Award-Winning Study Highlights a Biological Trigger For
Nerve Damage Following a Disc Herniation
坐骨神経痛の生物学的な決定的証拠があるとすればどうであろうか。椎間板から脱出した髄核がヘルニアを形成した後に、一連の破壊的な反応を生じさせる引き金となる免疫系の生成物質が一つだけあるとすれば、どうであろうか。
そのような決定的証拠があるならば、薬物によってその作用を阻害することが可能かもしれない。これは、究極的には何百万人もの坐骨神経痛患者の苦痛は言うまでもなく、年間何千件にも及ぶ手術や、際限なく繰り返される保存的治療を防ぐことができるであろう。これは、たとえま
だつかみどころのないものであっても、魅力的な展望である。
坐骨神経痛の誘発因子の探求
基礎科学研究に対する今年のボルボ賞は、強力な坐骨神経痛の生物学的誘発物質、すなわち炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の存在をさらに実証した研究に贈られた。この研究はオーストラリアのAdelaideで開催された、国際腰椎研究学会(ISSLS)の年次総
会で発表された。ボルボ賞もその学会で授与された。
今までの実験的研究では、動物モデルでヘルニアを形成した髄核を脊椎の神経根へ移植すると、痛み行動の発現に加えて神経構造と機能が崩壊することが明らかになっている。別の研究では、ヘルニアを形成した髄核組織にはTNF-αが豊富に含まれること、この炎症性サイトカインが椎間板ヘルニアに関係する破壊的な反応を誘発しているらしいことがわかっている。
これらを踏まえて、California大学SanDiego校のRobert Myers博士が率いる国際研究チームは、ラットモデルの神経根にTNF-αを直接作用させると、髄核を移植したときと同様の反応がみられるだろうと考えた。もしそうであれば、髄核が引き起こした痛みには、TNF-αが中心的な役割を果たしていることが証明されるであろう。(Igarashiら、2000を参照)。
Myers博士らは、ラットにおいてヘルニアを形成した椎間板内の活性型TNF-αの分子量と濃度を測定した。さらに、神経組織における神経病理学的作用を調べるため、同じ分子量を持つTNF-αを合成した。ラットの神経根と後神経節にTNF-αを投与し、その作用を生理食塩水を投
与した対照群と比較した。Myers博士らは、これらの投与が神経構造と機能、痛み行動に与える影響を、投与の3,5,7,10,14日後に調べた。
著しい神経病理学的変化
この新しい研究において、神経根に投与されたTNF-αは著しい神経病理学的変化と行動障害を引き起こした。
「これらの研究においてわれわれが観察した神経病理学的変化は、神経根に髄核を移植したときの変化と非常に類似していました」とMyers博士は述べた。この化合物は確かに、神経損傷に関する火付け役となるに違いない。博士はさらに「TNF-α投与後24時間以内に、高度の神経内膜浮腫、ミエリンの分離、マクロファージおよびシュワン細胞の活性化、わずかですが軸索の変性が認められました」と述べた。
進行性病変
この病変は時間の経過とともに悪化した。「7日後には、一部の軸索でミエリン分離は明らかな脱髄へと変化し、さらにはワーラー変性と線維芽細胞の活性化がみられました」とMyers博士は述べた。線維芽細胞それ自体がTNF-αを増加させることから、線維芽細胞の活性化がキーポイントであるように思われる。言い換えれば、TNF-αという形をとった、身体の損傷に対する反応が、さらなる損傷と神経変性のサイクルを始動させるものと考えられる。
TNF-αが坐骨神経痛の発現の引き金となり得ることが確認されれば、その作用を阻止する新しい治療法につながるかもしれない。少なくとも動物実験では、抗炎症薬、TNF抗体、その他の薬剤がこのサイトカインの作用の緩和に有望とされている。
イグニッションポイント
1998年にSpineに掲載されたKjell Olmarker博士とK.Larsson博士による論文は、TNF-αの役割はまだ完全には解明されていないことに言及していた。しかしながら、それは神経組織と血管の両方に直接的な損傷を与えているように思われる。他の細胞を刺激して病因物質を産生させ、(Myers博士らの研究が示すとおり)さらにTNF-αを放出させるのかもしれない。TNF-αは低濃度でも病的変化を引き起こすことができる(OlmarkerおよびLarsson,1998を参照)。
「したがってTNF-αは病態生理学的過程の“イグニッションキー”として働き、髄核が引き起こした神経損傷の背後にある一連の病的変化を開始させるのに重要な役割を果たしているかもしれません」と彼らは主張した。
Myers博士らの研究はこの主張を強く裏付ける結果となり、坐骨神経痛に対する新世代の生物学的治療法への希望を与えてくれる。
焦りすぎ?
Dartmouth大学のJames N. Weinstein博士は、ISSLSの会合でMyers博士らの研究に対する討議の際に警告を発した。博士は、この研究や他の研究で観察された痛みのある神経障害がしばしば自已制限性であることに言及し、「それらは時間がたてば自然に弱まるものです」とWeinstein博士は述べた。
「われわれはこれらの反応を素早く阻止しようと焦りすぎているのではないでしょうか?(人間の)患者が急性症状を克服すれば、その患者の自然経過が良好であることがしばしばあります」
とWeinstein博士は述べた。
治療の好機
Myers博士は、これらの実験はラットで行われ、人間の場合よりも神経病理学的変化や痛みのサイクルが幾分短くなっていると答えた。「ラットの2週間が人間の1年間に相当すると考えて差し支えありません」と博士は述べた。
博士は、痛みを伴う神経障害に介入したり阻止するのに適した時期が存在するかもしれないと考えた。「われわれはこれらの実験で、痛みが神経線維のワラー変性に最も密接に関連していることを見出しました」と博士は述べた。
Myers博士はある遺伝子系統のマウスを用いた実験で、マクロファージの流入(それに続くTNF-αの産生)を阻害すると、痛みとワラー変性が軽減したと報告した。薬物治療によって同様の効果を得ることが可能かもしれない。
もちろん、TNF-αの産生を阻害し、破壊的反応を阻止するために適した時期に間に合うように治療を施すことなど、この可能性を秘めた治療法には、本質的に多くの難しい点がある。つま
り、患者はしばしばこれらの反応が発生した後に治療を求めるからである。
幸運なことに、TNF-αの役割をさらに理解し、その作用を阻害する治療法を開発するために、現在、力強い国際的な研究活動がなされている。実際、脊椎の研究において、この分野は国際協力のモデルとなっている。Myers博士らによるこの新しい研究は、スウェーデンからの協力の他に、海を越えた研究者同士の結びつきがあった。Myers博士を始めSan
Diegoの研究者らは、菊地臣一博士と五十嵐環博士が率いる日本の福島県立医科大学の研究チームと共同研究を行った。Myers博士は、この国際色豊かな研究チームの活動を調整し、円滑に進めてくれたOlmarker博士にも感謝の意を表した。
参考文献:
lgarashi T et al., Exogenous TNF-alpha mimics nucleus pulposus-induced
neuropathology: Molecular, histologic, and behavioral comparisons in rats,
presented at the annual meeting of the International Society for the Study of the
Lumbar Spine, Adelaide, Australia, 2000; 2000 Volvo Award winner in basic
science studies, Spine, 2000; 25(23):2975-80.
Olmarker K and Larsson K, Tumor necrosis factor alpha and
nucleuspulposus-induced nerve root injury, Spine, 1998; 23(23):2538-44.
The BackLetter 15(7): 73 80 2000.
(加茂)
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髄核からの炎症性サイトカインTNF-α説は未だ仮説です。
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線維輪を破って脱出していない場合は髄核は神経根にふれていない。この場合はどのように説明するのだろうか?線維輪が薄くなっていても影響を及ぼすのだろうか?
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ヘルニアがあっても全く症状がない場合もあるが、どうしてだろうか。
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なぜ電気生理学的な検討がなさせていないのか?
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神経根の炎症→異所性発火、という説明になるのだろうが、下肢にある圧痛点をどう説明するのだろうか
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臨床経過から、ワーラー変性とはほど遠いが・・・・
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参考:
http://www2.oninet.ne.jp/ts0905/emg/emg29.htm
クモ膜下無水アルコールブロック subarachnoid
ethanol block
滅菌純エタノールをクモ膜下穿刺によって注入し、脊髄後根に触れさせて知覚線維をワーラー変性〔神経細胞から切断された遠位の神経線維に起こる変性〕させ、分節的に永久ブロックを得る手技。頸部以下の悪性腫瘍などによる疼痛、四肢痙性麻痺などが適応になる。手技は、痛みの発生する脊髄分節を厳密に測定して、その中央部分をクモ膜下腔穿刺し、体位は患側上の45°半腹臥位にし、その脊髄部分が最も高くなる(エタノールは低比重0.8)ようにして、0.3〜0.7m1のエタノールを緩徐な速度で注入する。同じ目的でフェノールグリセリンを用いることも多く、これは高比重なので、体位は逆になる。合併症として脊髄穿刺、直腸膀胱障害、運動麻痺、髄膜炎が起こりうる。
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このように知覚神経の後根をワーラー変性させると痛みが麻痺するというというのが常識なのだが?
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>Myers博士は、これらの実験はラットで行われ、人間の場合よりも神経病理学的変化や痛みのサイクルが幾分短くなっていると答えた。「ラットの2週間が人間の1年間に相当すると考えて差し支えありません」と博士は述べた。
よくわからない表現だ??
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>痛みを伴う神経障害に介入したり阻止するのに適した時期が存在するかもしれないと考えた。「われわれはこれらの実験で、痛みが神経線維のワラー変性に最も密接に関連していることを見出しました」と博士は述べた。
痛みを伴う神経障害って??生理学者に見解をお伺いしたい。整形外科医には荷が重すぎる。
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http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_351.htm
Volvo賞を獲得したMats Gronblad医師らの研究は、椎間板ヘルニアと坐骨神経痛の炎症関与に関する有力な仮説に異議を唱えた(1996年、Spine掲載予定)。従来の研究では、ヘルニアを起こした椎間板組織には、健常組織に比べてホスホリパーゼA2(PLA2)がはるかに多く存在しており、このPLA2が坐骨神経痛に関連した炎症反応に重要な役割を果たしていると推定されていた。
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http://junk2004.exblog.jp/d2005-02-24