博士は、“持続的な重篤な坐骨神経痛のある患者の手術を遅らせることは、苦痛と障害を長期化させる”ことに注目した。

“したがって、慎重な待機および保存療法を行う妥当な期間はどのくらいなのか。すべての患者に対して、すべての種類の椎問板ヘルニアに関して、それは同じなのか”と博士は疑問を投げ
かけている。

科学的研究で、これらの重要な問題に対する正確な回答がすぐに得られる
ことが望まれる。

Carragee博士は、これらの問題に真剣に取り組むためには、基礎疾患についての理解を深めるばかりでなく、患者についての理解を深めることも必要だろうと指摘している。

参考文献:

CamageeE,PointofView,Spine.2001;26(6):651.

Gibson JNA et al., The Cochrane review of surgery for lumbar disc prolapse and degenerative lumbar spondylosis,Spine,1999;24(17):1820_35.

Ito T et al., Types of lumbar herniated disc and clinical course, Spine, 2001 ; 26(6): 648-5 1 . 

Postacchini F, Lumbar disc herniation, Spine, 2001 ; 26(6):601.


The BackLetter 16(5): 49 57 2001 


(加茂)

私は椎間板ヘルニアが痛みを起こすとは思いません。麻痺症状があるかないかが問題ですが、あるならば早期に手術すべきでしょう。きわめてまれなことだと思います。だから、脱出や遊離した椎間板が消失しようがしまいが興味はありません。

髄核留置による椎間板ヘルニアモデルがあるが,椎間板髄核は機械的な圧迫がなくとも,炎症による脊髄神経根傷害を引き起こすとされる。・・・・・髄核留置はIL-1β,IL-6およびTNFαなどの炎症性サイトカインの産生を引き起こすとされており, 

髄核が内包されていればこのようなこともおきないであろうに?!皆さんはどう思いますか。

加茂整形外科医院