腰痛の診断と治療のアルゴリズム

菊地臣一   福島医大整形外科教授

日本整形外科学会学術集会 抄録集


EBM(evidence-besedmedicine)の導入とともに、腰痛診療に大きな変化が起きつつある。それは、「脊椎の障害」から「生物、心理、社会的疼痛症候群」、「形態学的異常」から「形態、機能障害」、そして「self limitedで予後良好」から「生涯に渡り再発を繰り返す」という概念の転換である。一方、治療を受ける側である国民の医療への認識の変化や質の高いQOLへの期待から、治療成績評価基準も変革を余儀なくされている。それは、「客観性重視」から「主観性重視」、そして「医師側の評価」から「患者の視点に立った評価」といった転換である。

このような腰痛をめぐる環境の変化は、診断や治療の進め方に変化を及ぼしつつある。患者の求める腰痛の診療体系とは、ScienceであるEBMと医師の経験や理念といった、言葉でしか表せないartというNBM(narrative-based medicine)の結合であるといえる。誰でも、どこでも、何時でも質の高い一定の医療が受けられる手段として、診療ガイドラインが作成されている。それは、EBMに基づくアルゴリズム(一定の型の問題を解くための特定の操作手法)で作成されている。診断のポイントは、重篤な病態の鑑別と安心感の保証にある。治療では、治療手段としての安静の排除、治療の目的を「鎮痛」ではなく、「速やかにもとの健康な状態への復帰」に置くこと、そして心理・社会的因子への配慮である。このような内容を診療現場で実践しようとすれば、各診断手技の信頼度を意識して診察を行い、患者のQOLや満足度を重視して、患者と話し合って治療方針を決定することが望ましい。治療の基本は、集学的・多面的アプローチとなる。このようなアルゴリズムに添った腰痛の診療体系が治療成績や患者の満足度を向上させることが期待される。

 

腰痛坐骨神経痛治療アルゴリズム導入の効果

勝尾信一(福井総合病院整形)、林正岳、水野勝則、荒川仁、江原栄文、宗広鉄平

第76回日本整形外科学会学術集会の抄録集より


当院では腰椎変性疾患による入院患者に対し腰痛坐骨神経痛治療アルゴリズムを導入した。アルゴリズムの導入により、狭窄症の入院が増加し、保存的治療奏功例が増加し、保存的治療入院期間が短縮した。また狭窄症では、導入前は手術群の入院時日整会スコアが有意に低かったが、導入後は保存群と差がなくなった。従ってアルゴリズムを規定することにより、集中的な保存的治療が行われ奏功したと考えられ、アルゴリズムは有用である。

加茂整形外科医院