器質的な病気と機能的な病気

「心療内科の時代」   江花昭一 著   ちくま書房


心身症は、身体の病気のうち、心・行動と体の関係性、すなわち心身相関が認められる
ものであった。この心身症を理解するためには、身体の病気の二分法、すなわち器質的な
病気と機能的な病気という分類を知る必要がある。次にこの点を説明しよう。
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器質的な病態ないし病気とは、いつみても、誰がみても特定の場所に特定の病変を見出すことができるものをいう。たとえば消化性潰瘍の場合、まだ病気が治っていなければ、自覚症状が消えたとしても潰瘍の姿、組織の病変を確認することができる。逆にその姿を認めなくなれば病気が治ったといってよい。このようなものを「器質的」な病態ないし病気というのである。

これに対し、たとえば緊張型頭痛の場合、頭痛時には筋肉の緊張が認められるが、症状がないときには医学的問題は認められないことが多い。だが、医学的所見がないからといって病気が治ったとはいえず、いつ頭痛が襲うかわからない。このようなものを「働きによる」という意味で「機能的」な病態ないし病気という。

器質的な病気は機能的な病気より重症であることが多いし、専門的治療が必要なことが少なくない。そのため一般診療科では、器質的な病気だけが「まっとうな病気」とされ、機能的な病気は軽く扱われがちである。しかしそこに問題がある。器質的な病気を見落とさないために検査が必要以上に行なわれ、その病気が見つかったとなると心理や行動面の問題が無視されることになりやすいのである。その反対に、機能的な病気は「心因(心が原因一)」の一言で片付けられ、身体面は軽視されやすいのが現実である。

患者さんが感じる苦痛は器質的な病気でも機能的な病気でも同じであり、機能的だからといって軽視してよいものではないことは言うまでもない。また、器質的な苦痛であっても機能的な苦痛が加わっていることが多く、機能的な病気が診断できなければ器質的な苦痛への対応もできにくい。

それでは神経症と機能的な病気の違いは何か。

神経症においても身体症状はあるが、認められる変化は正常範囲内であり、機能的な病気は確認できない。逆にいえば神経症と診断するためには機能的な病気がないことを見分ける必要がある(機能的な病気に神経症の病態が加わることはよくある)。

心療内科では、心理的な要因が関係した病態を、身体の病気で心身相関を認める心身症と自覚症状のみの病態(神経症など)に分け、さらに心身症を器質的なものと機能的なものとに分けて検討している。器質的な心身症(気管支喘息、消化性潰瘍、狭心症、慢性関節リウマチなど)は、心療内科医がその領域の身体面の専門知識をもつ場合には心療内科だけで治療にあたるが、一般には専門的な診療科と併診(平行して診察)することが多い。機能的な心身症(過換気症候群、機能性消化不良症、過敏性腸症候群、本態性高血圧症、緊張型頭痛など)は、多くの場合心療内科が中心になって治療にあたっている。


(加茂)

「ヘルニアによる痛み」といわれているものは機能的疾患です。ヘルニアがあっても痛くない人もいるし、ヘルニアを取っても痛みやしびれが取れない人もいます。

器質的な病態ないし病気とは、いつみても、誰がみても特定の場所に特定の病変を見出すことができるものをいう。たとえば消化性潰瘍の場合、まだ病気が治っていなければ、自覚症状が消えたとしても潰瘍の姿、組織の病変を確認することができる。逆にその姿を認めなくなれば病気が治ったといってよい。このようなものを「器質的」な病態ないし病気というのである。

神経症は機能的疾患ではありません。つまり心身症ではありません。これはよく誤解されます。しかし、「機能的な病気に神経症の病態が加わることはよくある」ということですので、事実上「神経症」という診断は困難です。診断というより、医師の見解ということでしょうか。

加茂整形外科医院