慢性疼痛とはなにか

心療内科初診の心得  〜症例からのメッセージ〜

関西医大教授 中井吉英 著         診療新社


慢性疼痛とはなにか

家族を治療対象とした心理療法に家族療法(システムズアプローチ)があります。慢性疼痛患者は、しばしば周囲を巻き込み、痛みが維持されてしまうようなシステムを形成してしまいます。周囲とは家族や医療スタッフ、会社や学校など、患者を取り巻くさまざまな環境システムです。システム論を用いた治療では、患者にとって最も影響力のある家族を治療対象とすることが多いため「システム論的家族療法」と呼ばれます。この治療法の姿勢は、家族の問題を見つけ治療していくのではなく、家族全体のもっている自然治癒力を引きだせるように援助することにあります。しかし、実際の治療では種々のシステムが想定されるので「システムズアプローチ」とも呼ばれています。 

システム論よりみた慢性疼痛

慢性疼痛の場合には、患者個人のレベルだけでなく周囲のシステムとの関係性について評価しなければなりません。図はシステム論よりみた慢性疼痛のメカニズムの概略図です。急性疼痛の場合は生理システムの乱れが病態の中心であるのは当然ですが、慢性疼痛になりますと、三つのシステムが互いに連鎖し合いながら病態を形成します。システム論では、原因-結果といった直線的、因果論的な見方をしません。さまざまなシステムの相互間の影響も含めた悪循環の連鎖として把握します。その意味では包括的な病態の把握であり、心身医学的でさえあります。治療をするときには、最もアプローチしやすく効果が期待できるシステムに焦点を合わせます。疼痛を持続させている悪循環の連鎖を緩和できれば、システムに本来存在している自然治癒力が働くため痛みが消失することになります。この章と次章にわたり、システム論的な考え方で、慢性疼痛について、症例を通してお話したいと思います。初診からその後の経過にわたってお話することになります。

加茂整形外科医院