最新研究:対話式ビデオプログラムで手術の実施率とコストが低下

Use of Interactive Videodisc Reduces Surgery Rate and Costs in New Study


ハワイで開催された国際腰椎研究学会(ISSLS)の年次総会において、手術をするかしないかの決定に患者が積極的に参加できる対話式ビデオプログラムが、2つの異なる臨床設定において大きなインパクトを与えたことが発表された。

Richard A.Deyo博士らは、患者171例を対象とした無作為研究において、手術の意思を決定する際の補助手段として対話式ビデオプログラムと教育パンフレットとの両者を比較した。Deyo博士は、椎間板ヘルニアではビデオを見た患者はパンフレットを読んだ患者よりも手術の実施率が31%低かったのです。さらに手術の実施率が低かったにもかかわらず、ビデオ群の治療成績は、パンフレット群とまったく同じでした」と述べた(Deyo et al.,1999)。

一方、脊柱管狭窄症では、ビデオで提示された術後予想、される治療成績に対して患者は異なる反応を示した。Deyo博士によると、「ビデオを見た脊柱管狭窄症の患者は、手術を受ける率は高かったものの、群間の差は統計学的に有意ではありませんでした」という。

対話式ビデオプログラムは患者に評判が良く、Deyo博士は「患者は、明らかにビデオ方式の方を好んでおり、同方式のほうがより情報を得られたと感じていました」と述べている。

また、現在、共同著者のJames N. Weinstein博士(Dartmouth大学)がShared Decision-Making center (Dartmouth)で同様のビデオプログラ'ムを使用中であるが、臨床現場での標準使用が容易であり、患者教育用ツールとして有望だとしている。脊椎に関する2種類のビデオプログラム(Maine Lumber Spine Studyによる最新情報が追加された)は、Health Dialog (Boston) 617-854-7440から入手できる。

決断への参加

医学界では、臨床の意思決定過程に患者を積極的に参加させる「Shared Decision Making(決断への参加)」への動向が拡がっている。

科学的な研究によって、Shared Decision Makingに関連するさまざまな利点が実証されている。Stephan H.Woolf博士はJournal of Family Practiceの巻頭言で「患者は自分の選択肢に関する情報が与えられることで満足度が高くなります。また、自分の治療に積極的に取り組む機会が与えられるとそれを快く受け入れます。この研究が示唆しているのは、患者がもっと説明を受けて治療法を選択できるようにすれば患者の情報量が増え、それによって臨床の治療成績が改善されるということです。そして、患者自身が本当に望む治療法が受けられるようになれば、費用のかさむ治療法がより合理的に利用されるようになります」と述べている(Woolf et al.,1997)。

症例の大多数では、脊椎手術を行うかどうかの決断は急がなくてもよい。よって、情報を与えられた患者が脊椎手術の危険性と効果を天秤にかけて、自分の判断に基づいて適切に選択するのが理想的だろう。

しかし、現実の臨床現場ではこの水準まで達しないことが多いうえ、患者の教育は困難である。腰痛に対する多くの手術ならびに手術以外の治療法に関する科学的根拠を簡単な言葉で説明するのは容易なことではない。医師は非常に忙しく、患者の教育にかかわる時間がないことが多い。

脊椎手術に関するビデオプログラム

対話式ビデオプログラムはShared Decision Makingプログラムの補助手段として一般的になってきている。Washington大学の腰痛治療成績評価チームの研究者らは最近の研究で腰痛手術に関する対話式ビデオプログラムについてデータをまとめ、Shared Decision Makingプログラム財団(Dartmouth)の研究者らと共同でビデオプログラムを制作した。

対話式ビデオプログラムでは、椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・椎間板変性疾患といった、さまざまな脊椎疾患情報が患者に提供される。プログラムには、さまざまな脊椎疾患の定義・解剖学的イラスト・手術療法あるいは非手術療法を受けて治療結果が良好な患者とそうではない患者とのインタビューが含まれている。年齢および診断を特定したうえで予想される治療成績や、各治療の根拠を患者向けに表にしたものなど、核心部分と多くの補足説明から構成されている。

Deyo博士らは、Iowa大学の学術脊椎センターとstaff-model HMO(Washington州Seattle)の2つの施設で、対話式ビデオプログラムと、(通常の脊椎治療法の補助手段として)文章で書かれた教材の比較研究を行った。

博士らは、脊椎手術を受ける可能性のある患者393例を、「教育パンフレットのみ」、または「教育パンフレット+対話式ビデオプログラム」のいずれかに無作為に割り付けた。その内訳は、椎間板ヘルニア170例、脊柱管狭窄症110例、その他の疾患112例である。

研究者らは、手術適応が明らかな患者はすべて除外した。また、腰椎手術の既往を有する患者、手術の危険性が高い患者、基礎疾患として感染症または重篤な疾患のある患者も除外した。

研究者らは、3ヵ月後と1年後に質問票を郵送して、疼痛・身体機能・就労不能・患者の満足度といったさまざまな治療結果について評価した。

より低い手術実施率

ビデオ群の患者では全体的に手術実施率が低く、パンフレット群との差が36%〜27%だった。もっとも影響の大きかったのはビデオ群の椎間板ヘルニア患者群で、この手術実施率はパンフレット群よりも31%も低かった。

脊柱管狭窄症の患者ではビデオ群の患者の手術率は高くなる傾向があった(ビデオ群39%、パンフレット群29%)が、統計学的有意差には達しなかった。他の診断の患者では手術率が低い傾向が見られたが、統計学的有意差はなかった。

両群の治療成績は相似

ビデオ群の手術率は低かったが、これによる総合的な治療成績の低下はみられなかった。Deyo博士は「平均すると手術以外の治療法を選択した患者は、自分め判断のために苦痛を味わうことはなかったようです」としている。両群において、疼痛の改善・機能的状態・フルタイムで働く患者の割合・労災申請の確率・下肢痛の重症度・失業の見込みに関しては、統計学的有意差はなかった。

コスト面で500ドルのメリット

研究者らは、SeattleのHMO施設においてのみ上記2群の総費用を算出した。Deyo博士は「ビデオ群の総費用は、パンフレット群よりも約500ドル安くなりました」と述べ、ビデオプログラムによる費用の節約は、その地域の手術率と手術を考慮している患者の疾患の割合によって、施設毎に異なるであろうと予測している。

この種のプログラムの奏効率を評価するのにぴったりの基準はない。これは、心に留めておいた方が良いだろう。意思決定過程の最終目標は、個々の患者の目標とリスク忍容度に基づき、患者にとって適切で理にかなった選択を行うことであり、これを単純に最適手術率やコスト計算式で表すことはできない。

しかし、この研究の肯定的な結果、すなわち手術率が低下しても治療成績は低下せず、大幅な費用節約となり、そして新しい媒体に患者が熱心であることを総合すると、対話式ビデオプログラムは臨床治療の補助手段として有益かもしれない。臨床現場での反応がこのツールに対する最終的な判決を下すであろう。

この研究の肯定的な結果を総合すると、対話式ビデオプログラムは価値ある手段かもしれない。


参考文献:

Deyo RA et al., Involving patients in clinical decisions: Impact of an interractive video program on outcomes and use of back surgery, presented at the annual meeting of the International Society for the'Study of the Lumbar Spine, Hawaii, 1999; as yet unpublished. 

Woolf SH, Shared decision-making : The case for letting patients decide which choice is best, Journal of Family Practice, 1997; 45(3):205-9.

 
The BackLetter 1999・14 (8) ・85 94 . 

加茂整形外科医院