栄養補助食品が脊椎分野で人気を博す?腰痛にグルコサミンを売り込む最新研究

Nutraceuticals to Sweep Spine Word? New StudyTouts Glucosamine for Back Pain


栄養補助食品の大流行が、脊椎分野にも波及しようとしているようである。腰痛治療に携わっている者はおそらく、患者が腰痛症状の軽減を願ってグルコサミンを始めとする栄養補助食品を多量に服用するものと予想すべきであろう。

これらの製品の製造業者は、さまざまな決定的とはいえないエビデンスに基づいてではあるが、膝や股関節の痛みに対してこれらの製品を使用することの宣伝に見事に成功した
(McAlindon et al.,2000を参照)。この成功を考えると、腰痛に関する分野は、魅力的な市場ターゲットのように思えるだろう。何しろ、米国だけでも、毎年推定8,000万人が腰痛に苦しんでいるのだから。

栄養補助食品は、直接的な医学的もしくは健康面での有益性を有する食品と定義されている。グルコサミンは、軟骨基質産生およびプロテオグリカン合成に関与するアミノ単糖類で、活況を呈している栄養補助食品の“シンボル”である。

グルコサミンの支持者は、グルコサミンは軟骨を保護する物質だと考えており、あるウェブサイトには“関節の潤滑油として働く”と記載されている。あまり研究の質は高くないものの多数の無作為研究で、グルコサミンは膝の変形性関節症(OA)に関する疼痛の効果的な治療法だということが示唆されている。支持者は、その有用な作用が脊椎の関節にまで及ぶという意見も述べている。

新規の研究

Philadelphiaで最近開催された米国リウマチ協会の年次総会で、ドイツおよびイタリアの研究者が、グルコサミン硫酸塩の経口投与が腰椎のOAに関係する腰痛の効果的な治療法であることを示す、最初の無作為研究を発表した。

「すでに、膝の変形性関節症について確立されているように、グルコサミン硫酸塩は、腰椎の脊椎関節症における疼痛および可動性の制限のコントロールにおいて、プラセボと比較して有意に優れた症状改善効果を示します。この作用は、投与後も持続します」と、Klaus Foerster博士らは述べている(Foerster et al.,2000を参照)。

この研究の結論は、明らかに暖昧なものとなっていた。しかし、膝での効果という実例がある以上、これらの知見は、腰痛に苦しむ何百万人もの患者のグルコサミンの使用をあおるのに十分だろう。

しかしながら、他の関節部位における栄養補助食品の普及状況を追跡してきたリウマチ専門医のJohn C. Kush博士は、腰痛患者は、おそらくエビデンスが蓄積されるよりも先を行っているだろうという意見を述べている。「腰痛治療に携わる医師は、グルコサミンの広大な新規市場を開
拓するこの研究について、心配する必要はありません。患者は、既にそれを服用しているのです」と、Kush博士はこともなげにいう。

関節炎の治療?

ドイツで行われた新規の無作為研究は、単なる腰痛ではなく変形性関節症による腰痛に対する、グルコサミンの効力を検討する目的で行われた。

Foerster博士らによれば、この臨床研究の目的は、腰椎の脊椎関節症の症状コントロールに関する経ログルコサミン硫酸塩の有効性および安全性を、6週間の投与プラス4週間の経過観察を行って、プラセボと比較して評価することにあった。研究を行ったのは、グルコサミン硫酸塩の製造・販売を行っているイタリアの製薬会社の社員である。

Foerster博士らは、腰痛があり、X線撮影において腰椎の椎間関節のOAに関する証拠が認められた患者92例(男性16例、女性76例;平均年齢64.2歳)に、無作為に2通りの投与のいずれかを行った:(1)500mgグルコサミン硫酸塩の1日1回投与を6週間;もしくは(2)同様の外観を有するプラセボの1日1回投与を同じ期間。研究は、二重盲検法を用いて行われた。治験責任医師にも患者にも、どちらが投与されているかは知らされなかった。

主要な結果評価基準

患者中心の治療のこの時代において不思議なことではあるが、この腰痛研究の主要な結果評価基準は、治験責任医師による被験者の全般改善度についての総合的判断であった。治験責任医師は、被験者の機能(運動および関節可動域)に関する限られた検査と、被験者が報告した疼痛レベルに基づいて、評価を行った。

治験責任医師は、グルコサミン群の被験者はプラセボ群よりも有意な治療効果を示したと結論した。「投与終了時の治験責任医師の総合的な判断によると、症状が“明らかに改善”もしくは“改善”したのは、グルコサミン硫酸塩を服用した患者では51.2%であったのに対して、プラセボを服用した患者では28%でした」と、Foerster博士らは報告している。これは、統計学的に有意な知見であった。

副次的な結果評価基準は、全般改善度についての被験者自身による評価であった。腰痛は自覚症状であるので、こちらのほうが治療結果についての、より妥当な評価であると思われる。

この評価基準によると、研究者らは、グルコサミン群において明らかな効果があったと誇らしげであった。研究者らは、「患者による総合的な評価の場合、改善率はさらに高く、67.5%対58.8%でした」という。しかしながら、研究者自身の統計解析法によれば、グルコサミン群における優位性は、紛らわしいものであった。これらの差は、統計学的に有意ではなかった。

では疼痛はどうか?やはり、驚くほどの結果ではなかった。「グルコサミン硫酸塩は、全ての疼痛パラメーターの重症度を顕著に低下させ、その一部は統計学的に有意でした。この作用は、6週間で投与を中止した後も維持されました。運動制限に関しても同様のパターンが認められました」と研究者は報告している。

方法論に関する欠点

では、この研究の方法論に関する欠点は何だろうかというと、まず、この研究が変形性関節症による疼痛を緩和するためのグルコサミンの効力に関する研究とされている点である。被験者の疼痛が椎間関節の変形性関節症に由来するとの証拠は、何ら提示されていなかった。

科学的研究によれば、60歳を超える無症状の被験者の半数以上において、画像スキャンで脊椎の変性変化が認められるという。この年齢層における腰痛の有病率は、毎年50%に近い。どの腰痛症例が、椎間関節における変性に起因したものなのか、そしてどの症例が、他の原因による
ものなのかを判断することは、不可能ではないにしても厄介な作業である。

解剖学者のNikolai Bogduk博士は、Medical Journal of Australiaの最近の論説で、「関節突起の[椎間関節の]関節痛および椎間板に起因する疼痛を、臨床的に診断することは不可能であり、せいぜい推測にすぎない」と、腰痛について妥当な診断を下す難しさについて述べている。続けてBogduk博士は、単なる変性の存在を疼痛のシグナルとみなすべきではないと指摘している。「椎間板変性、脊椎症および脊椎の変形性関節症は、疼痛とあまり相関せず、全く症状がみられないこともある……」(Bogduk,2000を参照)

総会の発表において、Foerster博士らが、精密な診断プロセス(コントロール注射等)を経て、患者の症状をX線撮影で確認されたOAと関連づけようとしたことを示すエビデンスはみあたらなかった。これらの患者の疼痛がOAに由来するものだという直接的なエビデンスはほとんどないと、推測せざるをえないだろう。

意外な結果評価基準

この研究で用いられた主要な結果評価基準、すなわち治験責任医師による全般改善度の評価には、問題があるように思われる。これは、炎症性関節炎の研究における伝統的な結果評価基準である。これらの研究では、治験責任医師が、炎症のある関節の数を数え、診察、検査をすることが多い。

腰痛の研究では、治験責任医師にはそれと同等の役割はない。腰椎の椎間関節を同じ方法で検査することは不可能である。そういったことから、腰痛の研究は一般的に、疼痛、障害度、機能およびQOLといった、患者中心の結果に頼ることになる。炎症性関節炎の研究でも、一般的
に、患者による治療結果の評価により、治験責任医師の評価は左右される。「興味深いことですが、双方の評価の間にしばしば矛盾がみられるでしょう。しかし、実際に価値があるのは患者評価だけだというのが真相です」とArthritis Foundationの医学ディレクターであるJohn H. KlipPel博士は述べている。

グルコサミンに関する新規研究の筆頭著者であるFoerster博士は、研究をもう一度デザインし直せるならば、おそらく患者による総合的評価を主要な結果評価基準とするだろうと認めた。「この方が、より現代的な結果評価基準です」と博士は述べた。

彼らがそのようにしていれば、この研究は、グノレコサミンは腰痛の効果的な治療法ではないという結論が出ていただろう。なぜなら、主要な結果評価基準は、グルコサミンには統計学的に有意な効果はなかったことを示唆したであろうから。

待ち続けた20年

理想的なことは、ごく近い将来に、質の高い無作為研究で、グルコサミンの、腰痛を軽減し脊椎の変形性関節症を緩和する能力についての検討が行われることである。これは、確かに重要な研究テーマである。「膝のOAの治療法としてグルコサミンが出現したことを考えると、それが脊椎
に有効かどうかと尋ねるのは当然の疑問だと思います」と、KliPPel博士はいう。

しかしながら、膝におけるグルコサミンの研究パターンが、脊椎についても繰り返されるとすれば、残念なことである。

何千万人もの患者が、十年以上にわたって膝のOAのためにグルコサミンを服用してきた。グルコサミンはほぼ30年間、膝の治療薬として研究されてきた。研究者らはほぼ20年間、この分野に関して無作為研究を実施してきた。

それにもかかわらず、独立した立場の研究者らにより、質の高い研究が実施されるようになったのは最近のことである。膝のOAに関するグルコサミンの最初の大規模な独立した無作為研究、すなわちNIHが依頼した、被験者1,000例を対象にした多施設共同研究が、現在進行中である。

患者およびその主治医らが、ありふれた疾患に対する一般的治療についての決定的な回答を得るために、非常に長く待たなければならないのは残念なことである。腰痛患者が、グルコサミンがプラセボより優れているのかどうかを判定するのに、さらに30年も待たされることがないよ
う望まれる。

参考文献:

Bogduk N, What'sinaword: The labeling of back pain, Medical Journal of Australia,2000;173:400-1.
Foerster KK et al., The effcacy of glucosamine sulphate in osteoarthritis of the lumbar spine, a placebo-controlled, randomized, double-blind study, presented at the annual meeting of the American college of Rheumatology, 2000,Philadelphia; as yet unpublished.

McAlindon TE et al., Glucosamine and chondroitin for treatment of osteoarthritis: A systematic quality assessment and meta-analysis, JAMA, 2000; 283(11): 1469-75. 

The BackLetter 15(12):133 140-141 2000, 


(加茂)

@グルコサミンが軟骨をよくする、Aグルコサミンが痛みに効く、これは別問題だと思う。

グルコサミンが痛みに効くのならその作用点、機序はどうなのだろう。「軟骨が良くなるので痛みがなくなる」このような説明ではだめなのです。

加茂整形外科医院